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機械の心に花束を  作者: アルミニウム
7/7

初めてのおつかい

初めては不安で心配ですが、同時に高揚感もあるはずです。

私もいつも投稿の前はドキドキします。

私は生まれてこの方空を見たことがない。

情報としては知っているが、過去の兄弟たちも見たことがないのでどんなものかは知らない。

私の知る情報では、空は青く、雲と呼ばれる白い靄が浮いているそうだ。

それはそれは美しく、古くから人間たちは悲しいことがあれば空を見上げモチベーションを上げていたとか。

それは野球、テニス、サッカーと呼ばれる競技を主題に置いた書物では日常となっている行動で、生業スポ根マンガでは空の広大さに気付かぬものは全国をとれぬと言われているそうだ。


つまるところ空とは心が折れそうな時、力を分けてくれるものなのだろう。

見たことは無い。

ので一度は見て見たい。

それはマコちゃんも同じようで、「一緒に空を見に行こうね。」と言ったところ、


「大変、それは誠に遺憾ながらその提案にお答えすることは些か私の口から言えないこともあるやもしれず、対してお断りすることに関しては私も今すぐにでも回答を出す事ができるやもしれませんが、しかしそれを口にすることは、例えもし仮に私の本音だったとしても、私にはとてもとても口が裂けても言えませんね。」


と言っていた。

いったいどういうことかはよく分からんが、恐らく私と共に空を見たいとそういうことだろう。

色々と長いこと喋っていたから、何を言っていたのかまるで理解できなかったが、マコちゃんは頭が弱いところがあるからシドロモドロになってうまく言葉が纏まらなかったんだろう。

可愛い、可愛いよマコちゃん。

例えコミュ障であろうとも可愛いよ。

コミュ障マコちゃん、いいと思います。


話が逸れたが、なぜ私が唐突に空がどうこう言い始めたかと言えば、今日これから初めての空を経験するからだ。

それもこの後、とゆうか今すぐにでも。

私は今、施設から地上に繋がる階段を登り、その頂上の扉の前に立っている。

この扉を開ければ外の世界に繋がっている。

夢にまで見た...とは言わないが、それでもかなり気になっている


知識でしか知らない外の世界。

それを生で体験できるとなれば、ロボットとしての知識欲求。

さらに人としての好奇心も刺激される。

いやあ、楽しみではないか。


これ程ワクワクするのはマコちゃんが目覚める時ぐらいのものだ。

なんだかこう言うとマコちゃんと外の世界が同レベルの様な言い草だが、もちろんマコちゃんの方が大事に思っている。

例え外の世界が核の炎に包まれ、世紀末的なとんでもない時代になったとしたら、私はもう一度核爆弾を製造し、外の世界を悪人ごと吹き飛ばしてやろう。

そうして誰もいなくなった世界でマコちゃんを美の女神として奉る神聖宗教国家を建設するのだ。


ワハハのハ、笑いが止まりませんなあ。

まあ、資材がない以上、そんな物作れはしないのだが。


そう資材がない。

今、私たちの拠点には何もない。

これが専ら一番の問題となっている。

前回の最後、マコちゃんのお願いを丁重に断ったのだが、流石の私も現状の不味さを理解する事ができた。


いつもなら毎朝、モーニング紅茶、俗にゆうモーニングティーを入れてくれるのだが、あれから毎朝白湯が出ている。

どうしたのか聞けば、茶葉がないの一点張りだ。

しかし私は知っている。

マコちゃんはただ白湯を入れているのではない。

一応は茶葉を使っている。

しかし、使い捨てのティーパックを何度も使いまわし、少しでも味のある白湯を入れようと努力していることを。


着れなくなった服で雑巾を作ったり、新しいズボンや服に仕立て上げたりしている事も。

現に私は今、マコちゃんお手製のズボンと服を着ている。

様々な生地がツギハギされていて、チカチカと目が痛くなりそうなカラフル模様だし、肌触りもお世辞にも良いとは言えないが、マコちゃんの愛が詰まった世界で最高の服だ。


マコちゃんのために作ってあげた1/1スケールマコちゃんフィギュアは今では、オシャレなハンガー掛けとして生まれ変わっている。


「これ程までに業の深い品をご用意してくださるとは、これまでにない程背筋がゾワゾワとしています。」


その言葉共にマコちゃんは私の脛を蹴りつけた。

嬉しさが限界突破したのだろう。

そのせいでつい足が出てしまったと考えられる。


しかしその事でマコちゃんに叱られてしまった。

資材も少ない中、無駄な物を作らないでくださいと。

こんな物を作る暇があるなら、外にでも出て何か手に入れて来てくださいと。


私はもう少し様子を見た方がいいのではと言った。

私の見た目は、控えめに言っても異形だろう。

もう少し情報を集めてからでも遅くはないと思っていた。


しかしマコちゃんは布団に包まって抗議の言葉を言う私からシーツを剥ぎ取り、ベットから叩き落とした。

それから三時間ほどかけて私はマコちゃんからお説教を頂いたのだ。

正座をさせられ、茶々を入れようものなら膝の上にマコちゃんフィギュアを重石として乗せられる。

因みにこのマコちゃんフィギュア、200キロ程の重さがある。

私は膝にマコちゃんを乗せる天国と、膝が潰れそうな地獄を同時に味わったのだ。


そうした責め苦で意識朦朧とした私には、マコちゃんのお願いを断る強い心は残ってはいなかった。

言われるがまま外行きの服に着替えさせられ、大きめのリュックサックを背負わせられ、施設から追い出されたのだった。

そうして今に至る。

我ながら軽率だったかと後悔しているが、ちょうどいい機会かもしれない。

どうせいつかは外に出ようと思っていたのだ。

それが早くなっただけのこと。


ドアノブに手をかける。

この体には心臓は無いが、なんとなくドキドキする様な、気分が高ぶっている様な気がする。

胸の奥がむずがゆい様な、痛い様な、暖かい様な。

程よく気持ちが良くて、程よく不快だ。

それが何か、心以外にない。

私は今まさに興奮していた。


因みに、マコちゃんからは、何でもいいから木材か金属クズを見つけて来いと言われている。

ワハハのハ。

そんな事、私からしてみればお茶の子さいさいだ。

とっとと済ませて、観光でもしてやろう。

そして、素晴らしいお土産を持ってマコちゃんにプレゼントしてあげよう。

きっと今度こそマコちゃんフィギュアでなく、リアルマコちゃんが膝の上に座ってくれるだろう。


グフフのフ、と笑みがこぼれる。

よし善は急げ、いざ鎌倉、急がば回れだ。

覚悟しろよ外の世界。

お前たちは私とマコちゃんの愛のための礎となるのだ!!






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