ブラッディー マリー
陽の光が最も輝く頃。噴水は美しく煌き石畳で出来た広場に、一発の銃声が鳴り響く。少し遅れて聞こえて来る、石に落ちる鉄屑と水滴の音。
辺りに群がる野次馬どもは、奇声を上げる者や感嘆の声を上げる者いろいろだった。
そいつらは勝者と共に去っていく、残されたのは決闘に負けた俺だけ。
次第に弾丸に貫かれた胸は、赤く染まり出し力を奪っていく。徐々に重力に逆らう事が出来なくなり、遂には膝を折り倒れてしまう。
身体もだんだん冷え始め意識も薄らぎ、死を受け入れる事を覚悟すると、一人の少女が歩み寄り目の前で止まる。
「お兄さん、マッチは如何?」
「マッチか……一つ…貰おうか、出来れば……代わりに付けてくれると……助かる。金は死んだ後に……上着から好きなだけ取とるといい……」
少女は微笑みながらマッチを擦り、男の前に慈しむかの様に置く。
友人の仇を取るために挑んだ決闘、そして惨めに死んでいく男には充分過ぎるものだ。
その暖かさに触れた男の頬に一筋の涙が流れた、鉄屑に視線を移すと言葉を掛けられる。
「フランクでしたっけ? 貴方の名前、マリクって言う人の友人の…」
「? そうだが…どうしてそれを?」
上着の内ポケットから財布を抜いて、中身を眺めながら少女は言う。
「がめつい奴だな……俺が死んでからって言ってんのに……まあ、いいか」
「ふふっ、マッチの代金にしても多過ぎるわね、このまま帰るのも目覚めが悪いわ」
そう言うと鉄屑に近付き拾い上げる。
「リボルバー式の拳銃。手入れもちゃんとしてる様だし、カスタムも中々いい仕事してるわね」
残弾を確認すると、くるくると指で回しグリップを掴む。この動作を何回か繰り返すと視線をフランクに向ける。
「あんた……何もんだ?」
拳銃を籠に入れ踵を返し歩き出し、背中越しに言葉を投げる。
「マリー、ただのマッチ売りの少女よ。……助けは呼んであるから、死にたくなければ頑張りなさい」
「俺はまだ生きていても良いのか? アイツの仇も取れない惨めな……」
「そのアイツってのが言ってたわ、貴方には生きていて欲しいと」
フランクは死してもなお自分を心配する親友に思いを馳せ、涙を止め処なく流し始める。
生きる気力を取り戻したと確信したのか、マリーは微笑みながら歩き出す。
辺りに少しづつ雪が散らつき、陽が傾き始め闇に染まりつつある。手に結晶を乗せて溶ける様を見ながら、夜には雪が積もると確信めいたものを得る。
「雪景色……綺麗だけど、少し彩りが欲しいわね。特に赤なんていいかも知れない……」
そう呟くと口角を上げ笑みを浮かべながら、闇の中に消えて行く。
暫くすると、闇と雪に包まれた静かな世界に一発の銃声が響き渡り。
そして、白いキャンバスに赤い雫が落とされた。