1.あれ、閻魔様ってなんだっけ?
以前掲載させてもらっていたものを改変させてもう一度掲載しました
ここはどこだ。たしか俺は屋上から落ちたはず。それならばここは病院であるはずなんだ。
ここはどこだ。どうして俺はこんな部屋で座らされているんだ。
目の前には扉があるが、俺の第六感的な何かがものすごく入りたがっている。
しかし本当に入ってしまっていいのだろうか。もう戻ってこれなくなったりしない?
「そこのドアを抜けて次の部屋へお進みください」
「うおっ」
びっくりした。いきなりアナウンスなんかするんじゃないよ!なんだ。一体どういうことなんだ。
全く状況が分からないというのに、頭は異様にスッキリしている。クリアーだ。今の俺なら周期表をストロンチウムまで軽々と諳んじることが出来る気がする。
やるしかないだろ!
スイヘーリーベーボックノッフネッ、ナマガアールシップスクラークカ。スイヘーリーベーボックノッフネッぜぇんぶ覚えってノーベル賞ー。
テテーンテレッテッテ。ッテ。
水素にヘリウムっ。リチウムベリリウム。ホウ素炭素窒素。酸素フッ素ネオ
「早くしてください」
おいふざけんな!魔法の呪文だ言ってみようまで言わせてくれよ!
おや。気がつくと大分気分も楽になったもんだな。数えるなら素数より周期表の方が効果があるってことか。
神父様も周期表を数えていれば最後まできっとうまくいっていただろう。
そんなことよりも、アナウンスの人がイライラしていたから早く行ってやるか。
ガチャリ。バタン。
なんか壁も床も黒いのに妙に明るいな。机の上のろうそくだけで、この黒い部屋をここまではっきり見せることが出来るものなのか?
あと美人な、いや、お可愛い、違うな。美しい女性が向かい側に座っている。
「そこにお座りください」
このお方はどんな下着をお履きになっているのだろうか。
この部屋に合わせてやはり黒のレースだろうか。それとも幼さの残るその見た目に合わせて純白のお可愛いパンティだろうか。
いや待て。さっきこの俺にお座りくださいと言ったよな?
お座りくださいとはどういうことだ。たしかに目の前には椅子がある。しかしお座りということはやはり、そういうプレイをするのだろうか。
普通はおかけくださいと言うだろう。そこを敢えてお座りくださいと言ったのだ。
つまり、この女性はこれから俺に首輪と目隠し、そしてボールギャグをはめるのだろう。
あのろうそくもプレイに使う用の低音ろうそくに違いない。
したがってこのお方のお履きになっているおパンティは、黒のティーバック付きガーターベルト。だ!
証明完了。
ふっ。我ながら自分の観察力には敬服の念を感じるよ。
「すみませんでした。そこの椅子におかけください」
「おっとすみません。失礼ながら考え事をしておりました」
どうだこの紳士的な返しは。思わずときめいたんじゃないか。
「では早速話を始めたいと思います」
「えぇ、どうぞ」
「吉良秋斗様。あなたはお亡くなりになられました」
え?
「え?」
「死因としてはやはり、三回建の校舎の屋上から転落したことでございます」
「はっ?ちょっと待ってくださいよ!今だって俺元気じゃないすか!」
こ、こいつ。イかれてやがるのか。この状況でっ!
かなりの美人だからってよぉ。言って良いことと悪いことってもんがあるだろう?
「馬鹿なことは言わないでくださいよ。そんなしょうもないことをこの俺に言うためにこの部屋に連れこんだんですか?違いますよね?ほら、早く縄と目隠しとボールギャグと縄を出してください!ハァ。ハァ」
「はぁ。死を認めない人はもちろん何人もいますが、あなたのような人は私は初めてですね。いいですか?今のあなたは無傷です。本当に生きていれば全身骨折だらけですよ」
そ、そういえば、最初に少しだけそのことについては疑問に思ったが、すぐに他の事を考えてしまってなおざりにしてしまっていた。
ということはやはり、俺は死んだのか?あの状態で?
「あの、すみません。俺、もしかして死んだ時、その、頭に…」
「ええ、被っていましたよ。女性の下着を」
ぐわぁ!やっぱりか!やっぱりやらかしていたか!
「それと。私、閻魔なのであまり失礼なことは言わないでくださいね」
うっへぇぇぇえ!この人閻魔だったのね。でも、一瞬口を滑らしたがあとは紳士的だったはず。まだ挽回は出来る。
「あと、私閻魔なので心も読めちゃったりします」
あれ、死にたい。
「もう死んでいますので、どうしようもないですね。もう一度言いますが失礼なことは考えないでくださいねっもう」
吾の心いと顕なりけり。
おっとあまりのショックに古典的な言い方をしてしまった。
俺は無我の境地になんて至ってないから考えないなんてできないね。色々妄想しちゃうもんね。
死んじゃったのか。俺。でも、仕方ないな。切り替えていくしかない。
きっと俺は天国へ行けるだろう。悪いことなんて一つたりともしていない普通の男子高校生だったからな。
「あなたは地獄へ堕ちます」
ほえ?なんだって?
「地獄行きです」
あれ、死にたい。
「俺、何も悪いことなんてしてなかったじゃないですか。どうして」
「あなた、普通に犯罪を犯していましたけど」
「犯罪?そんなこと一度たりとも。心当たりのあるものなんて精々、軽いストーカーとパンツの盗さ。いえ、写真撮影と下着の拝借と教師への軽い相談程度ですよ」
「相手に一度もバレたことのない完璧なストーカーに、これまたバレたことのない完璧な盗撮、そして完璧な下着泥棒。さらに教師の浮気現場を捉えた写真を使った脅迫。どれも立派な犯罪であると私は思いますけれど」
たしかに。初めてやった時はとてつもない罪悪感はあったものの、試練を重ねて慣れていくうちに大した罪でもないと悟ったのだが。
あれはただの錯覚だったというのか。
「分かりやすいように地獄に堕ちる条件をポイント制でお話をさせていただきます」
あっそこまでやってくれるんですね助かります。
「一〇〇ポイントで地獄行きだとすると、あなたの行ってきた行為は全ては三ポイントとなります。ちなみに殺人は場合によりますので一回で五〇ポイントから一〇〇ポイントとなり、二回目以降からはどんな理由があっても一〇〇ポイントとなります。」
へえなるほどね。明確な悪意がない限り殺人でも一回では地獄行きにはならないのか。
その後のそいつの人生の過ごし方次第ってことね。
「あなたは今まで二ヶ月に一度ほどの頻度で活動を行っていました。ストーキング、盗撮、下着泥棒をセットで」
まあいくら同じ家には行かないとなっても間を空けなくてはいけないからな。それにリサーチも大事だし。
「三年と四ヶ月にわたり、活動を行い続けたあなたのポイントは一八〇ポイントまで達してしまいました。そこに教師への脅迫も加えて一八三ポイント、一七年間の人生で大分やってくれましたね」
俺は、三年以上も続けていたというのか。
「それだけでなく、あなたは大きな罪を犯しました。これ以上にとても大きな」
いや、そんなはずはない。本当にこれら以外を抜いたら俺は普通の男子高校生だったんだ。もう心当たりなんて全くないぞ。
「親よりも早く死んでしまう。それはどんな罪を犯すことよりも大きな親不孝なのです。どんな子供でも自分の子供に先立たれることほど悲しいものはありませんからね」
そっか。ずっと自分のことだけだったけど、俺は父さんと母さんをとても悲しませたんだろうな。ついでに弟も。
あれ、今思ったけどまずいぞ。多分俺は自殺したことになっているだろう。屋上から転落して死んだのだし。
だが、この俺はパンツを被っていたんだ。
いやあ、あの中央聖母学院という県内随一のお嬢様学校でもナンバーワンのお嬢様のパンツを盗らえられたことは後世までの誇りだったな。
あまりの喜びで学校でまで堪能してたんだからな。
そう、屋上で。
警察が、いや警察でなくても俺の親が俺の部屋を捜索したなら。コレクションもろとも全てがバレるだろう。
そうすれば家族はなんと思う。息子が下着を収集していて尚且つそれを被って死んでいたのだ。
俺が家族の立場なら情けなくてそれ以外のなんの感情も湧かないな。悲しみも消え去るだろう。
「普通はそうなりますが、流石はあなたのお仲間さん達でしたね。あなたのお葬式で忙しかった頃に、既にあなたの部屋から思い出の品を受け取りたいといって全ての物品を回収しております」
あいつら。感謝しかないぜ。リーダーの俺が居なくなってからも逞しく生きてくれよ。
多分お前らもこっちに来るだろうからその時はまた仲良くしような!
「それと、天国なんてものはありませんからね。ここに来るのは地獄に堕ちる者だけです。その点で言うとあなたのお仲間さん達も候補者ではありますが」
「えっ!天国ないんですか!」
いきなりのカミングアウトに家族のことなんて吹っ飛んでしまった。
「ええ。汚れの少ない魂は少しの浄化を行なって転生させます。その時の罪ポイントに応じて次にどのようなものに転生するかが決められますね」
なるほどね。あれ?じゃあ俺はどうなるの?永遠に地獄で針山をうろつくの?
「ご心配なく。秋斗様もきちんと転生はできますよ」
「あーそんなんですか。でもそれにも条件はあるんですよね?」
血の池や熱湯の鍋風呂を耐えきらないといけないんだろうな。死にたい。あっもう死んでたわテヘッ。
「ああいえいえ。そういうのはただの人間の妄想なので私の地獄にはありません。あなたには地獄の住人の依頼を受けてもらいます」
え?ああいうのってただの妄想だったの?そんなこと言って偉い人に怒られたりしない?大丈夫?
「閻魔である私が一番偉いので大丈夫です」
うへぇ。本当に大丈夫かなぁ。
「あの。地獄の住人っていうとやっぱり」
「悪魔です」
あれ、死にたい。
なにそれ!絶対怖いじゃん!嫌だよ僕。一体悪魔の依頼って何をやらされるのさ!恐ろしすぎるよ!
「大丈夫ですよ。悪魔のといっても、あなたの想像通りなのは見た目だけですから。中の魂だって少なくともあなたよりは綺麗な魂ですから」
悪魔よりも俺様の魂の方が穢れているとは聞き捨てならないな。こんなにピュアな俺の魂が汚れているはずがない。
「詳しいことはあっちに行ってから私の部下に説明させますので。何か質問なんてありますか?」
「いえ、ないです」
「そうですか。それでは吉良秋斗様、頑張ってくださいね!」
なんて美しい満面の笑みなんだ。彼女は閻魔大王ではなく女神だったのか。と思った次の瞬間。
ガポッ
「え?」
俺の椅子の下の床が開いて俺は椅子ごと落ちた。
「えええええええええええええ‼︎」
そんなことってあるぅ?いきなり落とすなんてあるぅううう?
「あなたは、一三番に行く前で幸運でしたね」
最後に閻魔様が何かを言っていたが俺には聞き取れなかった。