27、占いの館の幻術士
私は、自分自身のことなのに、決められずにいた。私の中にはマナの流れない場所がある。そこには何かの封印がある。
これは、闇属性の呪いの封印ではないそうだ。もし呪いの封印なら、呪術士が解除とともに発動した呪いを消去することもできるだろう。もちろん、チカラのある高位の呪術士に頼めば、だが…。
呪いではない光属性の封印だというのが、皆の意見だった。誰もが同じことを言うから間違いはないのだろう。
光属性の封印は、光属性を持つ者、すなわち神や神のような存在によって施されたものだと、以前ミューが言っていた。
誰もが、封印が解けて封じられた何かが発動した後、私がどうなるかはわからないと言う。
呪いなら、術者より高位の呪術士には、その発動した呪いを消し去る能力がある。
ということは、私の封印は、施した神よりチカラのある神にしか消し去ることができないのか…。
もしくは、神による封印が解けてその効果が発動すると、誰にも消し去ることはできないのか…。
(はぁ……弱気になるなんて、らしくないわね)
私は、前世の記憶を持った転生者かもしれない。だが、今の私にはその記憶はない。ただ、夢を見たり、知らないはずのものを懐かしく感じるだけだ。
もしかすると、前世の記憶に、この封印についての手掛かりがあるのじゃないだろうか?
あの猫耳の少女は、私には2つの仕掛けがあると言っていた。一つは夢によってゆっくり前世の記憶を取り戻すこと。もう一つは、その時が来れば……条件が揃えば、封印が解けて封じられた何かが発動する仕掛け。
あの探偵は、待つのか解除するのかと、私に二度もたずねた。
(一体、どういう意図があるのかしら?)
「推理というには、与えられた情報が多すぎますよ、ルークさん」
「それに、探偵さん自身も高いサーチ能力があるでしょ」
「さぁ、どうでしょう?」
「俺には、探偵さんのサーチができない。俺より圧倒的に能力が高いからですよね。そんな人は、この街では、俺は数人しか知らない」
「ふふっ、魔道具をたくさん使っていますからねー」
「あ! ベアトスさんの…」
「ええ、クマさんマークの魔道具、探偵業には必需品なんですよ」
「そうか。なーんだ。確かに話し方や雰囲気が、俺のイメージした人とは違うとは思ってたんですよね」
「ふふっ」
探偵事務所の所長は、ニコニコと笑っていた。その表情からは、肯定なのか否かはわからない。探偵業は、秘密の多い仕事なのだろうか。
「さて、ローズさん、彼を呼びましたから、もうそろそろ来るはずですよ。2階の事務所へどうぞ」
「えっ? 彼?」
「紹介すると言った幻術士ですよ。近くに居たようなので、来るよう依頼しました。ここだとさすがにね」
確かにここは喫茶店だし、他の客もいるものね。私は店内をくるっと見回し、納得した。
「わかったわ。じゃあ、皆さん、私はこれで失礼するわ。えっと、カフェオレ代は…」
「おいおい、ローズ。飯もカフェも、この街では男が払うのが普通なんだぜ?」
「じゃあ、ごちそうさま」
「俺も、話、聞きたいです」
「えっ? ルーク?」
「私も聞きたい。心配だもの」
「そうだな、じゃあ気になる奴は2階へ。ただし、秘密厳守だぜ?」
(はぁ……まぁ、仕方ないわね)
喫茶店のカウンター奥の階段ではなく、普通に表からと言われ、私は、アルフレッドに付いて、外の階段を2階へと上がった。
探偵事務所は、喫茶店と同じくレトロな雰囲気だった。壁にはズラリと本棚が並んでいた。
「こっちだぜ」
アルフレッドは、なんだか子供っぽい、やんちゃな顔になっていた。楽しくてたまらないような、イキイキとした表情だ。
(探偵の仕事が好きなんだ)
探偵事務所には、数人の男が働いているようだ。あちこちには、様々な魔道具が散らばっていた。
(片付ければいいのに)
案内された部屋に入ると、二人の男が窓際に立っていた。所長と、もう一人は無愛想な感じの黒髪の男だ。
「ローズさん、紹介しますね。こちらが、さっき話していた幻術士さんですよ。占い師と言う方がいいかな」
「あ、もしかして、占いの館の人?」
「あぁ。俺は忙しいんだ。用件は手短に頼む」
(かんじ悪い…)
「おや、結局、皆さん、ローズさんを心配して来てしまったのですね」
「えっ?」
私が後ろを振り返ると、確かに全員いた。絶対に心配していないはずのノーマンまで居るわね。
「あっ!」
ルークが何かに気づいたようだけど、アルフレッドが、静かにするように注意していた。
「みんな、騒がないで静かにしていてくれよ〜。特にバートン、歩き回るなよ」
「あ? わかったよ。でも、ここ、楽しそうなもんがいっぱいあるじゃねぇか」
「ここが気に入ったなら、ギルドでミッションを受注すればいいから。いつも募集が出てるぜ」
「いや、でも、頭を使うミッションは、ちょっとなー」
学園のクラスメイトがうるさかったのか、占いの館の幻術士は、しかめっ面をしている。でも、一人一人を見ているようだから、きっとサーチね。
「それで、あんた、俺にどうしてほしいわけ?」
「え……いきなりそんな…」
「ローズさん、彼には文句を言っても意味ないから、用件をどうぞ。敬語も不要ですよ」
所長は、私にやわらかく微笑んで、そう促した。まぁ、そうよね。私は、教えてもらう立場だわ。
「私には、封印があると最近わかったの。この封印が、私を操るものなのかを知りたいわ」
すると、幻術士は、つまらなそうに笑った。
(バカにされた?)
「その封印は、解けると中に封じられたものが発動する。それは、わかっているな?」
「わかっているわ。私がそれに操られて、自我を失うのかが知りたい」
「はーん、なるほど。小心者か、アマゾネスらしくないな。いや、逆か。アマゾネスは小心者ばかりだから、過剰防衛をする」
「な? なんですって!?」
「ぷっ、単純な女」
(我慢の限界……でも…)
私は今すぐにでも、この場から立ち去りたい衝動と戦っていた。ただ、クラスメイトの中には私を心配してくれている人もいる。こんな失礼な幻術士だが、呼んでくれた所長の顔を潰すこともできない。
「へぇ〜」
「何?」
「俺の知るアマゾネスは、こんな言葉を浴びせると、必ず剣を抜くけどな。おまえは、変わっている」
「なっ!?」
「ローズさん、彼は貴女を褒めていますよ。わかりにくいですがね」
「眼鏡探偵、おまえなー」
「幻術士さん、そろそろお願いしますよ」
「はぁ、ったく」
そう言うと、占いの館の幻術士は、私に向けて、何かの術をかけた。私の右肩がズキンと痛んだ。そして熱を持つような感覚を感じた。
「ふぅん。おまえ、かなり厄介なもん背負わされてるじゃねぇか」
「えっ? 内容がわかったの?」
「まぁ、部分的にはな。しかし、これを今のおまえに伝えるわけにはいかない」
「どうして?」
「まだ、おまえの準備ができていない。仕掛けが2つある。浅い部分の仕掛けが作動中だ。それが完了するまでは、伝えるわけにはいかない」
「いつ作動中の仕掛けが完了するの?」
「おまえがすべてを思い出したときだ」
「それって……前世」
「あぁ。すべてを思い出したら、封印は解除され、封じられた言葉が伝えられる」
「その言葉で、私は操られるの?」
「おまえの自我は操られない。だが、まぁ、術者に操られるということにはなるだろうな。おまえが、そんな性格だから」
「えっ? どういうこと?」
「それが知りたいなら、今、この場で封印を解いてやるが?」
私の右肩がズキンと痛んだ。ここに封印があるのね。
「ローズさん、大丈夫ですよ。時を待つという選択肢もありますからね」
「ふぅん、そのままだと、あと十数年はかかるぞ。おまえ、その時に封印が解けると、どうするんだろうな」
(えっ? そんな……女王の地位を継承できないわ)




