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33、再び探偵事務所へ

 私達は、ギルドの登録者カードの発行を待つ間に、探偵事務所へ行くことになった。


 私は城壁内をぐるりと見渡して、レトロな喫茶店を探した。確か、あのバーの反対側よね。あのバーからは一番遠い場所にあったような気がする。


 あの居心地の良いバーは、横に併設された銅貨1枚ショップに人が殺到しているので、場所はすぐにわかった。

 そういえば、銅貨1枚ショップって、100円ショップよね? 貧乏学生の強い味方だわ。あれ? 100円ショップ? また、変な言葉が頭に浮かんだわね。


(今は、探偵事務所を探さなきゃ)


 でも、塔の前から見渡してみても、探偵事務所がどこにあるのか、わからなかった。


「ミュー、あのバーの反対側にあったはずなんだけど、見つけられないわ」


「あー、認識阻害の魔道具が使われているんだと思いますぅ。探偵事務所はどこも大抵、そうしてますから」


「ん? どういうこと?」


「秘密の相談をするのときに、探偵事務所に入って行ったことが見えると、マズイじゃないですかぁ。だから、遠くからだと見えてるんだけど、脳が気づかないようにしてあるんですよー。遠視対策ですねー」


「へぇ」


「すぐ近くまで行けば、普通に見えますよ。あっち側にイケメンがいるんですね。さ、さ、行きますよー」


 ミューは、本当にイケメン探偵を見たいのか、もしくは私に気を遣ってそんなフリをしているのかはわからなかった。



 私達が城壁内の広場を歩いていると、突然キャ〜ッと騒ぐ子供達の声が耳に飛び込んできた。私は一瞬、警戒したが、ミューは平気な顔をしている。


「なんの騒ぎかしら?」


「ん〜、足湯で水泳大会でもしているんじゃないですかー? あんな温い水の中で泳ぐなんて、ミューにはできませんけど」


「ふぅん」


 確かに、足湯と呼ばれる大きな人工的な泉は、子供なら泳ぐことも可能だろう。人だかりがすごくて、泉の様子は、私には見えなかったが…。



「あ、あの喫茶店だわ」


 城壁に近づくと、なんの店だかわからなかった所が、レトロな喫茶店だと気づいた。


「たぶん、飾ってある鉢植えの植物に、魔道具が仕込んであるんだと思いますよー」


「そういえば、店の角に置いてある鉢植え、鉢が不自然に大きいわね」


 それに、あんな端っこに置いては、飾りとしての観葉植物としての意味がなくなる。鉢の中に認識阻害の魔道具が入ってるのね。


 私は鉢の中を覗いてみた。でも、特に変わった様子はない。


「ミュー、特に何もないわよ?」


「小さな箱みたいなのがないですかぁ?」


「土の中に埋まっているのかしら?」


「むむむ、それでは効果がなくなりそうですぅ」


 私は、ミューと、植木鉢をあちこち観察……いや捜索していた。


(魔道具なんて、ないわよ?)



「ふふっ、何をしているのかな? 探し物?」


 ドクン!


(えっ? なぜか妙な痛みが…)


 顔を上げると、探偵事務所の所長が、楽しそうな顔をして、私達の方を見ていた。


「あっ! 所長さん、こんにちは」


「ローズさん、こんにちは。どうされましたか? 落とし物ですか?」


「いえ、あの、えーっと…」


(どうしよう、魔道具を探っていただなんて言えない)


「あれ? ローズ様、先生とお知り合いですかぁ?」


「へ? 先生?」


「よくわかりましたね。変装しているんですけどね〜」


「眼鏡を変えただけじゃないですかぁ」


「髪色も変えてるんですけどね」


「ん? ミューが会ったときはいつも黒髪でしたよ?」


「茶髪じゃなかったでしたっけ?」


「ん〜、かもしれない〜」


 ミューが親しげに、先生と呼んでいるけど…? そういえば、あの幻術士は、探偵ごっこと言っていたわね。もしかすると、本職は別にあるのかしら? もしくは、最近、探偵に転職した?


「ローズ様、先生は、ミューが学園に通ってたときの算術の先生なんですよ」


「えっ? 所長さんは本職は教師なんですか」


「いえ、教師は、俺が仕えている主人の仕事なんですが、主人に別の仕事が入ると、押し付けられるんですよ」


「仕えている主人? 主君がいるんですか? 神族だと聞いたけど……あ! もしかして女神様?」


「ええ、神族ですが、主人は女神様じゃないですよ。女神様にも用事を頼まれることはありますけどね」


「じゃあ、本職は…」


「もちろん、探偵ですよ。と言っても、まだ10年くらいしかやっていないヒヨッコですけどね」


「そうなんですね」


「あー!! ローズ様、もしかしてイケメンって、先生のことなんですかー? なーんだ、ミューが知ってる人じゃないですか〜」


「ちょ、ちょっと、ミュー!」


「ふふっ、ローズさんにイケメンだと言ってもらえるなんて、光栄ですね〜」


 そう言うと、所長は、いたずらっこのようにニカッと笑った。


 ドクン!


(ちょっと、何。あれ? おかしい)


 先輩のように笑うから、じゃない。大人が子供のように笑うから……えーっと、私……なんだか顔が熱いわ。


「あれ? ローズ様、どうしたんですかぁ? 顔が赤いですよ? 体調不良ですか? 食べすぎですか?」


「ミュー、なぜ食べすぎという言葉が出てくるわけ?」


「いや〜、だってバイキングなら食べすぎますよねー、普通」


(どういう普通よ?)


「二人は主従関係なのかな? それにしては仲良しですね」

 

「うーむ、ミューは保護者というか〜」


「ん? ミューさんが保護者なのかな?」


「そうですよー。ミューは、ローズ様がこーんなにちっちゃなときから知ってるんですぅ」


 ミューは、人差し指と親指で、私のサイズを示した。それ、どう見ても人のサイズじゃないわ。数センチじゃない…。


「おやおや、ローズさんは、ずいぶん小さかったんですねぇ、ふふっ」


 所長は、ミューを上手く受け流していた。ミューは、子供のように、楽しそうに所長に絡んでいる。なんだか私は少し、もやっとした。


(はぁ……らしくないわね)



「へぇ、やきもち?」


 突然、後ろから声がした。振り返ると、あの幻術士がいた。彼は私を面白そうに見ている。


(かんじ悪いわね…)


「幻術士さん、遅かったですねー。俺が連絡してからだいぶ時間が経ちましたよ」


(えっ? まだ何も言ってないのに呼んでくれたの?)


「俺はおまえと違って忙しいんだよ。で? どうするんだ?」


「ふふっ、たぶん封印を解く覚悟をされたんだと思いますよ」


「は? おまえ、何も聞いてないのに俺を呼んだのか?」


「ええ、早い方がいいかと思いまして」


「はぁ……とりあえず、事務所に入れてくれ。立ち話は疲れる」


「はい、どうぞ〜。先に2階へ上がってください。お二人もね」



 所長は、喫茶店の扉を開けて、何か話していた。幻術士はさっさと2階へ上がっていった。私もミューと一緒に階段を上がった。


「ローズ様、あの人、ちょいワル風で、かっこいいですね〜。危険な香りがしますぅ。何者ですかぁ?」


「そう? ミューが探してくれていた幻術士よ」


「ええっ!? 頑固者で変わり者の幻術士? あんな危険な香りのイケメンなんですかーっ。てっきり、しかめっ面の爺さんかと思ってましたー」


(イケメンかしら? 危険な香りはわかるけど…)


「ミュー、そんなこと言ってると本人に聞こえるわよ?」


「ひゃっ! そうでした〜」



 私達が事務所に入ると、あの幻術士はいなかった。しかし、この事務所、相変わらず散らかっているわね。少し片付ければいいのに。


 私達が入っても、働いている人達は、チラリとこちらを見るだけだった。依頼者かもしれないのに、そんな態度はどうなのかしら?



「どうぞ〜、こちらですよー」


 いつの間にか、所長が奥から顔を出した。喫茶店の奥の階段から上がってきたのね。


 呼ばれた部屋からは、フワンと魔力が放たれた。私達がそこに入ると、外の音は一切聞こえなくなった。


「これって…」


「幻術士さんが、遮断バリアを張ったんですよ」


(えっ、何も言ってないのに、もう準備?)




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