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14、不思議な少女と無礼な男たち

「ティア様、突然そんなことを言うと、怖がられますよ?」


「なっ? なぜじゃ、事実を言うただけではないか」


 私は、混乱していた。この猫耳の獣人は、私のことを地球からの転生者と呼んだ。転生者って何? 地球だなどという地名は聞いたこともない。


「ティアちゃん、一体どういうこと? ローズ様が……転生者って? 地球ってどこにある国?」


「ミューじゃったか? そうじゃ、転生者じゃ。地球は国名ではない、星の名前じゃ」


「ええ〜っ? 他の星の住人だったのー?」


(ミュー、この失礼な獣人と知り合いなの?)


 猫耳の少女はチラリと私の方を見た。もしかしたら、頭の中の思考を覗けるのか?


「おぬし、随分と混乱しておるようじゃな。その封印を施した者についての記憶はあるか?」


「あなたね、さっきから言葉の使い方がなってないわよ。初対面なのに、いきなり上から目線で……いったい何様のつもりかしら」


「ふむ。怒ったのか?」


「お、怒らないとでも思ってるの? 散々、さっきから失礼な言い方ばかり…」


 この少女は、面倒くさそうな顔をしている。だが私を全く怖れていない。この少女の戦闘力は見えないけど、隠す能力が高いだけかもしれない。


 そもそも、草原の精霊が言っていたことだ。彼が真実を言っていたかはわからないのだ。



「ババア、うるさいで。また叱られて小遣い制にされても知らんで」


 奥にいた男が、少女をババア呼ばわりしている。男の分際で、なんてことを…。


「ちょっと! 貴方の怒鳴り声の方が、よっぽどうるさいわよ。女性に対してババア呼ばわりするとは、なんて品がないの!」


「は? おまえなー、俺は助けたったんやで?」


「わわ、ローズ様、落ち着いてください〜。相手が悪いですよ〜」


 ミューは、慌てていた。コソコソ隠れている。


 確かにあの男も戦闘力は見えないけど、あんなガラの悪い関西人なんて…。え? 関西人って……何? そんな種族、知らないわ。



 ふたりの男のうち、若い方の男が私の方へと歩いてきた。20代半ばくらいに見えるが、もう少し上かもしれない。銀髪で色白だ。とても整った美形だけど、この男も品がない。ヘラヘラして軽薄そうに見える。


「アンタ、サーチ能力ねーの?」


「なっ……サーチ魔法くらい使えるわよ」


「で、このおっさんにケンカ売ってるわけ? ふつーなら、そんな文句は言わねーだろ」


「だって、あの男は、この少女にババアって言ったわ。女性を卑下しているのよ!」


「ふーん、アンタ、アマゾネスか」


「だったら、何よ!」


「オレのこと、怖くねーの? こんな近くにいるんだぜ?」


「逆に聞くけど、貴方、私のことが怖くはないわけ? 私は、国では…」


「ふーん、そんな性格だから怖がられてたんじゃねーの。アマゾネスの王族か?」


「なっ、だから…」


(えっ?)


 私は、いま、何が起こっているか、一瞬わからなかった。私は、この、見ず知らずの銀髪の男に……唇を奪われている!?


 ふりほどきたいのに、なぜか力が入らない。何かの術なのか? いや、違う…。あまりにも驚くと、人は動けなくなるのか。


 チュッと音を立てた後、この男の顔が少し離れた。だが彼は、まだ私のアゴに手をかけたまま、ジーっと私の顔を見ている。


「なぁ、アンタ……オレの女になる?」


「は? な、何を……っ」


 パチン!


 私は、思いっきりこの男の頬をひっぱたいた。彼は、なぜか避けなかった。


「いてーな。で、返事は?」


(な、何? この男、最低!)


「どうして、私があなたの女にならなきゃならないのよ!」


「だって、オレ、アマゾネスと付き合ったことねーから」


「は? さ、最低ね!」


 私は、今度は、拳を握りしめて殴ろうとした。でも、簡単に手をつかまれ、身動きができなくなった。


「で、返事は?」


「なるわけないでしょ! 無礼者!」


「えー? ウソ〜」


 この男、最低すぎる。きっと自分に自信があるんだ。どんな女も手に入ると思っているんだ。



 クククッ


 男の笑い声がした。さっきの変な話し方をする中年の男だ。なぜか楽しそうに笑っている。


「おまえが振られるとこ、初めて見たで」


「まだ、振られたとは確定してねーじゃねーか」


「リュック、やめておくのじゃ。また主人に地下牢に閉じ込められても知らぬぞ」


「それは、別件だろーが。そんな昔のこと、いい加減に忘れろ」


 若い男は、猫耳の少女を睨んだ後、中年の男の方へとツカツカと戻っていった。


 そして、もうまるで私のことなど忘れたかのように、二人で話を始めた。仕入れがどうとか言っている。仕事の話か…。



 こんな初日から、妙な男達に絡まれて、しかもキスまでされて、断るとスッと興味をなくしたような態度……なんて、無礼なの? ありえない!


 せっかくいい店を見つけたと思ったのに、もうこの店には来られない。


「ミュー、出るわよ……あれ? ミュー?」


 すぐ横の席にいると思っていたミューがいない。えっ? どうして?



 キャハハハ


 テーブル席から、ミューの笑い声が聞こえた。振り返ってみると、ミューは、少し離れたテーブル席に紛れ込んでいた。

 しかも、自分のオムライスをちゃっかり持って行ってる。知り合いの席に、避難したというところか…。


 マスターと呼ばれた少年は、その席の近くで団体客の接客をしていた。


(いつの間に…)



「心配せずとも、あのふたりには、さっきのことは見られておらぬ。ふたりが見ていたら、こんなことにはなってなかったじゃろうが…」


「そ、そう…」


 私は、ホッとした反面、複雑だった。猫耳の少女は、ジッと私を見ていた。


「あの銀髪の奴は、男の『人』ではないのじゃ。誰かの荷物にぶつかったと思っておけばよい」


「えっ? どう見ても男でしょ」


「アイツは、カバンじゃ。魔道具じゃ」


「へ? 魔道具? もしかして……魔人?」


「うむ。魔道具から進化した魔人じゃ。ただのカバンじゃ」


「カバンにキスされた…」


「そうじゃ。だからカバンにぶつかったと思っておけばよいのじゃ。アイツには感情がない。気にするだけ無駄じゃ」


「そ、そう…。あ、さっきの転生者って本当の話なの?」


「事実じゃ。おぬしには二重の仕掛けがあるようじゃ。時が来ればわかる」


「じゃあ、やはり妙な夢や、この街を懐かしく感じるのは呪いのせいなのね?」


「うむ、夢を見るのは仕掛けのひとつじゃろうな。心に負担をかけぬように、少しずつ思い出すようにしてあるのかもしれぬ。この街のどこが懐かしいのじゃ?」


「この街に入ってからは、意味の知らない言葉が突然私の口から出たりもするわ。懐かしいのは、この店も、あの塔の外観も…」


「ふむ。じゃあ、あの柄の悪い男や、ここの街長と、同じ故郷じゃろな。同じ国で生きていた時代も近いのじゃ」


「えーっと、どういうことかしら?」


「おぬしは、神族がすべて転生者だということは知っておるか?」


「えっ!? そもそもの転生者がわからないわ」


 私がそう言うと、猫耳の少女は目を見開いた。信じられないものを見たような顔だ…。そうか、アマゾネスは閉鎖的だ。他の国の文化や種族の情報には、うとい。


「転生者というのは、前世の記憶を持ったまま、別の時代や別の世界に、生まれ変わった者のことじゃ」


「そんな不思議なことが起こるの?」


「うむ、偶然に起こることもあるが、神々がそれに関わることも多いのじゃ。この星の神族は全て、この星の女神が他の世界で死んだ者を、この世界に転生させたのじゃ」


「なぜ、そんなこと…」


「さぁ? 知らぬ。家族でも欲しかったんじゃないかの」


「迷惑な話ね」


「ふむ。まぁ、そういう捉え方をする神族もいるじゃろうな。何が幸せかは、人それぞれじゃからな」


「なんだか、年寄りのように悟っているのね。まだ子供に見えるけど」


「見かけに騙されてはいけないのじゃ」


(そういえば、ババアって言われてたわね)



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