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ブラッディー マリー 5

下級居住区の外れにある石造りの家屋の廊下、書斎に向かうハンナとマリーに子供達は声を掛けて来た。笑顔でそれに応え、声を掛け手を振りながらその場を離れる。


窓から差し込んでくる陽の光と、陰に彩られる石造りの廊下を歩く中。光に照らされ暖かさを覚えると、先程の子供との会話で感じた穏やかなものを思い出し静かに呟く。


「世界は変わり始めている……この平穏が続けば良いのだけど」


剣から銃へ、火種単発式の銃からリボルバーへの技術進化。

兵器だけの話ではなく、産業の進歩も著しい。蒸気機関車の発明により更に変化は加速し、上級から中級居住区には白熱灯を使った街灯も設置され始めている。


マリーの呟きに応えるように、ハンナは口を開く。


「ええ、そう思います。産業については生活を助けるものです、歓迎しますが……兵器の進化には、恐れを感じます」


ハンナの言いたい事は解る。このまま技術が進めば、子供でも扱える強力な兵器が生まれるのはそう遠くない話。今は決闘や紛争といった小規模な争いで済んでいるが、いずれは国々との争いが起きるだろう。そうなれば昔と今では、出る被害が比べる事が出来ないと想像するに難しくない。


思考を巡らしながら歩を進めていたが、前を歩くハンナが扉に辿り着き開けると入室を促す。それに従い部屋に入ると、広くはないが立派な木製の机、大きな本棚が二つ。中には難しそうな本がぎっしりと並べられており、重量もそれなりにあると感じさせる。


扉を閉めたハンナは本棚に向かい、指を一冊の赤い本の角に掛け傾ける。


ガシャリ、重く静かに響き渡る歯車の音。本棚が左右に動き出すと、その先には地下へ降りる階段が現れた。


「皆さんお待ちになっています、お嬢様」


ハンナの言葉に頷き応えると、地下へと降り始める。薄暗く所々にランプが置かれた階段を下り、暫くすると鉄と木で造られた扉が姿を表した。


ハンナが合言葉を兼ねた一風変わったノックをすると、扉の向こうでガチャリと音がなると扉は開かれ「おかえり〜」の言葉と共に少女が出迎えてくれた。笑みを浮かべ「ただいま」と応え、紙幣の入った封筒を彼女に渡しながら入室する。


室内は石造りで、書斎の数倍の広さを持っている。昔は牢屋として使われていたようだが、今では改築されその機能は無くなり。中央には大きなテーブル、壁際には工房や台所、奥は壁で仕切られた寝室があり生活するに困る事はない。


「お帰りなさいませ、お嬢様」そう言いながら、椅子を引き席を勧める紳士的な白髪混じりの初老の男性。マリーは席に着くと、「これが今回得た情報よ」と彼に報告書を渡した。


「失礼します」一言告げ中身に目を通すと、呆れた顔で溜息をつきハンナに報告書を渡した。


「グラテスさん、どうなさったんですか?」ハンナは少々顔を曇らせながら受け取ると、視線を書類に移す。


「こう言っては何ですが、アリアナ様は情報収集に向いておられないようですね」


報告書の中身は嘘か真か解らない、噂の様なものが書かれていた。彼女もそれなりに努力した結果だと思うと、グラテスの言葉に間髪入れずに同意するのは気が引けるわね。


苦笑いを浮かべると気苦労を知ってか、淹れたての紅茶と新聞を渡される。「有難う」そう礼を告げると、その場を誤魔化す様に広げ目を通しだした。


新聞には新たな発明。何処かの冒険者が飛行機で、大陸横断に挑戦とかの記事が書かれていた。派手な一面を飾るこれらに追いやられる様に、紙面の片隅にひっそりと報じられた事件の記事にマリーは目を留める。


「連続通り魔事件」


幸いにも、切りつけられるだけで済んでいる様だ。しかし、連続して起きている辺り……いずれは死者が出る可能性があるだろう。


そう思わせるのは、最初に被害に遭った者は下級居住区の住民。次に中級の住民で次も階級は同じだが医者が被害に遭い、今回の件も前回と同様のものだった。


「どうやら犯人は標的への手がかりを掴んだようね……羨ましい限りだわ」


溜息交じりに呟きながらティーカップを手に取り、香りで気分を落ち着かせると紅茶を口に含み喉を潤した。

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