ハッピーバースデイ
思いつきで書きます。
見てこれる人がいらっしゃればよろしくお願いします。
夜の帳が下り、鈴虫の声しか聞こえなくなった頃、一つの命が誕生した。
それは地下深く、誰にも気づかれないように、誰の目にも触れないように隠された秘密基地。
いくつもの鉄格子が並び、試験管と電気のケーブル、あとは錆びが広がったパイプ椅子、それ以外には人っ子一人いない。
そんな中で生まれ出た命。
それには手と足が二本あり、体も頭もある。
いわゆる人と同じ形をしていた。
「ギ、、、ギギ、、。」
それは軋む歯車のような声を上げる。
その声は僅かにノイズが混じったような、テレビの砂嵐を背景に声を発しているかのような、不快な音。
声は室内に響き渡り、反響して、そして消えていった。
「ギガ、ギギ、、、、ガ。」
それを聞き届け、それはまた声をあげた。
また声は反響して帰ってくる。
「ガ、ガ、、カキ、コ。」
そいつは自分の声を聞き不快に思っていた。
汚い声だと、聞き取りづらい、まるで下等な生物の絞り出す声のようだと。
故に練習しているのだった。
声を発し、帰ってきた声を聞き、また声を出し、聞く。
それを繰り返すことで、声の出し方を学んでいるのだ。
「カキ、カキ、、かき、かきこけこ。」
四度目の発声では、ノイズも違和感もない声を発した。
その声を聞き、それは何度か同じことを繰り返し、満足したように小さく頷いた。
次は右腕を上に振り上げた。
キュルキュルとキャタピラが回るような音が響く。
左腕も振り上げた。
再び音が響く。
両腕をグルグルと回す。
その間、絶えずキュルキュルと音が鳴り響く。
何も無い部屋に音が鳴り渡る。
その音は初めこそ大きな音であったが、腕を動かすことに慣れてくるにつれて、小さくなり、やがては消えていった。
足もブラブラと動かし、こちらに違和感がないことを確認すると、それは立ち上がった。
まだ生まれて間もないそれは、なんの杞憂もなく立ち上がったのだ。
それは力強く床を踏みしめ足を前に出す。
少しフラついたが、少し練習をすることで問題なく歩けるようになったのだった。
それは突然、あたりを見回し、何かを探し始めた。
動けることも話すことも出来る、それを確認したそいつには後もう一つ確認しなくてはいけない事があった。
それを確認しなくては、自分というものを認識できない。
自分を確認しなければ命を持った意味がない。
それ程に重要な事柄。
それの欲するそれは直ぐに見つかった。
自分の後方、五m、壁に鏡が埋め込まれているその上。
プレートが貼ってある、それに書いている文字。
そこまで歩く。
確認しなくては、絶対に間違えないように、見間違えないように、近くで確認しなくては。
足元に椅子が置いてある。
邪魔だ。
思い切り蹴り飛ばす。
椅子は吹き飛び、壁にぶつかるとバラバラになった。
そんなことには目もくれず、鏡の前へと移動し、壁に腕をつく。
そしてプレートの文字を確認する。
プレートはグチャグチャに書きなぐっては消してを繰り返し、アスファルトの路面のようにガタガタになっていて、書いてある文字も殆ど読み取れない。
しかしそれが何であるかは、私には分かっている。
私が生まれるために繰り返してきた何千、何万という失敗を私は記憶している。
だから、ここに何が書かれているのかも知っている。
「ぷらむ、、、プラム、プラム、プラム。」
なんども反復し、頭にこの名を刷り込んでいく。
私はプラム、私の名前はプラム。
ふと、鏡の横に書き殴られた文字を見つける。
引っかき傷と意味不明な模様の横に書かれた言葉。
私は機械だ。私はロボットだ。
そうだ私はロボットだ。
これを兄弟が書き残し、錯乱した後、機能を停止した。
人として作られるはずだったのに、人ではなかった。
その事実に耐えられなかった兄弟が残した言葉だ。
この名はロボットに与えられた名前ではなかった。
この名前は人に与えられた名前だ。
ならば私にふさわしい名前ではない。
私はロボット。
しかしプレートには人のための名前。
どうすればいい。
私の名前は何とすればいい。
考え込むように、プラムの名前に目がいく。
私はロボット、名前はプラム。
ロボット、プラム、ロボット、プラム、ロボットプラム。
「そうだな、ロボットプラム。・・・いやロボプラム。」
顔を上げ鏡を見る。
鏡に映る顔は、人とは程遠い。
目は四角くライトがはめ込まれ、鼻はなく、口にはスピーカーの埋め込まれた格子ががあるだけ。
至るところにツギハギとボルト山。
金属質の体に反して髪だけはサラサラとした黒髪だった。
私の名はロボプラム。
人を生むべくして生まれたロボット。
さてこれからどうしようか。