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18、ひとすじの涙

 ミューがガツガツ食べる横で、色っぽい女性がやわらかく微笑んでいた。


「ミューちゃんが食べてる姿って、見てると癒されるわよね〜。えっと、ローズちゃん、でいいかしら?」


「えっ……あ、はぁ」


(ちゃん呼びされたのなんて、初めてだわ)


「ふふっ、もしかして、無礼者かしら? 私」


「い、いえ。私が通う学校の先生なら、構いません」


「ローズちゃんは、マジメなのねぇ。ふふっ、かわいいわね」


(えっ? 私がかわいい?)


 そんなこと言われたことなんてない。私は、サーチ魔法を使ってみて驚いた。すべての能力が私の10倍はある。なるほど、だから教師なのね。


「ルシアちゃん、ローズ様は、ミューの国の次期女王になるんだよ」


「あらそう、大変な重責ねぇ」


 ルシアさんは、ミューにそう返事しながら私の方を見ていた。私のことは、すべて知っていたかのようにも思えた。


「はい、そうですわね」


「ふふっ、そんなかしこまらなくて大丈夫よぉ。教師とはいっても、そういう仕事だというだけよ。学生の方が優秀だったりするもの」


「そんな、ルシア……先生は…」


「ふふっ、ルシアちゃんでいいわよ。ちゃん呼びされる方が親しみを感じるもの」


「わ、わかりました、ルシア……ちゃん」


「うふっ、よくできました〜」


 ルシアさんは誰かに気づき、手を振っていた。食べ放題の店に一人でくるわけはないか。


「あ、そうだわ。ローズちゃんの席には男はいない方がいいわね。私が連れの席に移るわ。また、学校でね〜。ミューちゃんも、またねぇ」


 そういうと、ルシアさんは、他の席へと移動していった。私がアマゾネスだとわかって、気を遣ってくれたようだ。



「ミュー、ルシアさんって何者なの? ありえないくらい強いんだけど?」


「ん? ルシアちゃんのお父さんが神族だから、神族の子孫かな? 種族はわかんないです〜。ハーフには違いないけど」


「神族の子孫…。なるほど、納得したわ。さっき言ってたルシアさんの兄貴って、私、会ったことあるのかしら?」


「ほへ?」


「ほら、さっき、ワケありの転生者って言われたじゃない?」


「あれ? 似てるから気付いてるかと思ってましたー。ルシアちゃんは双子なんですよー」


「あんな色気を振りまく男って、いたかしら? あー、バーで会った二人組の男? いや、違うわね、20代の男はカバンだもの」


「ローズ様、さっき話してましたよ? ルシアちゃんの兄貴は、シャインくんです。見た目は逆だけど、ルシアちゃんは妹ですよ」


「ええ〜っ!? シャインくんは4〜5歳じゃないの」


「うーん、二人とも30代だと思います〜。何歳かは正確には知らないです〜」


「ええ〜? ルシアさんが30代はわかるけど、シャインくんって、チビっ子じゃない?」


「うーん、そういう兄妹って、普通ですぅ。アマゾネスでは少ないですけど…」


「そ、そうなの? だから、シャインくんはあんなにしっかりしていたのね。30代には絶対見えないけど」


「シャインくんは、種族的にまだ赤ん坊ですよー。たぶん500歳くらいで成人だったと思いますー」


「ええっ!? そ、そう…。いろんな種族がいるのね。双子の妹は成人よね?」


「ルシアちゃんは15歳くらいが成人だったと思いますよ。あの二人、5歳くらいまでは見分けがつかないくらい似てたんですよ〜」


「そう…。あれ? シャインくん、管理人さんと話してたときはもう居なかったわよね? なぜ、私がワケあり転生者だってわかったのかしら?」


「うーん、話を聞いていたんじゃないですかー。あの子、耳はいいので離れてても聞こえてるみたいです。もしくは、念話かもですねー」


「そ、そう。耳がいいって……あ、もしかして獣人? さっきは帽子でわからなかったけど」


「シャインくんはハーフだけど、狼の血が濃いから獣人ですねー。ルシアちゃんは、狼の血が薄いから人族に見えるけどやっぱハーフですよー」


「そう…」


 ミューは、自分自身がよくわかっていないのか、説明がなんだかよくわからない。結局ふたりは、人族と狼系獣人のハーフの双子ってことなのね。



 くいだおれて動けなくなっているミューを横目に見ながら、私は明日の試験のことが頭をよぎった。

 私はこの街に来て、随分考え方が変わった気がする。驚きすぎた、とも言えるかもしれない。


「あ、ローズ様、そろそろ戻って寝る方がいいですね〜。ミューも、もう限界ですよー」


「そうね」


 私達は、店を出た。ミューは、苦しそうな顔をしている。やはりスタートダッシュで食べるとたくさん食べられるというミューの説は正しいのかもしれない。


「じゃあ、ミュー、宿で寝なさい」


「ローズ様〜、寮まで送ります〜」


「場所は覚えてるからいいわよ。じゃあね」


「あわわ、あの、ミューに用事があるときは、この宿のフロントを訪ねてください〜」


「わかったわ。晩ごはん、ごちそうさま。じゃあね」


「ローズ様、明日頑張ってくださいね〜」




 ミューと別れて、私は通りを歩いて寮を目指した。オフィスビルのような塔はどこからでも見えるから、この街はわかりやすい。


 あの塔を囲む城壁の周りに、学校や寮があるのも、留学生にとってはうれしい。

 シャインくんと同じ腕章をつけた人が、街のあちこちで歩いているのを見つけた。迷い子対策は完璧ね。



 ふと、私は明日の服が気になった。入学式で、このままでいいのだろうか?


 ミューの所に戻るのもどうかと思い、私は少し悩みながら歩いていた。荷物をいれたカバンは、ミューがくれたブレスレット式のアイテムボックスに入れてある。ただ、必要最低限の服しか持ってきていない。



 私は気づくと、城壁内のあの店の前にいた。あの猫耳の少女がいればいいけど、マスターも親切だったからマスターでもいいか。あの失礼な男達はもう居ないはずだ。



 カランカラン



「いらっしゃいませ。おや、昼間のお嬢さん」


「こんばんは、マスター。ちょっといいかしら? 聞きたいことがあって」


 私がそう言うと、マスターはにこりと笑って、どうぞと言ってくれた。ほんと、男なのに女性みたいね。


 私が入り口近くのカウンターに座るとすぐに、とても可愛らしい赤髪の女の子が、水を持ってきた。この子も獣人のようだ。


「いらっしゃいませ、どうぞ」


「あ、私は客で来たわけじゃなくて…」


「大丈夫、お水は無料なの。しゃべりに来るだけの人もたくさんいるから、気にしないでどうぞ。イーシア湖の水だから、美味しいの」


「そう、ありがとう」


 私は、水を一口飲んで驚いた。すごく美味しい。少し冷やしてある。コロッとしたかわいいコップも気に入った。


(何か注文する方がいいかしら)



 私がどうしようか考え始めたときに、マスターが私の目の前に、スッとグラスを置いた。あれ? これは…。


「モヒートです。ジンベースで作りました」


「えっと、私、注文してないわよ」


「昼間のお詫びです。彼が失礼なことをしたので…」


「あー、あのカバンの彼…」


「はい。でも、彼の方から誘うのは珍しいんです。よほど、貴女のことが気に入ったようです」


「ふっ、私じゃなくて、私の種族でしょ? アマゾネスとは付き合ったことないからと言っていたわ」


「そうかもしれません。でも僕としては、これが彼の成長の証だと思うと、少し嬉しかったです。ほんの少しずつですが、感情が豊かになってきているのですよ」


「ふぅん…」


「あ、申し訳ありません。彼が失礼なことをしたのに…」


「別に構わないわ」


(モヒート……美味しいけど、なぜか胸が苦しいわ)


「そうそう、僕に聞きたいこととは何でしょうか」



 私は顔を上げた。ふと、私のほほを涙がひとすじ、ツツーッと流れた。マスターは、驚いた顔をしている。私も、驚いた。


(なぜ涙が……?)



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