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第三幕

美しい女性だ。波打つ飴色の髪が腰まで流れ、丸眼鏡の向こうには暗紅の瞳の色をしているが紫苑とは違い包み込む様な温かさがあった。優し気に微笑をたたえた口は薄く今様色の紅が塗られている。


「お母様……………?」


「……起きている貴方に会ったのは久しぶり。その瞳の色はやっぱり変わってないのね。安心した。」


おずおずと寄って来た娘をギュッと抱きしめると紫苑の瞳を覗き込んで嬉しそうに微笑んだ。


「どうして嬉しいの?」


「貴方のお父様の目だと何だか合わせずらいもの。あんまり、というかかなりあのクソ旦那様の事好きじゃないの私。」


あぁ、そんなことよりもとお母様が私を高く持ち上げてクルクルと回しながら喋り出した。正直、シャンデリアが頭に当たりそうで死ぬほど怖い。というか当たったら死ぬ。


「私ね。貴方に自分から関わる資格も無い人間だから、貴方が私に会いたいと思うまで、会うのを我慢してたの!嬉しいわ。こんなに嬉しい事は無いわ!」


お母様は目がグルグルしている私をソファーに綴と一緒に座らせると綴に自己紹介を始めた。


(こんな綺麗で若干騒がしい人だったのね。紫苑の母親なんだし、想像は出来るけれど。お父様に愛されていない事を気に病んでる様子も無い。寧ろ大分嫌ってるわ。お母様の実家にお父様の目に余る仕打ちがバレない様にお母様を監禁状態にしてる訳だし当然かもしれない。)


「お母様。何故私に会いに来てくださらなかったの?本当に私とどう接すれば良いのか分からなかっただけなのですか?」


「………それは、織部がそう言ったの?」


「はい。」


クスクスと可笑しそうにお母様は笑った。


「そう。……織部は心配性だから。……子供に言う事では無いのかもしれないけれど、もう貴方と話すことも出来ないでしょうし……………私は貴方と会う事は禁止されているのよ。ここから出ることも。だから私の手の者の使用人以外の前で貴方に会う事は許されない。勿論、貴方と喋ったなんて知ったら、もう私は何をしようにも監視が付くでしょうね。今必死で織部達が屋敷の監視カメラも他の使用人の目も退ける様に頑張っているけれど………そうもたないわ。」


お母様は出来るだけ陽気に話そうとしていても、声音が少し上ずっていた。


「では、どうしてお母様は逃げないのですか?」


「……貴方を置いて逃げることなんてできないわ。もう一度離れてしまったら、旦那様は貴方を厳しく監視するでしょうし、幾ら喋る事が出来なくたって、顔を見れなくなるのは寂しいもの。それに、今貴方を連れて逃げたとしても分かっているかもしれないけれど、紫苑と綴の婚約者は双方の企業に大きなメリットが有るの。私と旦那様の結婚も。3つもの大企業の友好関係が壊れるかもしれないのよ。」


(なるほど。そういうお母様の思いも企業関係も込みで情報漏洩を防いでたってわけね。あのクソ親父。でも一つだけ誤算があるわ。私が前世の記憶がある静乃宮紫苑ってことよ。)


「分かりました。では、逃げましょう。」


悠揚迫らぬ態度で言い切る紫苑にお母様と綴の顔が見事に固まった。


「紫苑……?紫苑のお母様が言ったこと聞いてた?何度も言うけれど婚約は解消しない。」

控えめに綴が紫苑に言った。




「勿論聞いてたわ。でもね、お母様。私は只、遊馬の御爺様に会ってお母様と毎日お喋りしたいだけなの。そういう姿勢を見せれば良いだけの話だわ。」


どうせ4年もすればクソ親父…お父様のミスによって静乃宮家の事情は全て露呈したのだ。その時お母様が家に出戻りしたとしても紫苑は恐らく綴との婚約解消を恐れて遊馬にいくことを拒否したのだろう。出来れば私は婚約解消して乙女ゲーのキャラとして抹消されたいところだが…企業の関係をギスギスにする勇気も無いし、今の綴も許さない。それは兎も角、お母様の憂慮する事態にするのは、私達でなく蒔いた種自身が収穫すべきだ。


「でも、まず誰かに実家に実情をうまく隠して私達を誘うにしても、お父様もお母様もきっと何度か一度帰って来る様に此方に連絡を寄こしてくれている筈よ。けれど旦那様が上手く隠しているんだわ。」


「えぇ、だから今からこの屋敷を抜け出して会いに行くのです。遊馬の御爺様達に。天井裏でも何でも通って。あとは綴の車で。当然お父様が全く帰って来ない事も監禁状態である事は伏せて、次会う約束をきちんとしてしまえば良いんです。まさか二人も体調不良で行けなくなったなんて嘘は付けないでしょうから。」


お母様が心配気に、でも迷いと期待が混じったような瞳で綴を見た。


「僕は構わない。」


「…屋敷を出て車が会るのなら、ほぼ確実にこの家から出られるわ。…………良いわ。行きましょう。」

お母様はそう言うと脚立を何処からか持ち出して天井裏のパネルを開けた。


「さぁ、そうと決まったら行くわよ。私について来て。」

不敵な笑みをお母様は浮かべると細い腕でヒョイと綴と紫苑をを持ち上げてポッカリと空いた穴の間に押し込んだ。



天井裏は意外にも暗くはなく、所々に(お母様がこしらえたのだろう。)蛍光灯が靴紐の様なもので柱に括り付けられていた。。乙女ゲーでも今世でも虫を見ると怖くて固まる綴が年相応に楽しそうに洞窟(静乃宮邸の天井裏)体験が出来ている訳だし、お母様(もしくは執事さん)が掃除をしているのだろう。 

10分ほど進み続けると玄関に着いたらしくストップの指令が下った。降りた際お母様が監視用の使用人と間違えて、執事さんをノックアウト(みぞうちに腹パン)させるというハプニングは起こったが庭を走り抜けて無事に私達は綴専用の車に乗り込んだ。


「お母様…?」


「なあに?織部は(きっと)大丈夫よ。」


「あの…私と綴は監禁されている訳では無いのですから普通に車に乗ってお母様だけ天井裏から来ていれば、5分程でこの屋敷から抜け出せたのでは………………」


「(ハッ)」


紫苑と綴にひたすら謝るお母様を上手くかわしながら、紫苑は頭を働かせる。

(ここまでは上手く行ったわ。綴が来てから遊馬の御爺様に即会いに行くことを思いついた急な作戦だった割には。御爺様、もしくはその他の家族が遊馬邸にいることを願うばかりよ。もし、誰もいなくて遊馬家に会うまでにお父様の手のものに見つかったら……………考えるのは止しましょう。」


パンッと紫苑は自分の頬を叩く。


(弱気になっては駄目。安全第一、ノーリスクな将来を目指して前進あるのみよ。紫苑。)


紫苑達を乗せたロイヤル●ラウンがとうとう静乃宮邸(別邸)の二倍はあるお母様の実家遊馬邸に着いた。


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最後まで読んでいただき有難うございました。次回は紫苑の母親の名前も明かされますので、それに伴って、織部と紫苑母のプロフィールを公開しようと思います。

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