第6章:小野 正
2月11日(土)、昨日遅くまで起きていたため、10時になっても皆、いびきを掻いていた。
ようやく起きたのが11時30分をまわってから。
「あー!龍、翔太!早く起きろ!!」
と声を上げたのは晴起。
龍と翔太は声にびっくりしてベッドから落ちてしまった。
2人は時計を2度見してから慌てて服を着替えた。
3人は簡単に朝食兼昼食を食べ、外へと出て行った。
空は快晴だが肌寒い。
そのため龍は、カッターシャツの上に黒のジャケットを羽織り、茶色のマフラーをグルグルと巻いている。
晴起は白のダウンジャケットにニット帽をかぶり、鼻を垂らしながら震えていた。
翔太はスカジャンを着こなし、手をポケットに突っ込んでいた。
持ち物はというと晴起がゴク薄のパソコンを携帯しているだけだった。
「外に出てどうするんだ?」
龍が聞くと翔太は
「張り込みをしようぜ。そして小野を追尾するんだ。」
「それはいいかも。って小野先生の家は知っているのか?」
「それならば僕がパソコンで調べておいたよ。先生の家はここから20分ぐらいのところにある一戸建ての家で、近くに図書館があるみたいだからとりあえず行ってみよう。」
「その前にさ、天野さんの家族に話を聞きに行かないか?手がかりがあるかもしれない。」
「そうだな、行ってみるか。」
3人は照美の家に行き、インターホンを押した。
中から照美の母親が出てきた。
照美の母親はあまり寝ていないのか、目を赤く腫らしていた。
「どちら様?」
「天野さんと同じクラスの神武です。こっちは安倍。それから森永。」
3人は軽く会釈した。
「わざわざどうしたの?」
「えーと、僕たちは探偵クラブで、天野さんの行方を捜しているんです。もしよろしかったら、詳しいことを教えていただけませんか?」
「あらそう、ありがとね。でもこういう危ないことは警察に任せておいたほうがいいわ。」
「僕たちは天野さんと約束したんです。必ず助けると。」
「あら変な子ね。まるで照美と話したみたいじゃない。」
そうは言ったものの、3人が真剣な表情なので話を聞かせることにした。
「わかったわ、ここじゃ寒いから上がって。」
「お邪魔します。」
3人は広いリビングに通され、ソファーの上に並んで腰掛けた。
「先に言っとくけど、刑事の人が来たら帰ってちょうだいね。あなたたちまで巻き込むわけにはいかないから。」
「分かりました。お気遣いありがとうございます。早速ですが、天野さんは何か変なことを言ってたりしませんでしたか?」
「刑事さんにも言ったんだけど、塾が終わってから誰かに会うとは言ってたわ。ただあの子、友達が少ないから、誰にも言ってなかったみたい。あの時誰なのか聞いとけば…」
母親は涙ぐみ、ハンカチで目や鼻を押さえていた。
「他には何も?」
「ええ。ごめんなさいね。」
するとピンポーンとインターホンがなった。
母親は刑事が来たと告げたので、仕方なく帰る事にした。
一応、龍の携帯番号のメモを渡して。
3人は小野先生の自宅を確認した後図書館へと向かった。
図書館は住宅街の中に立っており、公園もあることから利用者も多い。
図書館の中に入り、奥に進むと自由に本を読んでもらうために机と椅子が設置してあり、窓からは小野先生の自宅が丁度見える。
しかもスモークガラスであるため、こちら側からは見えるが向こう側からは見えなくなっている。
3人は、小野先生の自宅が良く観察できるところに座り、話し合った。
「俺が小野を見ておくぜ。何たって俺の視力は1.5だからよ。龍は大好きな天野さんとでも話してな。俺が席をはずす時は晴起に頼むからよ。」
「だ・か・ら、天野さんのことなんて好きじゃないってば。でも、待ってるかもしれないからすぐに送るよ。」
そういうと龍は意識を集中させた。
「天野さん聞こえる?」
「聞こえるわ!待ってたのよ。こっちから話しかけることが出来ないからどうしようかと思っていたところ。」
「ごめんね、昨日遅くまで考え事してたら朝起きれなくて。それで何か気付いたことはある?」
「それがね、昨日言ってた展望台がどこにあるか分かったの。あれはN小学校の屋上にあるの。」
龍はすぐにN小学校の地図を晴起にパソコンに出してもらった。
「それで何か他に目印になる物はない?」
「それが窓が小さすぎてほとんど見えないの。でも方角なら分かるわよ。展望台が校舎の左側にあるから…南西、そう南西の位置にこの建物があるわ。」
「了解。晴起に調べてもらっているから近いうちに助けに行くよ。」
「ありがとう。待ってるわ。それより何か面白い話でもして。退屈で仕方がないの。」
龍は照美の家に行った話や今日ベッドから落ちた話などをし、一度会話を中断することにした。
「晴起、何か分かったか?」
「それが小野先生の自宅からN小学校は結構距離があって展望台は見えないし、展望台からの方角は北になるんだ。どうなっているのかさっぱりだよ。」
「今で3時間経つけど小野の奴は全然出てくる気配ないぞ。」
「どうすればいいんだ…。」
それから夜になるまで待ったが、小野先生が現れることはなかった。
そして家に帰り、皆でご飯を食べている時だった。
テレビに速報という文字が流れ、
「ただいま入りましたニュースをお伝えします。今日の5時頃、××県立H高校で男性のバラバラ遺体が発見されました。小野正さんであるとみて身元を確認しているようです。小野正さんは少なくとも死後2日経っている模様です。警察は女子高生連続殺人事件と手口が似ていることから関連性を調べる方針です。」
「何だって…。俺たちの高校じゃないか。」
他の2人も龍と同じ気持ちのようだ。
「それじゃあ犯人じゃなかったってことか。龍ごめん、小野先生を疑って。これまではこんなことなかったんだけど。ってことは、小野先生の意思が全く書かれていなかったのは死んでいたから…。」
「じゃあ誰が犯人なんだ?」
3人はうーんと唸って考え込んだ。
その日は何も思い浮かばず、疲れもあったため明日に賭けることにした。
「小野先生が殺された。早く天野さんを助けないと。」
龍は独り言を言って眠りに落ちた。




