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30、虹色ソーダと小皿料理

「ホラーナイトって言ったらホラーナイトですよーっ」


「ミュー、全然、意味がわからないわ」


 私はとりあえず、ミューを隣に座らせた。


「いらっしゃいませ。とりあえず、お水をどうぞ」


「ありがとう、マスター」


 いつの間に戻ってきたのか、目の前ではマスターがやわらかな笑みを浮かべていた。


 私にカシスオレンジを作った店員は、別の客に呼ばれて奥のカウンター席へと移動していた。


「マスター、どこへ行っていたの?」


「あ、すみません。ほんの少し外しておりました。ちょっと、うーん、まぁ、お届け物を…」


「配達? マスターが自ら?」


「そうですね、配達といえば配達ですね〜」


(何かプライベートな用事だったのかしら?)


 私はなんだかスッキリしなかったが、ミューの話も聞かなければならない。



「ローズ様ぁ〜〜」


「はぁ、一体どうしたの?」


「この店の前の広場には、アンデッドがいっぱい居たんですよぉ。ゾンビみたいな怖い感じのーっ」


「そう。あ、マスターがさっき言ってた話ね? 闇エネルギーを吸収するために出て来た人達かしら」


「闇系の魔族が大量ですよ。だから、ホラーナイトなんですよー。もう、ゾワゾワして背筋がヒヤヒヤでーっ」


 そっか。ミューは妖精の血が混じっているから、闇は苦手なのね。そういえば、妖精や精霊には不快なものだと、さっきマスターが言っていたわね。



「そう、大変だったわね。それで何の用事?」


「学園がどうだったかと思って…。まさか、誰かを斬ったりしてませんよね?」


「斬らないわよ」


「変な男が居たんじゃないかと心配してたんですよー」


「ミュー、まぁ、変な王子に絡まれたけど、それ以外は特に問題ないわ」


「えーっ? まさか、巨大な王国の王子を斬ってませんよね」


「だーかーらー、斬らないわよ。一瞬、斬ろうかと思ったけど我慢したわ」


「そうでしたか、よかった〜。死者が出たんじゃないかと心配しましたぁ〜」


「あのねー。私の心配じゃなく、斬られるかもしれない男の心配?」


「だって、ローズ様は強いじゃないですか。そこんとこの心配はしてませんよー」


 ミューは、やっと落ち着いた表情になったと思ったら、マスターにあれこれと注文をしていた。


「えっ? ミュー、ごはんまだなの?」


「おつまみですよー。冷や汗をかいたんですから、食べなきゃやってられませんよぉ〜」


(また、食い倒れなきゃいいけど…)


 ミューが注文したおつまみが、所狭しと並んでいった。一つ一つは小さな皿だけど、ミューは5品も頼んでいたようだ。


「ローズ様も食べてくださいねー」


 そして、ミューの飲み物も不思議なものだった。ジョッキのような大きなゴツいグラスに、透明な炭酸飲料が入っている。そして、いろいろな色の氷がたくさん詰まっていた。ミューは、ストローで氷を突きながら飲んでいた。


「ミュー、それ、何?」


「ん? 虹色ソーダですよー。氷は全部フルーツジュースで出来ているから、いろんな味が楽しめるんです〜」


「へぇ、アルコールは入ってないのね」


「ミューは、お酒はあまり得意じゃないので、こっちの方が美味しいんです〜」


「氷が溶けてきたら、フルーツジュースの味が混ざるんじゃない?」


「それも美味しいんです〜。ソーダを飲んだ後、ミックスジュースを飲めるからお得なんです〜」


(あ、そこか、ミューのお気に入りポイントは…)


 ミューは、とにかくお得なことが好きなようだ。でも、虹色ソーダがお得なのかについては、私にはよくわからないが…。



「ミュー、今日クラス分けがあったんだけど…」


「あー! 学生証、見せてくださいー」


「あ、うん、どうぞ」


「成績見ますよー」


「いいけど、パッとしないわよ?」


 そう言うとすぐ、ミューは私の成績を表示していた。そして、似たような何かを出してきて、見比べている。


「うーん、逆ですよねー」


「ん? 何が?」


「ミューは、魔法がだいたい評価Cで、剣術や武術が評価Eなんですよねー」


「えっ? ミューも学生なの?」


「卒業生ですよー。これは卒業証です〜」


「へぇ、先輩なのね。ん? 評価Eでも卒業できるの?」


「えへへへーっ、そうなんです、ミューは先輩なのです。ん? Sクラス以外は、評価Eあっても卒業できますよぉ」


「そう」


(先輩という言葉、もう大丈夫かもしれない)



 私は、武術学校の先輩……私の妹の父親に対する切ない気持ちは、まだ変わらずに持ち続けていると思う。


 だから、アルフレッドのことを、他の人のようにアルとは呼べない。アルという名は、先輩の名前だから……安易に口に出せない。


(でも、うん、少し慣れてきたわね)



「じゃあ、ミュー先輩に相談なんだけどー」


「はいはい、なんでございましょう?」


 ミューは、先輩と呼ばれて得意げな表情を浮かべている。ふふっ、ほんとに、お調子者なんだから。


「私は、すぐにでも封印を解除する方がいいかしら?」


「えっ!? ええ〜っ? 急に真面目な話ですかーっ」


「そんな、深刻な顔をしないで構わないわ。今日、あの幻術士に会ったのよ」


「へ? ミューが頑張っても連絡取れなかったのに…」


(ミューも、動いてくれてたのね)


「同じクラスになった人が、探偵事務所で働いていたのね。その所長さんが神族らしくて、事務所に呼んでくれたのよ」


「ええ〜っ? あの幻術士がその探偵さんの言うことを聞いたんですかー? その探偵さん、ツワモノですよ、きっと」


「近くにいたらしいわ。そうね、かなり強いのかもしれないわ。でも、見た目は、落ち着いた大人だったんだけど」


「へぇ〜、なんだかギャップのある感じがカッコいいですねー。イケメンですかー?」


「そうね、整った顔立ちをしていたわ」


「どこの探偵事務所ですぅ?」


「あ、名前は見てなかったわ。1階がレトロな喫茶店で、2階が事務所よ。城壁内にあるわ」


「うーん…。城壁内に、探偵事務所は5〜6コあるんですよねー」


「えっ? そんなに?」


「あ、ミューが知ってるだけで5〜6コなので、もっとたくさんあると思いますよー。2階が事務所……うーん」


 ミューは、場所を考えることに熱中し、私の問いなどは忘れてしまったようだ。はぁ、ほんとに…。


「それで、ミュー、どう思う?」


「ん? イケメン探偵ですか?」


「じゃなくて、私の封印…」


「あー!! そうでした、忘れていました〜。その前に、これ、美味しいですよ」


 そう言うと、ミューは、私の方に、小皿を3〜4枚ずりずりと押しやってきた。なるほど、考える時間稼ぎね…。



 私は、黄色い卵料理のようなものに、フォークを突き刺した。期待しないでパクっと食べてみて驚いた。いろいろな野菜やベーコンの味がしてとても美味しい。

 これ、キッシュだわ。あれ? キッシュって何? また、妙な言葉が頭に浮かんだ。


 少し大きめの皿には、ポテトサラダ。これも美味しい。クラッカーの上にポテトサラダが乗っているから、手で食べられるのもいいわね。


 別の小皿には、数種類のドライフルーツが入っていた。濃縮されたフルーツの甘酸っぱさがクセになる。これは、ワインに合いそうね。


 一つ一つの小皿は、量は少ないけど、キチンと丁寧に作られていることがわかった。こんなのを5品も頼んで……ミューは、実はお金持ちなのかしら?


「ミュー、こんなにたくさん頼んで、お会計は大丈夫なの?」


「ん? ミューが頼んだ分は、飲み物も全部合わせても、ローズ様の飲み物1杯分ですよ?」


「えっ? カクテルってそんなに高いの!?」


「ん〜、料金表、見てないんですかぁ?」


 ミューが指差した方を見て私は驚いた。



【アルコール類】一杯、銅貨20枚

【ノンアルコール】一杯、銅貨5枚

【つまみ】一皿、銅貨3枚



「カクテルは、普通よね。つまみが安すぎるんじゃない」


「だから、たくさん食べられるんですよぉ〜」


(バーは、食堂じゃないわよ)



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