21、クラスメイトの自己紹介
「誰か、いい店知らないか?」
「何人だ?」
「全員行くよね? 7人じゃない?」
私は、戸惑っていた。女性は私を含めて2人しかいなかった。あとの5人は男だ。それに私はこの街に来たのは昨日だから、まだ街の中のことさえわからない。
「おーい、ローズ、おまえ、男だらけで大丈夫か?」
アルフレッドがなれなれしく話しかけてきた。明るい金髪で、王族のような自信に満ちた雰囲気がある。20歳前後だろうか?
「どういうことかしら?」
「言ってもいいか? まぁ、このクラスは仲良くしなきゃならないクラスだしな」
(仲良くしなきゃならない? なぜ?)
「なになに? ローズちゃんに秘密があるの?」
また、なれなれしい男だ…。トサカのような髪型の、チャラチャラした雰囲気の男……不快だ…。
「ローズさん? 私は、シャラというの。何か事情があるの? みんなも無理に詮索しちゃだめよ」
唯一の女性のクラスメイト。おとなしそうな感じの女の子だ。アマゾネスとはタイプが違う。
「シャラさん、私の国は女尊男卑だから…」
「おいおい、まじか? まさかアマゾネスじゃねぇだろうな?」
また、失礼な男が……って、キリがないわね。20歳前後にみえる神経質そうな男だ。男尊女卑なのだろう。
「とりあえず、話は店を決めてからにしませんか。俺、腹が減って死にそうです」
「ルーク様が死んだら困ります…」
「タクト、例え話だから…。学園内では様呼び禁止って言ったよね」
「申し訳ありません」
(ルークとタクト? 主従関係があるのかしら?)
ルークと呼ばれたのは10歳前後にみえる元気のよさそうな男の子だ。タクトと呼ばれたのは30代後半にみえる暗い雰囲気の男だ。
「じゃあ、くいだおれストリートに行こうぜ。どこか空いてるだろう」
私はクラスメイトと、くいだおれストリートへと向かった。ミューと昨夜来たばかりだが、時間がまだ早いためか、通りの様子が違う。オシャレなカフェに決まり、ぞろぞろと店内に入った。
誰かが個室を指定したらしく、2階へと案内された。個室といっても、仕切りは鉢植えの植物が置かれているだけで、1階と同じように、テーブルについている客の姿は普通に見える。
「あれ? 完全個室じゃないのか」
「女の子が二人いるのに、完全個室はマズイだろ? でも、話は聞かれないぜ」
確かに、話し声は全く聞こえない。下の階からの音が聞こえるだけだ。
「ここの結界、かなりの術者だな」
「草原の精霊じゃないの?」
(あ、あの失礼な男…。確かミューがファンだっけ)
テーブルに案内され、私はやはり戸惑っていたが、アルフレッドが私を端に座らせ、その横には、おとなしそうな女の子に座るよう指示していた。
私の向かいには、ルークと呼ばれた男の子を指定すると、その横にはタクトと呼ばれた男が座った。やはり男の子を守る立場なのだろうか。
そして、着席するとすぐに、料理が運ばれてきた。ランチプレートらしい。もう夕方近いはずだが、ランチがあるのか。
「アル、なんで席を決めるんだよ。女の子を固めるなんてひどくねぇか?」
「バートン、あのなー…。まぁ、とりあえず知らない人もいるから自己紹介しようぜ。特殊な事情ある人は、可能な範囲でいいぜ」
「そうだ、みんな、何がトップだったのかも言ってね」
「えーっと、学生証に書いてあるの?」
「そのはずだぜ」
(何がトップかって……どういうこと?)
私は、自分の学生証に魔力を流した。すると、つらつらと、成績表のようなものが出てきた。ABCDEの5段階評価のようだ。
黒魔法ーー E
白魔法ーー E
緑魔法ーー E
剣術ーー C
武術ーー C
言語学ーー A
歴史学ーー B
算術ーー A ☆
一般教養ーー A ☆
*クラス判定ーー Sクラス
おそらくAが一番よくて、Eが悪いということね。魔法オールEだもの。しかし、剣術や武術がC? もっと上かと思っていただけに、私は強いショックを受けた。
Aの横に星印がついているものとついていないものがある。何が違うのだろう?
「何がトップだったかって、どこで見ればいいの?」
私は、隣の席のシャラさんに、たずねた。
「たぶん評価の横に星印が付いているものが、今回の新入生のトップだという印よ」
「じゃあ、この二つ…」
「えっ? ローズさん、二つもあるの?」
シャラさんの声に、みんなの目が集まった。
「9項目で7人だから、もう一人、二つ星印ついてるのいるよな?」
「えっ?」
私は思わず、聞き返してしまった。失礼な男は私の方を見下したような目で睨んだ。
(ほんとに感じ悪い)
「ローズは知らないのか。ノーマンはこの街の生まれだから知ってて当然。そんな目で睨むなよ」
「あまりにも無知な女だから、驚いただけだよ」
(斬り殺してやろうか…)
「このSクラスは定員が9人なんだ。一番上のクラスだが、総合力で優秀なのは、Aクラスなんだよ。Sクラスは、各科目のトップを集めたクラスだ。あとは、総合力でクラス分けされてる」
アルフレッドが説明を始めた。
「クラスとは別で、授業は、評価ごとで受けるらしいぜ。まぁ、ほとんどはクラスどおりだろうけど、Sクラスの俺達がAクラスやBクラスに入るって形だ」
「その方が授業がやりやすいんでしょうね」
「だろうな。じゃあ、俺から自己紹介する。アルフレッドだ。一応、王国の王族だが、俺は平民と変わらない。爺様が第8王子だったが、父親は継承権を持たないからな」
「アル、何がトップなんだ?」
「俺は、歴史学だな」
「えっ? まじか。剣術じゃねぇの?」
「違う。おまえじゃねぇの? ってか自己紹介しろよ」
「あー、俺はバートン。鳥系魔族だ。よくいる獣人ってやつだ。星がついてたのは、武術だよ」
「獣人って、チャラチャラしてる奴が多いよな」
「おまえなー、さっさと自己紹介しろ」
「俺はノーマン。この湖上の街で生まれ育った人族だ。こないだ20歳になったから、やっと結界術士の登録ができたんだ。星がついているのは緑魔法だ」
「へぇ、おめでとう。俺より1つ下?」
「アルは21か。もっと上かと思った」
「あぁ、しかし結界術士って珍しいな」
「純粋な人族ではないからな。父親は、他の星からの移民なんだ」
「やっぱり? だよなー。次は、少年いってみようか」
「ん? 俺? はーい。ルークです。10歳になりました。悪魔族です。爺ちゃんが……あ、えっと、俺の種族の長が、10歳になったら、ここで学ぶようにと決めたので来ました」
「見た目どおり、少年だったな」
「ノーマン、人族にはピンとこないかもしれねぇけど、ルークの種族の長は、大魔王メトロギウスだぜ? ケンカ売らねぇ方がいい」
「なんだって?」
トリ頭のバートンにそう言われ、ノーマンは引きつった顔をしていた。大魔王の子孫…。私には想像もできないが、大魔王といえば、地底の魔族の国のトップだ。でも、この少年からは、そんな邪悪な雰囲気は全く感じられないが…。
「で、ルークは何に星がついてる?」
「えーっとですね…。俺は、言語学と剣術です」
(こんな少年が剣術トップ?)
「なるほど納得だわ〜。そのおっさんは従者?」
「私は、タクト。ルーク様の配下にしていただけるよう日々努力しておる黒魔導族です。星がついていたのは黒魔法です。どうぞよろしくお願いします」
「配下希望で、ついてきたんだ。すごい根性」
「恐れ入ります」
「じゃあ、次は私が。私はシャラと申します。18歳、人族です。家族も親戚も冒険者一家ですが、私は戦闘ができません。星がついていたのは、白魔法です」
「へぇ、冒険者一家で、戦えないのは厳しそうだね」
「そうなんです。だから、この学園に入学することにしました」
「そっか。じゃあ、あとの二つがローズか。賢いんだな。一応、話せる範囲で自己紹介な」
「わかったわ」
(どうしようかしら…)