ブラッディー マリー 3
陽射しが辺りに降り注ぐ頃、積もった雪に反射されて煌びやかに街を彩っており。郊外に続く道にも平等に、冷たくも優しく降り積もっている。そして、一人の男が街外れの墓地に向かって歩いていた。
足取りは重く身体を支える為に、杖を両手で使い一歩一歩ゆっくりと踏み締める様に歩く。身形はボロボロで側から見れば、その姿は死者を想像させてしまう。
漸く目的の場所に辿り着くと、墓石の前に女性の姿があり先客が居たようだ。
「レベッカおばさん……」
男が先客に声を掛けると、レベッカと呼ばれた女性は視線を向ける。
「フランク! アンタ何でそんな格好してるんだい!」
そう言うとレベッカは、フランクに駆け寄り身体を支える。
「ごめん、おばさん。決闘したんだけど勝てなかった」
告げた瞬間、辺りに響く頬を打つ音。
「何考えてんだい! マリクはそんな事望んでないよ! アンタが死んだら悲しむに決まってる……」
レベッカはそう言うと涙を流しフランクを優しく包み込む、枯れた筈の涙が再びフランクの視界を歪ませる。そんな中で支えられながらも墓前に歩み寄ると、目に入る鉄屑二つと使い込まれた財布。
鉄屑の一つはマリクの銃で直ぐに気が付いた、そしてもう一つの銃は見覚えが無かった。
それを手に取ると、グリップに幾つもの傷跡が刻まれていた。多分だが、人を倒した数を記しているんだろう。反対側のグリップを見ると名が刻まれていた。
イーサン・ブラウン……。
銃に雪が積もっていなかった事に気が付くと、フランクはレベッカの元を離れ辺りを探す。しかし、視界に入る人影は居なかった。
「マリーか。金じゃ返せない、でかい借りが出来ちまったな……」
フランクの呟きが虚しく響き渡る頃、街に帰って来た少女に近付く一台の馬車。
少女の横に付け止まると、窓が開けられ声が掛かる。
「ご機嫌は如何かしら? マリーさん。宜しければ孤児院まで送りますわ」
「そう、お願いするわ……」
そう言うとマリーは馬車に乗り込み、其れを見届けると馬車はゆっくりと走り出す。
「さて……街中で声を掛けるなんて、配慮が少々足りないんじゃないかしら?」
「それはそうだけど、殿方はパーティーに御執心でね。私は暇なのよ」
「侯爵夫人の言葉とは思えないわね……」
そう言うと封筒を二つ渡され、ずっしりと重量を感じる方には紙幣。
もう一つにはある男の調査報告が入っていた。封を切り報告書に目を通すと溜息を付くマリー。
「ここに書いてある情報では、何も解らないと同じね」
「調べる相手が曲者過ぎるんじゃ無いかしら?」
「ふう、そう言う事にしといてあげるわ……」
窓を流れる景色を見つめ、思いを馳せるマリー。
「もうここで良いわ、おろして頂戴」
そう言うと馬車は止まり静かに扉が開かれ、降りようとする所に夫人から言葉が投げられる。
「イーサンを葬る程の腕、勿体ないわ。賞金稼ぎになった方が良いんじゃない?」
本人からしてみれば、賞賛の言葉だったかもしれない。しかし、その言葉を受け静かに視線を夫人に向けると言葉を返す。
「事情は解ってる筈よ……それと、お喋りは早死にするかもねアリアナ?」
「わ、悪かったわ。今のは忘れて頂戴」
アリアナは彼女の表情、獲物を捉えた狩人の様な笑みに思わず戦慄してしまった。
そして、馬車を降りると思い出したかの様に声を掛ける。
「そうそう、また何かあったら宜しくね。それでは御機嫌よう……」
少し先にある孤児院を視線に捉えると、笑顔を温かいものに変え歩き始める。
その裏で自分の中の決意を色褪せないように、呪文の様に繰り返し言い聞かす。
あの男を葬るまでは死ねない……誰が相手でも。