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ブラッディー マリー 7

新聞社を後にして通りに出ると、二人に陽射しが降り注ぐ。積もっていた雪も溶け始め、道の至る所に青空を映しだす鏡の様に水溜りが出来ていた。


馬車の往来がそこそこある此処では、道行く人々は泥水を掛けられないように傘を盾がわりに歩く。その光景はなんとも言えない奇妙な物もので、思わずオリビアは穏やかな笑みを浮かべながら口を開く。


「さて、警察まで結構距離がある訳なんだけど。どうする? 馬車で行くかい?」


「え、良いんですか!」笑顔で答えるロイドを見て溜息をつく。


「馬車の代金は自分で持ちなよ。つか、女性に出させるなんてどうなの? 自分が出しますくらい言えないの君?」


「あはは……すいません、家も裕福ではないもんで。それに、入社して間もないんでまだ給料もらえてないんですよ」


申し訳無さそうに、頬を掻きながら言葉を返す。彼の状況に覚えのあるオリビアは、再び溜息をつき髪をクシャクシャとひと掻きする。


「今回だけだからな、私も裕福じゃないんでね」そう言い、手を挙げ道行く馬車を止めロイドと共に乗り込む。御者に行き先を告げ腰を下ろすと、馬はゆっくりと警察署へと脚を進め出した。


先程のやり取りから、ロイドは気まずい雰囲気を感じてしまう。それを誤魔化すように車輪の音をBGMに、流れる景色を眺めていると不意に言葉を掛けられた。


「あっと、ロイドだったっけ? アンタ何でこの件を記事にしようかと思ったんだい? 言っちゃ悪いが誰も気にはしないし、儲けにもならんと思うけど?」


彼女の言葉を受けると苛つきを覚える。「そんな事は解ってる」と、口から零れそうになるが取材を手伝って貰う手前、何とか堪えると平静を装い言葉を返す。


「そうですね、儲けを考えたら記事にする事は無いと思います。ですが、周りが急激に変わっていってる事を考えると、今のままで良いのか? って思っちゃうんですよ」


今まで上流階級の者たちは、下流階級の者が道端で息を引き取ろうが気にも留めない。それどころか、視界に入ると蔑んだ視線を浴びせ、ゴミを片付けろ言い放つ。


たかだか階級の違いだけで、人としての尊厳を踏みにじる奴等に嫌気どころか殺意すら抱く。こんなクソったれな社会に、皆が従っている事が我慢がならない。


景色に向けていた視線を彼女に向けると、此方を見据え続きを促すように沈黙を守っている。


「イーサンの事を会社に知らせた時も騒ついたのは一瞬だけ。何時もの事かと記憶の片隅に追いやられ、忘れ去られるでしょうね」


しかし、決闘は法で認められたもので、彼が死んだのはそれが終わった後の話らしい。これは法を侵したもので、明確な犯罪だ。


尚も、沈黙を守っているのを確認すると、更に言葉を続ける。


「俺達みたいな弱者は、事が起きればいつも泣き寝入りしてました。だけど、大きな変化を見せている今なら、人の意識を変える事が出来るんじゃないかって。警察という組織が出来ましたし、俺達も法に守られる権利があるんだって事を皆んなに伝えたい。だからこそ、犯罪を記事にして訴えていきたいと思ってます」


ロイドの想いの丈を聞くと、オリビアは笑みを浮かべると両手を挙げ口を切った。


「へぇ〜、何ともまあ……御高説有難いこったね」言葉を受け馬鹿にされたのかと思い、彼女を睨みつけるが宥めるように掌を向けられる。


「悪かったね言葉が過ぎたよ、アンタの思いは立派なもんだ保証する。ただね、理想ばかりに囚われていると、現実に足元を掬われるって事は胸に刻んどきな」


ロイドは臍を曲げ再び景色に視線を向けると、その先には目的の警察署が見え始めていた。

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