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12、湖上の街に

「この島のギルドの登録者カードの提示をお願いします」


 湖にかかる橋を渡ったところで、若い女性に声をかけられた。腰に剣をぶら下げているが、服装はシャツにハーフパンツだ。兵にも門番にも見えないが……門番なのか?


「えっ? ミューは今まで引っかかったことないよー」


「どちらの方かわからないですが、カードの読み取りができなかったみたいです。魔防バリアを張っていると読み取りできません。バリアを解除してから、橋は渡ってくださいね」


(橋に、サーチ魔法でもかけてるのね)


「あ! ローズ様はこの街に来るのは初めてだから、登録者カードないんだった」


 ミューは、突然あわあわと慌て始めた。こないだ話していたはずなのに、すっかり忘れていたのね。



 門番らしき女性はミューのドタバタっぷりに、あっけにとられたような顔をしている。


「え……えーっと、コホン。ローズさん、この街への訪問目的と滞在予定期間を教えてください」


「私は、この街の学校に留学しに来たのですが、何もわからなくて、彼女が案内をしてくれているのです」


「あー、なるほど。それでこんなに慌てておられるのですね。留学でしたら、入学後にギルドから登録の案内がありますから大丈夫ですよ。優先登録ができるはずです」


「えっと、留学じゃなければ、登録は難しいように聞こえますが…?」


「はい。いまは特に混んでいる時期でして、おそらく3〜4週間待ちだと思います」


「ええっ?」


「登録希望者が多くて、ギルドも交代制でフル稼動なんですが、追いつかないようです」


「そんなにですか」


「ええ、でも、学生証があれば、街の出入りは自由にできますから、ご安心ください。でもギルドミッションの受注は、登録者カード発行後になりますが…」


「えっ! それなら焦って損したー」


「ミュー、なぜ街の出入りでそんなに…」


「だって、いったん出ると、しばらくは入れないんですよ」


「ん? そういうルール?」


「わかんないですー」


「街の治安を守るために、短期間での再訪問はお断りしているんです。そういう結界が草原に張られているそうです」


「えーっと?」


「ぶっちゃけると、街で暴れる困った人を、街から追い出す仕組みです。登録者カードを一時的にギルドが没収するんです。街を囲む草原には、カードを所持しない人の再訪問を弾く結界があるので、精霊に言わないと入れないです」


「精霊って、あの好戦的な?」


「あ、会いましたー? そうです。精霊ヲカシノ様です」


「草原の精霊? 新しく生まれた精霊かしら?」


「いえ、お菓子の山の精霊です。夢の精霊とも呼ばれてます。人の心を守っている精霊ですよ」


「えっ? 異次元にいるお菓子の家の精霊?」


「はい、そうですよ」


「あんな失礼な奴だったなんて…」


「ローズ様、子供の頃からお菓子の家の精霊に憧れてましたよねー」


「それは、あのおとぎ話が好きだっただけよ。それに精霊は女の子として描かれていたもの」



 私は子供のときに文字を覚えるために、精霊や、精霊を守る守護獣についての童話をよく読んでいた。その中で特に気に入っていたのが、お菓子の家の精霊の話だった。


 その精霊は、極度の方向オンチで、目印のために、歩く道の草木をお菓子に変えて歩くのだ。魔物がそれをすべて食べてしまい、帰り道がわからなくなった精霊が怒ってその魔物を斬り倒す。実は、その魔物は、この村に住み着いて人を食い殺す凶悪な魔物だった……こんな感じの話だった。



「実話に基づいているって聞いてたけど、全然イメージが違ったわ」


「ん? ヲカシノ様が方向オンチなのも、道しるべにあちこちの草木をキャンディやクッキーに変えるのも、戦闘狂なのも事実ですよー」


「ミュー、そうなの?」


「ですよねー?」


 ミューは、門番らしき女性にも同意を求めていた。


「えっ? もしかして……貴女もヲカシノ様のファンクラブの会員なのね。キャンディやクッキーに変えると知ってるのはファンクラブの会員の証。普通ならお菓子に変えるとしか知らないもの〜」


「ミューは、ずっと前から会員ですよー」


「私も入ったのよ。ヲカシノ様って、いろいろな顔があって、いいわよね〜」


「うんうん! カッコいいし、優しいしー」


「そうそう、ステキよね〜」


(何? ミューって、もしかしてあの精霊が好きなわけ?)



 私には、ファンクラブの意味がわからなかった。この街には不思議な文化があるらしい。普通、ファンクラブって言ったらアイドルよね? あれ? アイドル……って何?


 私は突然頭に浮かんだ不思議なワードに困惑した。これも呪いのせいなのか。何者かが私を操ろうとしているのだろうか…。


「あー、入学手続きでしたね。ついついおしゃべりしてしまってすみません。こちらへどうぞ」


 私が困った顔をしているのを、二人の会話に困っていると誤解したらしい…。門番らしき女性は、仕事を思い出してくれたようだから、まぁいいか。




 彼女に連れられて、街の門をくぐった。この街には、8つの門があるそうだ。この門は南東の門だそうだ。


 そして門の内側には、転移魔法陣があった。この街の中心部と、それぞれ8つの門に移動できるそうだ。確かに、この街は広いから、そうでもしないと移動が大変ね。


「まず、役所に行ってください。たぶん待たされるから、お食事休憩は待ち時間を利用するといいですよ」


「はーい、わかったよー。あとは任せてー」


 門番らしき女性は、ミューを不安そうに見ながらも、笑顔を作っていた。うん、私も不安だわ。



 私達は、転移魔法陣の中へと入った。門番らしき女性は、黒い半分に切った球体のようなものに触れていた。


 なんだろう? 見たことのないものだが、半玉を魔力が流れているのがわかった。転移魔法陣の動力源なんだろうか?


「では、中心部、城壁内の塔へ転移しますね。いってらっしゃいませ〜」


(えっ? あの塔へ? 役所に行くんじゃ…)


 ブワンとかすかな振動を感じた次の瞬間、あの塔の前に居た。ありえないくらい大きな塔だ。それに、私達の姿が塔に映っている。


「ローズ様、驚きました? この塔は黒いガラス張りになっているんですよ。でも、中からは普通に外が見えるんですよー」


「まるで、オフィスビルね」


「ん? 何ですか? オフィス?」


「えっ? 私また変なこと、言ったわね。何かしら? ミュー、私の呪いの封印はもしかして解けて呪いが発動しているの?」


「むむ? がっつり封印されてますよー」


「そう…」


「あ、たぶん、ローズ様、疲れてるんですよ。さっさと手続きして、宿をとって早く休みましょう」


「そうね」



 ミューは、塔の入り口横の黒い半玉を、パチンと叩いていた。すると、入り口のガラス扉がスーッと開いた。自動ドア?


 中に一歩入って、私は背筋が凍った。この雰囲気は冒険者ギルドのようだ。ガヤガヤと賑やかで、たくさんの人達がいる。


(ちょ……私がザコじゃ…)


 ここにいる冒険者達の半数以上は、私より戦闘力が高い。そして戦闘力の見えない人も何人もいる…。

 草原であの精霊が言っていた、世間知らずというのはこういうことか。私は、ガンと頭を殴られたような衝撃を感じた。



「ローズ様、こっちですよー」


 ミューは、全くここの人達を恐れもせずに、奥へスタスタと歩いて行った。大きな柱の前で、また半玉に触れている。


 チン!


 大きな柱が開いた。いや、これって?


 ミューに促されて、その箱の中に入った。ミューは、7階のボタンを押していた。途中、人が乗ったり降りたりして、7階に到着した。


「ローズ様、驚いたでしょう? エスカレーターって言うんですよー」


「ん? エレベーターでしょ?」


「あ、そうだった〜。あれ? どうして知ってるんですか? この街にしかない物なのに」


「なぜかしら……わからないわ」


(私は、いったい…)



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