表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/124

38、剣は、口よりも多くを語る

「アイツは、ちょっと変わってるんだよ。しかも粘着質だ。困ったことになったな」


「変わってるって、どういう風に?」


「これをローズに言ってもいいのか、俺には判断できねぇ。所長に相談してからにする」


 ドキン!


(所長って言われただけで、なぜ? まさか……)


 私は、前世の記憶を思い出したことで、自分の心の動きがわかるようになった。アマゾネスとして育った私には気づかないだけで、前世と同じく恋愛感情は普通に持っていたのだ。


 女尊男卑の国、アマゾネスの女性は、種族的に恋愛感情など持たない。でも、私は転生者だから、異質なようだ。


(アマゾネス失格だと言われるかしら…)



「あの人、ヒューズさんだっけ? こないだ、女の人に踏まれたいって言ってましたよ。生きてるって実感するんだって。人族って、よくわからないよ」


「あわわわ……ルーク……言っちゃったか。いや、アイツがおかしいだけなんだよ。人族がみんなあんなのだとは思わないでくれ」


「はい、わかりました」


「女に踏まれたいって? なるほどね、だからアマゾネスだとマズイのね。踏んでくれって言われそうだわ」


「あれ? ローズ、なんだか雰囲気が変わったな。うまく言えないけど、表情がやわらかくなったというか…。そんなことを言われたら、斬り殺しそうだったのに」


(……否定はできないわね)


 私は、曖昧な笑顔を浮かべた。


「アルさん、ローズさんの封印が解除されていますよ。前世の記憶を思い出したから、価値観が変わったのではないでしょうか」


「えっ!? ローズ、いつの間に?」


「昨夜から今朝にかけて、かしら。あの幻術士さんが、解いてくれたわ。簡単じゃなかったそうだけど」


 私の封印が解けた話あたりから、クラスメイトが揃ってきた。さっきはこの場にいなかった、シャラさんとノーマンがホールに入ってきた。


「きゃ〜! ローズさん、封印が解けたの? よかったぁ〜! のかな?」


「ええ、ありがとう、シャラさん」


「それで、魔法は使えるようになったんだろうな」


「まだ、使い方はわからないわ」


「なんだ? そんな中途半端なことで、クラスメイトにチヤホヤされて喜んでいるのか」


「ノーマン、おまえ、なぜローズに突っかかってばかりなんだ? 種族のことでそんな態度をとるなら、それは差別だぜ?」


「イラつくんだよ。男を卑下した目で見られるとな」



 私は、男だからという理由で卑下しようとする感覚は、もうほとんどなくなっている。もちろん、アマゾネスとしての誇りは当然、今も持ち続けている。だが、許容範囲がかなり広がったような気がする。


 ノーマンは、なぜ、そんなに私に突っかかってくるのか? 以前の私には気にもならなかったことだが、今は少し興味がある。


(男尊女卑の種族だから、ということかしら)


「別に、私は理由もなく卑下することはないわ。なぜそう感じるのか、少し興味があるわね。自分に自信がないからかしら?」


「なんだと? おまえ、女のくせに調子に乗りやがって」


「おい、もうやめとけ。こんな場所で派手なケンカをしてると、手合わせを挑まれるぜ? ノーマン、どっちも評価Eだよな」


「アル、誰に挑まれても負けるわけない。俺は…」


「ここでは結界は使えないですよ、ノーマンさん。ほら」


 そう言うと、ルークは手から天井に向かって小さな火の玉を飛ばした。すると、何かにかき消されるように、火の玉は空中で消滅した。


「大規模な魔法なら発動さえできません。じゃないと、熱くなった人達に、建物が吹き飛ばされてしまうからでしょうね」


「身体強化の魔法も使えないのか?」


「それくらいなら大丈夫じゃないか。建物に保護結界と、マナを消し去る特殊な分解魔法が付されているみたいだぜ」


「ふん」



 このホールは、剣術、武術の練習場のようだ。あちこちで、小グループができていて、手合わせをしたり、号令に合わせて剣を振ったりしている。


 私は、中学生の頃は、剣道部に入っていた。ほんの半年だけで辞めてしまったんだけど…。

 前世の記憶と共に、いろいろなことを思い出した。剣道だけではない。テレビで見たフェンシングも、この世界の剣術に取り入れることが出来そうだ。


(ちょっと試してみたいわね)



「ローズさん、俺でよかったら、手合わせしましょうか?」


「ルークさん、また思念が漏れたかしら…。 嬉しいけど、私は評価Cだったわよ」


「じゃあ、俺が相手する…」


「アルさんも、俺と変わらないじゃないですか〜」


「ローズの剣を見てみたいんだよな。アマゾネスの騎士のチカラを知りたい」


「じゃあ、見学しておいてくださいよ、俺が〜」


 なぜか、私と手合わせをしたい二人が譲らない。なんだかモテ期到来ね。あ、モテ期だなんてつまらないことを考えていると、アマゾネス失格だわ。


 私は、ふとわいてくる感情と、アマゾネスとしての感覚の、ギャップの調整がまだうまくできない。



「へぇ、じゃあ、オジサンが手合わせをしてもらおうかな」


 ドキン!


「えーっ、なんで所長が学校に来てるんですかー」


「ふふっ、Sクラスの皆さん、おはようございます。ちょっと用事のついでに覗いてみたんですよ。スカウトも兼ねてね」


「所長〜、それはギルドに頼むことですよー」


(スカウト? 探偵事務所のスタッフかしら)


「まぁまぁ。俺も、アマゾネスの騎士のチカラには興味があるからね。ローズさん、お相手をしていただけませんか?」


「ええ、構わないわ。私も試してみたいことがあったのよ」


「では、模擬剣を、どうぞ」


「ありがとう」


 所長は、やわらかな笑みを浮かべていた。私は、彼が剣術ができるとは思っていなかったから、少し意外だった。だが、模擬剣を持つ彼には全く隙がない。


(かなり、できるわね)



 私は、模擬剣を構えた。アマゾネスで使っていた物とは違い、少し重い。この重さではスピードが出せない。


 そう思った瞬間、ふわっと身体が軽くなった。


(一体どういうこと? 私がもしかして…)


「へぇ、まだマナの循環が出来ないと聞いていましたが、補助魔法を発動できましたね。遠慮なくどうぞ」



 タン!


 私は、地を蹴った。身体が軽いが、スピードに目がついていかない。フワンと、また私のカラダを魔力が流れた。すると、目が動きを追えるようになった。


 ガチン! キン!


 力の限り打ち込んだ剣を、彼は簡単に受け、そしてはじき返した。


 私はすぐさま、体勢を立て直した。彼の左側に一瞬フェイントをかけ、右側からザッと横に振り抜いた。


(まさか、避けられた?)


 彼はギリギリのところで、スッと、かわしたのだ。私の剣は、空を切った。


「おっと、あぶない。ローズさん、フェイントなんて、ズルイですよ〜」


「ふふ、勝負にズルイも何もないわ」


「いい目をしていますね。なるほど、そういうことですか。アマゾネスは戦闘民族なのですね」


「ええ、そうよ」


 私は再び、剣を打ち込んだ。剣道の要素をアレンジしてみた。


 キィン!


 彼は、私の剣を受け流した。


(楽しい!)


 どこに打ち込んでも、彼は受け止めてくれる。なんだか、そんな安心感のようなものさえ感じた。


(やはり、そうだわ)


 キン! キィン


「じゃあ、そろそろ俺からも攻めようかな」


 そう言うと、彼は、ガチンと打ち込んできた。重い剣だ。あやうく模擬剣を落としそうになったが、必死に耐えた。


「へぇ、今のを受けられるとは思ってなかったですよ〜」


 彼は、ニカッと子供のように笑った。


 ドクン!


 そして、あっという間に、間合いを詰められ、下から斜め上にすくい上げるように振られた剣で、私の手から模擬剣が飛ばされてしまった。


「あっ! はぁ、もう」


「ふふっ、ローズさん、ありがとうございました。とても楽しかったですよ」


「こちらこそ」


(私は、やはり、彼のことが好き…………どうしよう)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ