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16、小さな男の子シャイン

「入学後の試験というのは?」


「クラスチェックの試験です。魔法の学校ですが、教養、剣術の試験もあります」


「えっ、魔法の試験もあるんですか!」


「へ? はい、魔法学園ですから当然です。ただ、ローズさんの場合は、魔法クラスはおそらく一番下のクラスになると思います。適性はあるのに使えないから、留学するために来られたんですよね」


「あー、はい」


(そういう理由になっているのね…)


 母は、私を遠ざけたかっただけのはずだが、もっともらしい理由をつけたのか。あの呪術士の男達が、この街に高位の幻術士がいると言っていた。あれは母が言わせた、私への、もっともらしい理由かもしれない。


 さっき会った猫耳の少女でさえ、私の封印のことがわかったんだから、わざわざ高位の幻術士を訪ねなくてもわかることかもしれない。



「あの、学費や寮費の支払いは…」


「学費は無料です。寮費は、一人部屋は1日あたり銅貨10枚です。寮でお支払いください」


「えっ? 無料? それに寮費も安い」


「神立の学園ですから、すべて女神様が出資されているのです。ですが、学習に必要な文房具などは、購入してください。銅貨1枚ショップの支店がありますから」


「わ、わかりました」


「では、楽しい学園生活を。お困りのことがあれば、お気軽に役所へお越しください。関係各所をご案内します」


「はい、ありがとうございます」




 私は、ミューと共に役所を後にした。寮の部屋の鍵は、寮で学生証を提示すれば渡してくれると言われた。


「寮ってどこにあるか聞くのを忘れたわ」


「ん? 城壁の外をぐるりと歩けば、そのうち着きますよー」


「かなりの距離じゃない」


「えーっと、学園のどっち側の寮か、わかんないですから〜」


 城壁から外に出たところで、ミューと少し言い争いになった。すると、腕章をつけた小さな男の子が、近寄ってきた。


「あのー、迷い子ですかー?」


 私は、少し面食らった。どう見ても、この男の子の方が迷い子になりそうな、そんなチビっ子だった。


「わっ、もしかしてシャインくん?」


「はい、シャインです。えっとぉ…?」


「ミューだよ。半人前の妖精〜」


「あ! ミューちゃん! ごめんなさい、すぐに忘れてしまいまして…」


「気にしなくて大丈夫〜」


 目の前のシャインくん? という男の子は、とても礼儀正しい。4〜5歳に見えるけど、こんなにしっかりしてるなら、もう少し上なのだろうか。


「えっと、ミューちゃんと、お姉さん、何かお困りですか? 僕、いま、案内人のミッション中ですからお気軽にどうぞ」


「シャインくん、ローズ様がね、学園に明日から通うことになったのよー」


「あ、なるほど。では、寮をお探しですか」


「えっ!? そうよ」


(なぜわかったのかしら?)


「お二人で入居されるなら、反対側になります」


「寮は、ローズ様だけだよ。ミューはいつもの宿があるから〜」


「それでしたら、あの建物の1階に管理人さんがいますから、学生証を提示してください。部屋へ案内してくれます」


「ん? どの建物?」


「えーっと、ミューちゃんはそういえば、迷い子の達人でしたね。心配だから寮までご案内します。ローズ様、こちらへ」


「えっ? なぜ、あなたが私のことを様呼びするの?」


「あ、ミューちゃんが、ローズ様と言っていたのでつい…。すみません、えーっと……学生さん、こちらへ」


 あわあわと慌てながら、シャインくんは案内をしてくれた。なんだろう、この子、かわいいわね。なんだか見ていると癒される。


 たまに、心配そうに後ろを振り返りながら、先導して歩いている。ついてきているかの確認も完璧ね。



 寮に着くと、シャインくんが管理人さんを呼んで、事情を説明してくれた。ミューに任せておけないのはわかるけど、チビっ子にすべてやってもらうのも抵抗があった。


「ミュー、任せろって言ってなかった?」


「あははっ、街の中は、お任せくださいっ。学校のことはわからないんですー」


 私が、気にしたことに気付いたらしく、シャインくんは不安そうにしていた。キチンと仕事ができているか心配なのだろうか。


「あ、僕も、この学園の学生なので、ミューちゃんが知らないことも知ってるんです。ミューちゃん、案内しすぎたかな? 僕…」


「シャインくん、助かるよー。ローズ様が学園で困ってたら、また助けてあげてね」


「はい、了解です」


 ミューがそういうと、シャインくんは、やっと笑顔になった。なんだか、女の子みたいに笑うのね。この年齢では、あまり男女差がない種族なのかもしれない。


 シャインくんは、ぺこりとおじぎをして、また街の中へと走っていった。案内のミッション中って言ってたわね。ギルドミッションかしら?



「じゃあ、ローズさん、鍵を渡しますからね。扉は、右手か左手、どちらで開けますか?」


(ん? どういうこと?)


「えっと、右手かしら?」


「では、右手を出してください」


 そう言われて、私は右手を出した。すると、右手の手のひらに少し魔力を感じた。


(ん? 何をしたの?)


「はい、では、部屋に案内しますよ。付いてきてください」


「えっ? あの、鍵は……もらってないですが」


「今、渡しましたよ?」


「どこに?」


「あー、もしかして、ローズさんは神族じゃないのですか? 神族の街では、当たり前の鍵なのですが…」


「私は……アマゾネスよ」


「へぇ、珍しい。アマゾネスにも転生者がいるんだね。転生者は、神族のみかと思ってましたよ」


「えっ…。転生者だとなぜわかるの?」


「ん? 記憶をつかさどる部分が発達しているんですよ。前世の記憶も併せ持つのですからね」


「そ、そう…。やはり、私は転生者なのね」


「何かワケありのようですね。困ったことがあれば、いつでもどうぞ」


「ありがとう」



 管理人さんは、体格のがっしりした中年の女性だった。何があっても動じないように見える。各棟に、数人の管理人がいるという。彼女は、この棟の夕方から夜中を担当しているそうだ。


 鍵は、私の右手に既に入っているらしい。案内された部屋の扉に近づくと、カシャリと鍵の開く音がした。離れると、勝手に施錠されるそうだ。

 すぐに鍵を紛失する学生が多いため、このような仕様になっているらしい。私はとても驚いた。


「必要な家具は揃っています。気に入らなかったら、好きにいじって構わないですよ」


「わかったわ」


 管理人さんは、ひらひらと手を振って、管理人室へと戻っていった。



 部屋の中は、予想よりも広かった。寝室とリビングと何も置いていない部屋の3部屋だった。


 リビングには、テーブルセットの近くに、不思議な白い箱があった。開けてみると中はひんやりしていた。冷蔵庫? 夢で出てきたものよりは小さいが、冷蔵庫のようだ。


「いいなー。ローズ様の部屋、ミューも住めるくらい広いですね〜。それに、神族の街にしかない冷蔵庫完備だなんて」


「二人部屋ならもっと広いのかしら? 学生には贅沢ね」


「ミューも、ここに住もうかな」


「お好きにどうぞ〜」


「あ、でも、勉強の邪魔って怒られるから、ミューはやっぱり、いつもの宿にします〜」


(まぁ、確かに…)


「ミューの宿って、どこにあるの?」


「えーっと、くいだおれストリートにあります。赤屋根の宿ですよー」


「何? そのストリート…」


「宿以外は、すべて飲食店なんです。くいだおれストリートの宿に宿泊すると、なんと、くいだおれストリートでの飲食がすべて半額なんですっ!」


「ミュー……それが狙いね?」


「それに、お連れ様も半額になるから、ローズ様も一緒にくいだおれできますよ〜」


「そ、そう…」


 ミューは、キラキラと目を輝かせている。そんなに、くいだおれたいのだろうか…。


「とりあえず、行きましょう!」


(こんな顔のミューは、止められないわね…)



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