38、剣は、口よりも多くを語る
「アイツは、ちょっと変わってるんだよ。しかも粘着質だ。困ったことになったな」
「変わってるって、どういう風に?」
「これをローズに言ってもいいのか、俺には判断できねぇ。所長に相談してからにする」
ドキン!
(所長って言われただけで、なぜ? まさか……)
私は、前世の記憶を思い出したことで、自分の心の動きがわかるようになった。アマゾネスとして育った私には気づかないだけで、前世と同じく恋愛感情は普通に持っていたのだ。
女尊男卑の国、アマゾネスの女性は、種族的に恋愛感情など持たない。でも、私は転生者だから、異質なようだ。
(アマゾネス失格だと言われるかしら…)
「あの人、ヒューズさんだっけ? こないだ、女の人に踏まれたいって言ってましたよ。生きてるって実感するんだって。人族って、よくわからないよ」
「あわわわ……ルーク……言っちゃったか。いや、アイツがおかしいだけなんだよ。人族がみんなあんなのだとは思わないでくれ」
「はい、わかりました」
「女に踏まれたいって? なるほどね、だからアマゾネスだとマズイのね。踏んでくれって言われそうだわ」
「あれ? ローズ、なんだか雰囲気が変わったな。うまく言えないけど、表情がやわらかくなったというか…。そんなことを言われたら、斬り殺しそうだったのに」
(……否定はできないわね)
私は、曖昧な笑顔を浮かべた。
「アルさん、ローズさんの封印が解除されていますよ。前世の記憶を思い出したから、価値観が変わったのではないでしょうか」
「えっ!? ローズ、いつの間に?」
「昨夜から今朝にかけて、かしら。あの幻術士さんが、解いてくれたわ。簡単じゃなかったそうだけど」
私の封印が解けた話あたりから、クラスメイトが揃ってきた。さっきはこの場にいなかった、シャラさんとノーマンがホールに入ってきた。
「きゃ〜! ローズさん、封印が解けたの? よかったぁ〜! のかな?」
「ええ、ありがとう、シャラさん」
「それで、魔法は使えるようになったんだろうな」
「まだ、使い方はわからないわ」
「なんだ? そんな中途半端なことで、クラスメイトにチヤホヤされて喜んでいるのか」
「ノーマン、おまえ、なぜローズに突っかかってばかりなんだ? 種族のことでそんな態度をとるなら、それは差別だぜ?」
「イラつくんだよ。男を卑下した目で見られるとな」
私は、男だからという理由で卑下しようとする感覚は、もうほとんどなくなっている。もちろん、アマゾネスとしての誇りは当然、今も持ち続けている。だが、許容範囲がかなり広がったような気がする。
ノーマンは、なぜ、そんなに私に突っかかってくるのか? 以前の私には気にもならなかったことだが、今は少し興味がある。
(男尊女卑の種族だから、ということかしら)
「別に、私は理由もなく卑下することはないわ。なぜそう感じるのか、少し興味があるわね。自分に自信がないからかしら?」
「なんだと? おまえ、女のくせに調子に乗りやがって」
「おい、もうやめとけ。こんな場所で派手なケンカをしてると、手合わせを挑まれるぜ? ノーマン、どっちも評価Eだよな」
「アル、誰に挑まれても負けるわけない。俺は…」
「ここでは結界は使えないですよ、ノーマンさん。ほら」
そう言うと、ルークは手から天井に向かって小さな火の玉を飛ばした。すると、何かにかき消されるように、火の玉は空中で消滅した。
「大規模な魔法なら発動さえできません。じゃないと、熱くなった人達に、建物が吹き飛ばされてしまうからでしょうね」
「身体強化の魔法も使えないのか?」
「それくらいなら大丈夫じゃないか。建物に保護結界と、マナを消し去る特殊な分解魔法が付されているみたいだぜ」
「ふん」
このホールは、剣術、武術の練習場のようだ。あちこちで、小グループができていて、手合わせをしたり、号令に合わせて剣を振ったりしている。
私は、中学生の頃は、剣道部に入っていた。ほんの半年だけで辞めてしまったんだけど…。
前世の記憶と共に、いろいろなことを思い出した。剣道だけではない。テレビで見たフェンシングも、この世界の剣術に取り入れることが出来そうだ。
(ちょっと試してみたいわね)
「ローズさん、俺でよかったら、手合わせしましょうか?」
「ルークさん、また思念が漏れたかしら…。 嬉しいけど、私は評価Cだったわよ」
「じゃあ、俺が相手する…」
「アルさんも、俺と変わらないじゃないですか〜」
「ローズの剣を見てみたいんだよな。アマゾネスの騎士のチカラを知りたい」
「じゃあ、見学しておいてくださいよ、俺が〜」
なぜか、私と手合わせをしたい二人が譲らない。なんだかモテ期到来ね。あ、モテ期だなんてつまらないことを考えていると、アマゾネス失格だわ。
私は、ふとわいてくる感情と、アマゾネスとしての感覚の、ギャップの調整がまだうまくできない。
「へぇ、じゃあ、オジサンが手合わせをしてもらおうかな」
ドキン!
「えーっ、なんで所長が学校に来てるんですかー」
「ふふっ、Sクラスの皆さん、おはようございます。ちょっと用事のついでに覗いてみたんですよ。スカウトも兼ねてね」
「所長〜、それはギルドに頼むことですよー」
(スカウト? 探偵事務所のスタッフかしら)
「まぁまぁ。俺も、アマゾネスの騎士のチカラには興味があるからね。ローズさん、お相手をしていただけませんか?」
「ええ、構わないわ。私も試してみたいことがあったのよ」
「では、模擬剣を、どうぞ」
「ありがとう」
所長は、やわらかな笑みを浮かべていた。私は、彼が剣術ができるとは思っていなかったから、少し意外だった。だが、模擬剣を持つ彼には全く隙がない。
(かなり、できるわね)
私は、模擬剣を構えた。アマゾネスで使っていた物とは違い、少し重い。この重さではスピードが出せない。
そう思った瞬間、ふわっと身体が軽くなった。
(一体どういうこと? 私がもしかして…)
「へぇ、まだマナの循環が出来ないと聞いていましたが、補助魔法を発動できましたね。遠慮なくどうぞ」
タン!
私は、地を蹴った。身体が軽いが、スピードに目がついていかない。フワンと、また私のカラダを魔力が流れた。すると、目が動きを追えるようになった。
ガチン! キン!
力の限り打ち込んだ剣を、彼は簡単に受け、そしてはじき返した。
私はすぐさま、体勢を立て直した。彼の左側に一瞬フェイントをかけ、右側からザッと横に振り抜いた。
(まさか、避けられた?)
彼はギリギリのところで、スッと、かわしたのだ。私の剣は、空を切った。
「おっと、あぶない。ローズさん、フェイントなんて、ズルイですよ〜」
「ふふ、勝負にズルイも何もないわ」
「いい目をしていますね。なるほど、そういうことですか。アマゾネスは戦闘民族なのですね」
「ええ、そうよ」
私は再び、剣を打ち込んだ。剣道の要素をアレンジしてみた。
キィン!
彼は、私の剣を受け流した。
(楽しい!)
どこに打ち込んでも、彼は受け止めてくれる。なんだか、そんな安心感のようなものさえ感じた。
(やはり、そうだわ)
キン! キィン
「じゃあ、そろそろ俺からも攻めようかな」
そう言うと、彼は、ガチンと打ち込んできた。重い剣だ。あやうく模擬剣を落としそうになったが、必死に耐えた。
「へぇ、今のを受けられるとは思ってなかったですよ〜」
彼は、ニカッと子供のように笑った。
ドクン!
そして、あっという間に、間合いを詰められ、下から斜め上にすくい上げるように振られた剣で、私の手から模擬剣が飛ばされてしまった。
「あっ! はぁ、もう」
「ふふっ、ローズさん、ありがとうございました。とても楽しかったですよ」
「こちらこそ」
(私は、やはり、彼のことが好き…………どうしよう)




