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26、探偵事務所のイケメン所長

 コツコツコツ


 喫茶店のカウンター裏の階段を、ゆっくり降りてくる足音が聞こえた。あんな所に階段があるなんて、気付かなかったわ。


「アル、呼んだ?」


「あー、所長〜。ちょうどいいタイミングですよ」


「皆さん、こんばんは。アルの冒険者仲間かな?」


「学園の同じクラスになった人達ですよ」


「そう。それで、どうしたのかな?」


「ちょっと一人、問題があって…。あ、相談だけなら無料でいいですよね?」


「普段は相談料をもらっているんだけどね。アルのクラスメイトからはもらえないかな」



 探偵事務所の所長は、30代前半くらいに見える黒髪の男だった。細い銀縁の眼鏡をかけている。知的な美形か。白シャツ、黒ズボン。地味な服装だがオシャレに見えた。


「ローズさん、あの人、すっごくカッコいいね! あ、アマゾネスだから……そっか、ごめんなさい、つい…」


「いえ、大丈夫よ。シャラさん、そんなに気にしないで。私もオシャレな人だなと思っていたわ」


「そう? よかった〜。ふふっ」


 探偵事務所の所長は、アルの隣に座った。そしてやわらかな微笑みを浮かべて、みんなの顔を一人一人見ている。サーチでもしているのだろうか。


 私の方を向いて、少し目を見開いたような気がした。まさか、サーチで種族までわかるのかしら?



「よし、ローズ、さっきの話、みんなに話してくれ」


「その探偵事務所の所長さんは…」


「大丈夫だ。腕は確かだぜ? 他で失敗した件も、解決したことあるんだぜ」


「そう…」


「ローズさんのことなのかな?」


「えっ? ええ」


「所長、ローズが封印のせいで、魔法が発動できないみたいなんですよ」


「彼女の封印ということは、プライベートなことですよね。もうそこまでクラスメイトと仲良くなったのですか」


「あ、いや、まだ、晩ごはんを一緒に食べた程度ですけど…。所長、俺、Sクラスのクラス長になったから〜」


「今回は、Sクラスに神族は居なかったのかな。ふぅむ…。じゃあ、ローズさんが魔法が発動できなくて評価Eだから、俺が呼ばれたってところかな」


「そうです、所長、なんとかしてください」


 アルフレッドは、所長に甘えているのかしら? なんだか、子供のようにワガママを言っている。



「ローズさん、お話をどうぞ。俺のことは気にせず」


「はい、えっと、どう話せばいいかまとまらないんだけど…」


「思いつくままで大丈夫ですよ」


 そう、ふわりと微笑みながら、彼は頬杖をついた。その仕草が妙に色っぽくて、私はなぜかドキリとした。


(変ね……なぜか、この男、嫌じゃないわ)


 どこかで会ったかと記憶をたどっても、こんな黒髪の眼鏡男には見覚えがない。探偵という者を初めて見たからだろうか? なぜか心がざわつく。



「この封印は、いつからあるかわからないのよ。気づいたのは、交流のある白魔導士よ。半年ほど前に、私の治療をする際に違和感を感じたらしいわ」


「ローズの国にも白魔導士はいるんだな」


「アルフレッド、当たり前でしょ。でも、数は少ないと思うわ」


「その封印って、国では知られてるの? ローズさん、もしかして、そのせいで国から追放されたんじゃ…」


「シャラちゃん、なぜ封印があるくらいで追放されるんだ? 俺の知り合いも、封印や呪い持ちは、た〜っくさんいるよ?」


「トリ頭、少しは考えろよ。ローズは、あの国ではきっと戦闘力は高い方だろう。それに地位も高い。そんな奴に、呪いの封印があると知られたら、幽閉か追放するのは当たり前だ」


「ノーマン、おまえ、俺の名前がバートンってわかってる? まぁ、名前って覚えるのが苦手な奴は多いけどさ」


「は? わかってるに決まってるだろ」


「ふぅん、ま、いいや。俺は自分が呼ばれたと思ったら返事してやる主義なんだ」


(何? その主義って…)


「おーい、おまえら、話をそらすんじゃねぇぞ。ローズ、続きは?」


「ええ…。封印のことは、近親者しか知らないわ。あと、解除を依頼した隣国の呪術士。彼らには他言しないようにと、お金で解決したようだから漏れることはないわ」


「ローズさん、それでここに来たの?」


「シャラさんの想像どおりよ。母の命令で、急にこの街へと放り出されたわ」


「えっ? 一人で?」


「いえ、私の封印を発見した白魔導士が、付き添いで一緒に来たわ。たぶん私の監視役ね」


「そんな、お母様が…」


「母の判断は間違っていないわ。もし私が母の立場なら、やはり同じことをすると思う。いつ封印が解けて……誰かに操られるかもしれない娘を、近くに置いておくのは危険だもの」


「でも、ローズさん、かわいそう。ローズさんは何も悪くないのに」


「シャラさん、ありがとう。でも…」


 私が言葉に詰まると、その場はシーンと静まり返った。



「ローズさんは、どうしたいのかな? 封印を解きたいのか、解けるのを待ちたいのか」


「えっ? 私は、どんな封印なのかを知りたい。あ! でも……それはなんとなく…」


「タクト、封印の破壊はできる?」


「ルーク様、その封印は最初から気になっていました。ですが、俺にはローズさんを殺さずに封印だけを消すことはできません。そもそも呪術士のテリトリーですから」


「だよねー。俺もいろいろサーチを仕掛けてたけど、わかんないんだよね。属性がおかしいよね」


(魔族には、封印は見えるのね…)


「ルーク、闇属性じゃなくて、光属性だということよね。そこもわかっているわ」


「他の星の神による封印としか考えられないですね。ローズさん、誰かと接触したんですね」


「でも、古い封印だと言われたわ。それに私は……」


 私は、転生者かもしれない。そう言おうかと思ったけど、前世のはっきりした記憶がない以上、いい加減なことは言えないわ。


 でも、古い封印だという手掛かりになるのかもしれない。前世に施された封印を受け継いだ……そんな可能性があるかもしれないけど…。



「ローズさん、思念が漏れています。聞こえてしまいました。すみません」


「えっ!? あ、ルーク、そうだったわね…」


「確証がないなら、口に出す必要はありませんよ。たぶん、探偵さんが推理してくれます。情報はもう十分だと思いますよ」


 まるで、ルークからの挑戦状を叩きつけられたような探偵事務所の所長は、ニヤリと楽しげに笑った。


「ルークさんから、腕試しの挑戦状が届いてしまいましたかな。ふふっ」


「所長、なんだか訳がわからない会話になってるんですけど…。バートン、ノーマン、わかる?」


「なぜ、封印が光属性なんだ? ありえねぇぞ。邪神なら闇属性だぜ? 知り合いの封印はすべて闇属性だ」


「確かに…。人に封印を施すのは、能力の封鎖より、支配目的だからな。光属性なのはおかしい。そんなおかしな封印を解除するのは怖くないか?」


「ローズさん、かわいそう…」


「あはは、そうね、困っているわ」



 探偵事務所の所長は、私をジッと見ていた。そんなにまっすぐに見られると、やはり落ち着かない。心がざわつく。


「ローズさん、同じ質問をしますが……封印を今すぐにでも解除したいですか? それとも時が来るのを待ちますか?」


「えっ……わからないわ。解除して操られるのは怖いけど、いつ解けるかわからないのも怖いわ」


「じゃあ、幻術士を紹介しますよ。彼を訪ねてみれば、その答えが出るでしょうから」


「探偵さんの見立てを聞きたいです」


 なぜか、ルークが食い下がった。あ、そっか、さっきの挑戦状?


「ルークさん、それは、ローズさんが心を許せる人だけの場所で話しましょうか。当たっていると困らせてしまいそうですからね」


「外すかもしれませんよね? あくまでも推理ですから」


「ふふっ。ルークさん、初対面なのに、グイグイきますねぇ」


「探偵さん、初対面じゃない気がするんですけど?」


(な、何? 知り合いなのかしら?)



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