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19、バーのマスターの子供!?

「あの……すみません。やはり彼の失礼な行為で、とても傷つけてしまったんですね…。どうしよう…」


 バーのマスターが、困った顔をしていた。


 確かにあのカバンの彼が、不意打ちのキスをしてきて、付き合うかと口説いてきたのには腹が立った。でも、カバンに怒っても仕方ない。


「マスター、それは関係ないわ。なんだか、モヒートが美味しいと思ったら、なぜか涙が流れたのよ」


「そ、そうでしたか。彼のせいじゃなくてホッとしました。うーん、モヒートに大切な思い出があるのでしょうね」


「えっ? こんなカクテルは、初めて飲んだわよ?」


「じゃあ、前世の記憶かもしれませんね。ティア様から、貴女が転生者らしいと聞きました。モヒートを飲んだことがあるのでしょう」


「そっか…。そうかもしれないわね」



 この店にいると、眠っていなくても前世の記憶を思い出すのだろうか。


 あ! 夢。そういえば、あの彼と一緒にバーに行った夢を見た。あのとき、私が飲んでいたのが、緑色の葉っぱがたくさん詰まっている飲み物……あれはミントが詰まっていたのね。


 マスターは、聞き上手だ。私はマスターの前にいると、とても落ち着く。この店の居心地のよさはマスターが作り上げているのだろう。



「そうだ、僕に聞きたいことって、なんでしたか?」


 私が落ち着いたのを見計らって、マスターは声をかけてくれた。こんな若い男なのに、甘えたくなるような包容力がある。私の伴侶候補にしてもいいかもしれない。


「あ、明日の入学式なんだけど、服装はどうすればいいのかと思って…。知り合いもいないから…」


「そうですねぇ、学生さんは入学式は服装はマチマチですね。すっごくオシャレをする人もいますし、普段着のままの人もいます。でも、式の後に試験があるはずだから、動きやすい服装がいいと思いますよ」


「そう、特に決まりはないのね」


「ええ、そのままで大丈夫ですよ」


「マスターは、学校のこともよく知ってるのね。あ、そうか、ここは昼間は学生が多いんだったわね」


「そうですね。学生のたまり場になってますし、それに僕は、学校で非常勤の教師をしていますから」


「ええっ? そんなに若いのに教師なの?」


「ふふっ、若く見られますがもう70歳近いんですよね、僕」


「ええっ!?」


「種族的に不死なんです。あ、怖がらないでくださいね」


「そ、そうなのね。驚いたわ。私より若いかと思っていたもの」


「気持ちは若いので、年寄り扱いはしないでくださいね」


「あはは、しないわよ。だって10代半ばにしか見えないもの。そういえば、今日、寮まで案内してくれた子も、チビっ子かと思ったら30代だと聞いて驚いたわ」


「あー、それ、僕の息子かもしれません。綿菓子のようなモコモコ帽子をかぶっていませんでした?」


「綿菓子?」


「えーっと……あんな感じの…。あ、本人登場ですね」


 そう言われ振り返ると、泣きそうな顔をしたシャインくんが入り口に立っていた。


「あ、シャインくん! そう、この子が、マスターの息子? ちょっと待って、あのルシアさんは…」


「ルシアは、娘ですよ。シャインとは双子なんですけど、見た目が最近は親子ほど離れてしまいました」


「へ、へぇ……。なんだか混乱するわね」


「人族の皆さんは、だいたい混乱されます。でもすぐに見慣れてくると思いますよ」


「そ、そう。えーっと、えっ? ということは、マスターは神族なの? 双子の父親は神族だと聞いたわ」


「はい、そうですよ」


「そう。強くはないのに……神族にもいろいろな人がいるのね」


「ふふ、僕は、白魔導士ですからね。争いごとは嫌いです」


「そう…。あ、あの……シャインくんが泣きそうだわよ?」


「ん? あー、またいじめられたのかもしれませんね」


「放っておいていいの? 30代でも種族的には、まだ赤ん坊だって聞いたわ」


「ええ、構ってくれる人を待ってるみたいですから、大丈夫です。ご心配いただいてありがとうございます」


 しばらくすると、さっき水を持ってきてくれた赤毛の獣人の女の子が、シャインくんの頭をなでていた。

 シャインくんは、目に涙をいっぱい溜めて、口をへの字に結んでいる。大泣き直前のようだ。


(ふっ、かわいいわね)



 マスターは、私に軽く会釈して、別の客に呼ばれてカウンターから出ていった。


 私はマスターの年齢や、子供がいることを聞いて、少しショックだった。

 でも、シャインくんは伴侶にするにはあまりにも幼すぎる。それにあと10年経ったとしても姿はあのままなら、さすがに伴侶候補にはできない。


(いやいや、伴侶を見つけにきたわけじゃないわ)


 モヒートを飲みながら、カウンターの他の席の客を見た。カップルもいるが、一人で来ている客がほとんどだ。きっとこの店の、落ち着いた雰囲気が好きなんだろう。


 昼間はカフェのようだったが、夜は照明も変わってとてもいい雰囲気だ。ボーっとするには最適な場所だわ。


(また、夜、ひとりで来ようかしら)



 私は、明日のことを思い出し、店を出た。お会計はマスターの好意に甘えることにした。


 寮に戻ると、管理人さんが、おかえりと言ってくれた。なんだか、あの夢の中で見た世界のような温かさを感じた。



 部屋に入るとすぐに、ベッドに入った。見慣れない天井を見ていると、国を出たんだということを実感した。


 最後に目に焼き付いてしまった先輩の顔が、鮮明に蘇ってきた。そうか、私は転生者だから、前世の記憶や感覚を持っているんだ。だから、まさかの恋愛感情がある。


 このことがわかったことは、この島に来た大きな成果だと思う。そうだとわかって、スッキリしたのだ。


 それにあの猫耳の謎の美少女さんが、封印は悪意のないものだと言っていたことも、大きな安心になった。

 私は無意識のうちに、ある日突然、自分が自分でなくなるかもしれないという恐怖を感じていたのだ。かなりのストレスになっていたのだと思う。




『朝ですよー、授業ある人、起きなさーい!』



(えっ!?)


 私は、頭の中に直接響く声に驚いて目が覚めた。あれ? 爺は……あ、そっか。アマゾネスを出たんだった。


 今日は夢を見なかった。あまり寝ていないが、とてもスッキリしていた。私は、部屋についているシャワーを浴びて、身じたくを整えた。



『朝ですよー、まだ寝てる人は朝食抜きになるよー。今朝は、ロバンのサンドイッチだよー』


(すごい、さすが学生寮って感じ)


 朝起こしたり、朝食の案内をするのも、管理人さんの仕事らしい。頭の中に直接響く声には驚いたけど…。これって、念話よね。


 私は昨夜の食べ放題で、まだお腹が空いていなかった。学校には食堂もあるだろう。私は、寮の食堂を通過して、寮を出た。




 私は、寮から城壁内の広場を通って、学校に向かった。まだ朝早いが、広場にはたくさんの人がいた。


 広場の中央にある、大きな石造りの泉には、多くの人が入っていた。泳いでいる子供もいる。泉のふちに腰かけて、足だけを泉につっこんでいる人も多い。


(なんだろう? 水辺を求めている種族かしら?)




 そして、私は学校に無事、到着した。早すぎたかとも思ったが、すでに大勢の人がいた。見た目の年齢はバラバラだ。

 昨夜マスターが言っていたように、服装もマチマチだった。私の服も特に不自然ではないようで安堵した。



「へぇ、キミ、新入生? 人族?」


 後ろから声をかけてきた男がいた。振り返ると、男のまわりには3人の女性がいた。


「何かしら?」


「キミ、緊張してるの? 俺が、王国の第11王子だからかな? ここでは身分をひけらかすのはタブーなんだ。気軽に接してくれていいからね」


「は? 別に」


「へぇ、キミ、かなりの上玉だね。いいね〜」


(何? この無礼な男!)



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