37、心配性な寮長と、変な案内係
「ローズ様ぁ〜、ミューにはあの女性が何を話していたかわからないです。教えてください〜」
「そうね、日本語だったからね。幻術士さんはなぜわかるの? 日本語を知っているの?」
「あぁ、日本には何度か行ったからな。まぁ、時代は昭和だったようだが」
「じゃあ、地球が消滅してしまったら、あなたも地球に行けなくなって困るのよね? 無茶振りに協力…」
「俺は困らない。俺が行く時代の地球はあるからな。買い物も困らない。だから、おまえも、気にする必要はない」
「あなたには、地球は救えないってことかしら?」
私はあえて、挑発的に話した。プライドの高い彼のことだ。普通に聞くよりも効果があるはずだ。
ミューは、私達の会話から状況を把握しようと、ジッとこちらを見ていた。
「ふん、小娘、それで俺を挑発しているつもりか。はぁ、ガキには付き合っていられない」
「できないということね?」
すると、幻術士はカチンときたらしい。
「おまえ、少しは自分の頭を使って考えてみろ。神々の戦争をどうやってやめさせるんだ? どの次元、どの時間軸での戦争かさえもわからない。奴らは時空を超えながら戦っているのだからな」
(そ、そんなの、私には想像さえできないわ)
私が黙ると、幻術士は小さなため息をついた。
「おい、マナを循環させてみろ」
「えっ? どうやって…」
「何も遮断するものはない。もう魔法を使えるはずだ」
私は手先にマナを集めることはできたが、循環なんてできない。今まで、できなかったことだから、やり方がわからない。
「まぁ、学園で誰かになんとかしてもらえ。俺の仕事はここまでだ。じゃあな」
「えっ……あ!」
お礼を言おうと思ったのに、もう幻術士の姿はそこにはなかった。おそらく、かなりの労力をかけさせてしまったようだ。キチンと礼を言うべきだった。
「ミュー、お礼を言えなかったよ」
「また、会ったときでいいんじゃないですかー」
私は、日本語で何が語られたのかをミューに話した。ミューは驚き、そして幻術士と同じことを言った。
「ローズ様は気にしなくていいと思います。星が消滅してしまう事故は少なくないですし、何より、そんな神々の戦争を止めることなんて、できませんよ…」
「そうよね。私にも、手段なんて想像もつかないわ。でも、私が忘れないようにと、右肩の焼印が…」
「ローズ様だけじゃなく、数百人に封印が施されたなら、誰かがなんとかしてくれるかもしれませんよ。ローズ様はただの人族なんですから、無理ですよ」
「確かに、もっとチカラのある種族に転生した人なら、可能かもしれないわね。私には、どうすればいいのかさえ、何もわからないわ」
「ローズ様、考え事より、今日は学校あるんじゃないですか? 遅刻しますよ」
「そうね。あ! ギルドの冒険者カードは…」
「そっちは、学校が終わってからで大丈夫ですよー。たぶん数日は普通に置いておいてくれますよ」
「わかったわ。魔法学園に行ってくるわ」
「じゃ、ミューは、宿に戻って寝ます〜」
「ミュー、心配してずっとそばにいてくれたのよね。ありがとう」
「あれ〜? なんだかローズ様が、素直で怖いですぅ」
「もう、ミュー!」
「ひゃっ! やっぱ、いつもの怖いローズ様でした〜」
(ミューなりの気遣いなのかしら?)
ミューは、キャハハと笑って手を振り、宿のある通りへと、バタバタと走り去った。
私達がバーから出ると魔道具が作動していた。シャッター代わりかしら? 不思議な魔道具が多くて戸惑ってばかりね。
(そういえば、寮長は魔道具科だと言っていたわね)
私は、寮で会った親切な男のことを思い出した。あのときの私と今の私では、当たり前だけど、随分と物事の捉え方が変わってしまったと思う。
アマゾネスのローズとしては、男は下等な生き物だと見ていたが、元日本人の美優としては、対等な存在だ。
なによりも、この点の頭の整理が一番難しいような気がする。まぁ、自分の感覚通りに生きるしかないのだけど…。
「おっ! おまえ、昨夜、寮に戻ってこなかっただろー。どこ行ってたんだよ、心配したじゃねぇか」
学園の門をくぐると、まるで門番かのように寮長がいた。
「あ、寮長、おはようございます」
「お、おう。おはよう。ローズ、寮に戻らないときは掲示板に書いておけよ。ギルドに問い合わせたら、夕方に取りに来るはずの冒険者カードを取りに来ていないって聞いたから、何かあったのかと焦ったぞ」
「え? そんなルール、知らなかったから…。ごめんなさい」
「あ、いや、別にそんな顔をされると…」
何? 寮長ってこんな人だったかしら? なんだか、もぞもぞしているというか…。まぁ、いいか。
「次からは気をつけるわ」
「あぁ、そうしてくれ」
寮長は、他の人にも声をかけていた。どうやら、本当に門番をしているようだ。
校内に入って私は、どこへ行けばいいのかわからないことに気づいた。案内板も標識もない。まぁ、当然ね。
キョロキョロとしていると、左腕に腕章をつけた男に声をかけられた。
「新入生かな? もしかして、迷い子?」
「はい。どこへ行けばいいのかわからなくて…」
「クラスは? 学生証、持ってる?」
「ええ、持っているわ」
私は、彼に学生証を見せた。
「50ー2期生、ローズさんだね。おっと、Sクラスか」
「50ー2期生?」
「あー、この数字ね。学園設立50年目の秋入学ってことだよ。入学は、春秋冬の年3回あるからね。冬は人族の入学はないんだけど」
「へぇ、学生番号か何かだと思っていたわ」
「そういう所に気づいてるって、ローズさんはすごいね。座学でSクラス入りかな?」
(普通のことじゃないの?)
「ええ、そうよ」
「俺はヒューズ。同じ授業を受けるときはよろしくね。ここだよ、同じクラスメイトは、いるかな?」
歩きながら雑談をしている間に、ドームのような場所に着いた。中を覗くと、アルフレッドとルークが、剣術の手合わせをしていた。
(二人とも本気じゃないのに、速いわね)
「おっと、もしかしてあの少年も、クラスメイト?」
「ん? ルークのことかしら?」
「そう、確かそんな名だった。大魔王の直系の子孫だよな。まだあんな子供なのにすごいな」
「有名人なの?」
「そりゃそうだよ。あの子の父親は、この街の長の主君だからねー。みんな注目している」
「そう。でもなんだか、そういう見方ってどうなのかしら? 彼の家族じゃなく、彼自身を見てあげるべきだわ」
「へぇ、おまえ、いい女だな」
「は? どういう意味?」
「いや、そんな睨まないでくれよ。悪意はない。いや、むしろ…」
そのとき、スッと誰かが近寄ってきた。
「おまえ、ルーク様に取り入るだけじゃなく、小娘にまで媚を売るのか。アマゾネスは確かに豊かな国だからな」
(相変わらず、暗いわね……なぜ国をバラすのかしら)
「まじ? ローズさんって、アマゾネス!?」
「ええ、そうよ」
「この小娘は、次期女王だそうだ。おまえのモノにはならないだろうな」
「アマゾネスだから、そんなに凛としているんだな。いい! めちゃくちゃいい!」
(なんだか、気持ち悪いわね)
「何してるのー、タクト。またケンカじゃないよね」
手合わせをやめて、ルークがこちらへ走ってきた。
「げっ! じゃあ、案内はこれにて失礼するよ」
そう言うと、ヒューズは逃げるようにホールから出て行った。
「はぁ、ローズ、絡まれたか? 大丈夫か?」
ルークの後ろから、アルフレッドが歩いてきた。
「大丈夫よ、もしかしてアルフレッドの知り合い?」
「あぁ、王宮に仕える貴族の息子だよ。アイツ、たぶん、ローズにロックオンしたぜ。厄介だな…」
「どういうこと?」
「まさか、ローズの国のこと、言ってないだろうな?」
「タクトさんが…」
「おいおい、タクト…」
「隠すことではない」
(な、何?)




