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23、価値観の違い

「アルフレッド、それ、どういう意味かしら? 女だから何?」


「あー、悪い。そういう差別発言に聞こえたか。人族で、剣術の評価C以上をもらった女子学生はいないんだよ。武術は過去に数人いるらしいが」


「えっ? そう…」


「ローズちゃん、魔族なら剣術の評価Aもいるぜ。魔族と人族のハーフもいたかもな」


「バートン、首狩り族はカウントするなよ? 身体の一部が剣じゃないか」


「アル、よくわかったなー」


 私は少し混乱していた。男女差、種族差…。この街に来て、私は自分より強い者が多いことはわかった。もちろん、アマゾネスとしての誇りを見失ったりはしない。

 ただ、人族よりも魔族、女性よりも男の方が、強いということなのだろうか。



 私はふと視線を感じた。そちらに目を移すと、悪魔族の少年ルークがこちらをジッと見ていた。私が気づいたことがわかると、やわらかな笑みを浮かべた。


「ローズさん、たぶん人族は、戦士や剣士を目指すのは圧倒的に男が多いためだと思います。それに、この学園は、魔法学園ですから、魔法の技術を磨くために来る場所ですし…」


「もしかして、ルークさん、私の頭の中を覗いた?」


「気を悪くされたのならすみません。ローズさんの場合、魔法を全く使われないから、思念の一部が漏れてきて……勝手に聞こえてしまうんです」


「えっ…」


「あ、ローズさんだけじゃなく、漏れてる人は多いです。この街の街長も、思念をよく漏らしてしまうようですから、よくあることです」


「そ、そう。えっ? ルークさんは街長を知ってるの?」


「はい、俺が生まれた頃からずっと、見守ってもらっています。とても優しくて、俺は大好きですよ」


「街長は、ルーク様の父クライン様の配下ですからね。私もよく存じ上げております。私の印象では、ルーク様とは真逆ですが…」


「それは、タクトが悪いんでしょ」


「もし、あの時ルーク様と出会わなければ、私はアイツに殺されていましたね。だが、あんな死霊ごときが…」


「タクト、地底での恨み話はしないって約束したよね」


「はっ、申し訳ありません」


(何? 街長って死霊なの? 幽霊? うそ…)


「ローズさん、街長は人族です。でも、半分アンデッドなので不死だそうですよ」


「また、漏れてたのかしら」


「はい。不安や怒りは漏れやすい思念ですから」


「そう…」



 お婆様が、困ったことがあれば街長に頼れと言っていたけど、アンデッドだなんて…。そんな怖ろしい人には頼れないわ。半分ってどういう意味かしら? 片親がアンデッド?


(こんな街の長だもの……普通じゃ務まらないわよね)


 確か、女神様の側近だという話だったわね。まぁ、それなら偶然に会うこともないだろう。そもそも会いたくても会えない、雲の上の人だわ。


 でも、なぜ女神様の側近なのに、ルークの父親の……悪魔族の配下なのかしら? 主君が二人だなんてありえないわ。


 この世界のことは、全然理解できない。私は、アマゾネスが閉鎖的すぎるのだと痛感した。もっと世界のことを知るべきだわ。




「なぁ、みんな。成績の話ばっかしてると、頭痛くなってこねぇか?」


「バートン、そんなんだから、トリ頭って言われるんだぜ」


「俺は鳥系魔族だから、トリ頭で合ってるぜ? そんなことよりアル、店変えようぜ。真面目な話ばっかしてると、頭が沸いてくる」


(トリ頭って、バカにされてるのに気づいてないのかしら)


「まぁ、そうだな。とっくに飯も食ったしな。ぷぷっ、バートン、いいキャラしてるじゃねぇか」


「は? アルの方がイケメンだと思うぜ?」


「いやいや、話がズレてるし〜」


「そうか? そんなことより、店、どこいく?」



 バートンは、みんなの顔を見回している。でも、私はそろそろ解散してもらいたかった。

 この島に来てから、私はほとんど剣を触っていない。試験の手合わせだけだ。少し訓練しないと落ち着かない。


「バートンさん、今日はこれで解散しませんか? 今日は疲れた人も多いんじゃないでしょうか」


 私の思念がまた漏れていたのか、ルークが解散を提案してくれた。ほんとに一番紳士だわね。

 見た目はまだ幼さの残る少年だけど、数年後には人目を惹きつけるようになりそうだ。


(いやいや、伴侶を探しに来たわけじゃないわ)



 私は、ルークに好意を持っていると自覚した。でも、これは先輩への気持ちとは違う種類だ。

 おそらく、認めているということだと思う。男はすべて低俗で下等な生き物だと考えていたアマゾネスの私だが、ルークに対しては、そのような感覚はない。


 このことが、私自身、不思議だった。


 やはり夢の……いや、あの猫耳の少女が言っていたことのためかもしれない。私は前世の記憶を持っているんだ。あの夢の中では、男女平等のようだったもの。



「じゃあ、今日は解散、と言いたいとこだが、これ、最初の授業なんだぜ」


「アルさん、どういうことですか」


「ん? あー、ルークは知らないか。Sクラスの一番最初の課題は、協力関係をきちんと話し合って、互いに理解することなんだ」


「なぜ、アルさんが課題のことをご存知なんですか。俺、聞いてないですけど」


「俺、勝手にクラス長にされてるから。これは神族の子孫の役割だが、今回はいないから、俺が選ばれた」


「巨大な王国の王族だからかしら?」


「ローズ、突っかかるねぇ。剣には性格が出るだろ? 手合わせの後、クラス長にと言われたんだ。たぶん、俺が一番、世話焼きだってことだろうな」


「確かに、剣には人柄が出るわね…」


(だから、先輩に惹かれたのかもしれない…)


「まぁ、そういうことだから、課題を片付けてしまおうぜ」




 私達は、店を出て歩き始めた。食事代は、誰かが支払ったようだ。でも、おごってもらうのもおかしい気がする。

 ただ、なぜだか誰もそのことには触れなかった。


「あの、食事代は?」


「アルが払ってたよ」


「シャラさん、えっと全員の分かしら」


「うん、そうじゃない?」


「あの、自分の分は自分で払うんじゃないの?」


「えっ! 食事代は、男性が払うのが常識じゃない? ローズさんの国では違うの?」


「ええ。自分のことは自分でするわよ。男に、ほどこしを受けるなんて、ありえないわ」


「へぇ、国が変わればいろいろと違うのね」


「でも、他の男達も何も言わないのね」


「そうね。たいした金額じゃないからだと思うわ」


「でも…」


「何なに? 女の子ふたりで内緒話?」


 トリ頭のバートンが、私達の会話に入ってきた。こんな風に、強引に会話に割り込むような無礼なことは、アマゾネスでは、女性でもしない。

 魔族は違うのだろうか。いや、ルークはこんな風に割り込んでこない。バートンが無礼なだけか。


「バートン、価値観の違いの話をしてたのよ」


「ん? 俺とアルのどっちがカッコいいかって?」


「あはは、違うよー。食事の会計の話よ」


「そんな難しい話かよ…」


「違う違う。誰が払ったのかって話よ」


「アルが払ってたな」


「バートンは、おごってもらって平気なのかしら?」


「ん? ローズちゃん、意味がわからないぞ」


「普通、自分の分は自分で払うでしょ」


「へ? 普通、誰かが払うだろ?」


(何? それ、最低ーー)


「おごってもらって、お礼も言ってないんじゃないの」


「ん? たいした金額じゃないから、誰が出しても気にしないだろ?」


「なんだか、価値観が理解できないわ」


「ローズちゃんって、律儀というか、真面目なんだな。アマゾネスって、もっとお高くとまってるのかと思ってたぜ」


「男に、ほどこしを受けるなんて、ありえないわ」


「へぇ……なんだか話が難しくなってきたな。トリ頭は退散するぜ」


 そういうと、バートンは他の人の方へ、絡みに行った。


「ローズさん、カッコいいわ。トリ頭、撃退したわね、ふふっ」


「シャラさん……別に…」


(はぁ、なんだか不安だわ…)



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