2、白魔導士ミューの診断
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「ミュー! 呪いって、一体どういうこと?」
私は立ち上がって、白魔導士ミューに詰め寄った。
私は、このひと月ほど続く、奇妙な夢のことが気になっていた。自分自身で違和感を感じでいたことが、不覚にも呪いを受けていたなんて…。そんな焦りからの行動だった。
「ちょ、ちょっと待った〜、ローズ様! 怖いですから、そんなに怒らないでくださいよ〜」
「怒ってないわよ。なぜ、呪いだなんて言うのよ」
「呪いじゃなければ、洗脳かも?」
「なぜ私が、一体誰に洗脳されているって言うのよ!?」
「わっわっ、だから怖いですってば。落ち着いて〜、座ってください〜」
そう、確かに今の私は、冷静さを失っている。私は、とりあえずベッドに腰掛けた。
ミューだけではない。私と話をしていて、まともに言い返してくるのは母くらいだ。みな、私を怖がる。
そもそも、誰も私に反論なんてしない。私を怒らせると身の危険を感じるのだと、以前、誰かが言っていた。
そういう点ではミューは特殊だ。怖がりながらも、言うべきことはキチンと言ってくる。
こんな調子だから、私には友と呼べる存在がいなかった。母が、この国を統べる女王であることから、近寄ってくる者は多い。
だが、それは、私自身にではなく、私の肩書きに近寄ってくるのだ。次期女王候補と親しくなりたいという、邪念でしかない。
「座ったわよ。キチンとわかるように説明してもらおうかしら。まさか、ただのカンだなんて言わないわよね」
「ローズ様、立ち上がらないでくださいよ? 剣にも触っちゃダメですよ?」
「わかったわよ。怖がりすぎでしょ。襲われでもしない限り、自室で剣なんて抜かないわ」
「それ、約束ですからね」
私は軽く頷いた。すると、ミューは、やっとホッとした顔をしていた。
すると、彼女は私に手のひらを向けて、何かをし始めた。おそらく、サーチ魔法だろう。
ミューは、白魔導士だが、怪我や毒の治療だけでなく、いろいろな補助魔法も使う。相手の戦闘力をサーチしたり、防御バリアを張ることもできるため、戦乱時には貴重な戦力となる。
「うーん。私には限界かな。呪術士か、幻術士にみてもらう方がいいです」
「どこまでわかったの? ミューがわかる範囲で構わないわ」
「はい。えっと、この前にお会いしたのは、半年前くらいでしたっけ?」
「覚えていないけど、そんなものじゃない? 確か、他の星から侵入してきた魔獣退治のときだったわね」
「あわわ〜、あれは怖かったですよ〜。猛毒を吐き散らかすんだからー」
ミューは、アマゾネスを名乗ることを許されていない。妖精の血が混ざったハーフだからではない。臆病すぎるところがあるためだ。
いや、苦手なものが多いからか……大型の獣は特に嫌いなようだ。
「もう、そんなことはどうでもいいわ。半年前だから何だっていうの?」
「ローズ様は、せっかちですよね〜」
「ミュー!」
「ひゃっ、だから、怖いですってば〜」
私が黙ると、ミューは、再び私に手のひらを向けた。いつもはすぐに判断できる聡明な彼女だが、今回は何度も確認をしているようだ。首をひねって考え込んでいる。
「そんなに深刻な状態なの?」
「うーん、矛盾だらけなんですよ。半年前に、ローズ様の毒の治療をしたときにも違和感はあったんですけどね〜」
「なぜ、そのときに報告しないのよ」
「いや、ありえない状況だったので、気のせいかと思って…。戦乱時で、バタバタしていたから」
「それってミューが、あの獣を怖がって、落ち着いて考えられなかったってことでしょ」
「そうとも言う……って、なんでやねん」
「はぁ、また、そうやってすぐにふざける。どこの言葉?」
「あはっ、先月、お使いで行った街で観た演劇の舞台で…」
「芝居見物? ふぅん、ずいぶん楽しそうなお使いね」
「また、怒る〜。ローズ様、短気すぎですよ〜」
ミューは、困ったときや考えごとをしたいときには、こんなくだらないことを言って、時間稼ぎをする癖がある。
彼女は寿命が長いらしい。私達とは時間の感覚が違うのかもしれない。
「で? また、話がそれたわよ」
「あー、はい。マナが循環しない場所があるんですよ。あ、マナっていうのは魔法のエネルギーのことなんですけど…」
「マナくらい知ってるわよ。私が魔法を使えないからってバカにしてない?」
「してませんよ〜、なぜ使えないのかは不思議ですけど…」
「やっぱりバカにしてるじゃない」
「いやいや、違いますって。ローズ様には魔法適性があるのに、使えないのが不思議なんですってば〜」
「魔剣なら使えるわよ」
「でも、すり傷も治せないじゃないですかー。わわっ、えーっと、本題に入ります」
私がイライラしてきたことを察知した彼女は、スッと態度を変えた。危機探知能力は抜群ね。
「マナが循環できない場所は、呪術による封印が施されている場合がほとんどなんです。呪術は闇属性、でも、ローズ様からは闇を検知できないんです」
「それって、ミューの能力の問題?」
「私は白魔導士ですから、能力の問題もあると思います。ただ、闇は検知できないけど、光は検知できたんです」
「ん? 光属性ってこと?」
「はい。その封印らしき場所からは、光属性の痕跡が検知できました。だから矛盾なんです」
「わかるように説明して」
「えっと、呪術は闇属性なのに、封印らしきものは光属性だから……って言ったつもりなんですけど」
「だから、何?」
「あー、そこですか? まさかの引っかかりポイントは〜」
私がムスッとすると、ミューの危機探知センサーが敏感に察知したらしい。彼女は、コホンと小さな咳払いをして、表情を引き締めた。
「呪術士や幻術士が、呪いをかけたり洗脳したりすると、闇属性の痕跡が残ります。光属性の痕跡を残す封印ができるのは、光属性を持つ者の術だけです」
「光属性を持つ者って何?」
「うーん、神や、神が作ったもの、ですかねー」
「えっ!? 神が封印なんて、するの?」
「神と言っても、いろいろな神がいますからね」
「あ、邪神か! 他の星からの侵略者! 50年ほど前に、大きな侵略戦争があったんでしょ? もしかして、それ?」
「あー、神戦争ですねー。あの頃は、ほんとに大変でしたよ。ローズ様のお婆様も、女神様の防衛協定に参加されたのですよ」
(50年前に、すでに働いていたのね、ミュー…)
「知っているわ。この星の女神、イロハカルティア様が星のすべての有力者に協力を要請した全面戦争よね」
「ええ、黄色い太陽系の創造神となられた女神様を、青い太陽系の神が侵略しようとした、歴史に残る戦争ですね」
「あの神戦争のときから、昼間の太陽は黄色になったって習ったわ。それまでは、赤色の太陽が昼間だったんでしょ? 夜はずっと変わらず青色の太陽なのにね」
「この国はそうですが、場所が変わると状況は異なります。夜は赤色の太陽が昇る国もあるんですよ」
「ふぅん、ミュー、また話がそれたわよ」
「ローズ様が、神戦争の話を始めたんじゃないですかー」
そう、これね。ミューは私を怖がりながらも、キチンと反論できるのだ。私が黙ると、目が泳ぎ始めて、少し後ずさりして距離をとるのだが…。
「コホン、何の話でしたっけ?」
「神が封印なんてするのか、って話よ」
「そうでした。でも、これはかなり古い封印のようですし、術者の能力はかなり弱い。弱小神か、消滅寸前の神か…」
「子供の頃に邪神に魅入られたの?」
「邪神なら闇の痕跡が残ります。神戦争後に生まれたローズ様が、他の星の神の術を受けるなんてありえないです」
「まさか、女神様?」
「女神様は妖精です。呪術なんてできませんよ」
「じゃあ、何?」
「ミューには、さっぱりわかりません」
(一体どういうこと?)