第5章:捜査開始
2月10日(金)、照美が休んでいた。
担任の岡 雄一先生が言うには、照美は昨日塾に行ったっきり帰ってこないらしい。
母親が心配して色々なところに電話をしたらしいが、塾生も帰り道で分かれてからは知らないという。
心配になった母親は警察に捜索願を出したが一向に手がかりが掴めていないようだ。
何か知っていることがあったら教えてくれと岡先生は眼を潤ませながら頭を下げた。
龍は翔太と晴起にテレパシーを送った。
「この事件どう思う?例の事件と関係あると思う?」
「関係あるんじゃねー?女子高生っていうキーワードにも当てはまるし。」
翔太は素早く答えた。
「そうだね…可能性は高いかも。でも今ここで小野先生にテレパシーを送るのは止めた方がいいと思うよ。もし犯人だったら焦って天野さんを殺すかもしれない。送るのだったら天野さんにすれば?消しゴムの件で話したことあるだろ?」
晴起は冷静に、しかも的確に助言した。
「そうか、その手があった。わかった天野さんにテレパシーを送ってみるよ。」
「いや待った。明日から2日休みだろ?今日から家に泊まりに来なよ。3人で捜査しよう。だから今日学校が終わってから送れば?」
晴起がそう提案し、龍と翔太は合意した。
放課後、3人は晴起の家に行き、早速捜査を開始した。
「じゃあテレパシーを送ってみるよ。」
「気をつけろよ。相手がびっくりするだろうから。」
晴起と翔太は固唾を呑んで見守った。
龍は意識を集中させ、照美との脳波回線をつないだ。
「天野さん、聞こえる?びっくりさせてごめん、同じクラスの神武です。」
「…き、聞こえるわ。でもどうして…?少しパニックってるわ。落ち着くまでちょっと待ってて。」
龍は言われた通り少し待った。
「…お待たせ。で、どうして私に神武君の声が聞こえるの?」
龍は一通り説明し、照美は案外すんなりと受け入れた。
実は、照美はオカルト系に興味を持っており、図書館等でよく本を読んでいるようだ。
「天野さんはどこにいるの?」
「それが塾帰りに急に襲われて気付いたら知らない部屋にいたの。窓は一つあるけど、それ以外はトイレが端に設置されているだけの部屋。」
「窓からは何が見える?音は何か聞こえる?」
「窓からは…展望台のような物が見えるわ。どこかで見たことあるんだけど思い出せない。音は何も聞こえない…え?さっき悲鳴のような声が聞こえたわ。何かしら?」
「きっとテレビだよ。今サスペンス物やってる時間だし。なるべく早く助けに行くから、それまでは頑張って。」
「分かったわ。ありがとう。それで、一つだけお願いがあるんだけど…。」
「何かな?何でも言って。俺に出来ることであれば何でもするよ。」
「暇な時間があったら話し相手になってくれない?1人で寂しくて…。」
「いいよ!いくらでも話し相手になるよ。天野さんのことは必ず助けるから!」
照美との会話は一旦中断し翔太と晴起に報告した。
晴起はパソコンで調べたことについて報告した。
晴起の報告によると、塾から現場まで車で15分くらい。
つまりH高校に来る生徒が通える範囲内であること。今はそのくらい。
「一つ気になったんだけどよ、今の時間サスペンスなんてやってねーぜ。」
確かに翔太の言う通りサスペンスはやっていなかった。
じゃあ悲鳴は何だ?という不安が込み上げてきた。
とりあえずこのことは照美には言わないということで合意した。
「ところで小野先生にテレパシーはどうする?今はまだ犯人と決まったわけではないし、とりあえずピンチになった時の切り札として置いておく?」
「そうだ、そうだ!置いとけよ。もしかしたら一発逆転できるかもよ。」
晴起と翔太に言われ、龍は何としても照美を助けたかったので使わないことにした。
「俺は小野のことについて調べてみるよ。直接尾行してもいいし。いざの時は火鉄砲をお見舞いしてやるよ。」
翔太は銃を撃つ格好をしながらはしゃいでいた。
龍は照美と世間話をしていた。
「実は今日の数学の時間に翔太がよだれを垂らしながら寝ていたんだ。起きてよだれに気付いたと思ったらいきなり制服で拭くんだよ。周りは皆見て見ぬふりしてたけどな。晴起はおもっきり笑ったので殴られるし、岡先生には怒られるし、晴起も最悪だったんだよ。」
「ははは。森永君も痛かっただろうね。私も見たかったな。」
「…天野さんって笑うんだね。」
「何それ、失礼ね。私だって笑うわよ。学校ではなるべく1人で居たいから澄ましているだけ。そんなに私が笑うとおかしい?」
「全然おかしくないよ。笑ったところを見たことがないので驚いただけ。対面していないから分からないけど笑っている方が可愛いと思うよ。」
龍は言ってから後悔した。
今まで女の子にそんなことを言ったことがないので恥ずかしくてたまらなかった。
照美も恥ずかしそうにありがとうと言ったきり黙ってしまった。
そのままこの日の会話は気まずい形で終了。
「龍さ、顔が赤くなってたけど‘君は可愛いね’なんて言ったんじゃねーだろうな。」
「龍そんなこと言ったの?やるー!」
「そんなこと言ってないよ!考えすぎ!さあ分かったことがあったら教えてくれ。」
そうは言ったものの龍は内心ドキドキしていた。
翔太も晴起も納得はしていないが、龍が口を割らないのを知っているためそれ以上は突っ込まなかった。
そして、まずは俺からっと言いながら翔太が報告。
「実は、連れに聞いたところ、今日学校に小野の奴は来なかったらしい。無断欠席だって代わりの教師が言ってたらしいぜ。ますます怪しいよな。」
「そうか…晴起は?」
「僕の友達が、たまたま天野さんの通っている塾の近くを通りかかったらしいんだけど、そこで小野先生に似たような人を見かけたみたい。あれっと思って振向いたけどもういなかったんだって。不思議なこともあるんだって言ってた。」
「何かの能力を使った可能性があるってことか。」
「そうかもしれないね。」
「翔太と晴起の報告によると小野先生でほぼ決まりってことか?」
「それしかない!」
翔太と晴起は口をそろえて言った。
その日は捜査をそこまでにし、続きは明日にすることにした。




