第4章:事件前日
その日は翔太がバイトのため、ゲーセンには行かず、晴起の家に行った。
晴起の家は学校から徒歩で10分くらいのところにある。
高級住宅街に建つ、一際大きな家に龍は、いつ来ても驚く。
2階にある晴起の部屋に入ると、パソコンに関する雑誌やソフト、分解したパソコンなどが隙間なく埋め尽くしていた。
「適当に座って。今お菓子と飲み物持ってくるから。カルピスとメロンソーダのどっちがいい?」
「カルピスがいい。」
「OK。ちょっと待ってて。」
そう言うと、勢いよく階段を駆け降りていった。
龍は部屋を眺め、興味深いものを見つけた。
それは晴起が密かに集めても様々な事件のファイルであった。
そのファイルには、
「晴起が解く‐殺人事件集」と書かれていた。
手にとってまるとずっしりと重い。
中には事件の詳細が書かれ、晴起の能力によって得た情報なども書かれていた。
晴起は警察に助言をし、解決に導いたこともある。
晴起は自分の能力を最大限に活かし、人助けをしている。
龍はそんな晴起を尊敬していた。
141号のファイルには、最近起きた誘拐殺人事件のことが載っていた。
女子高生ばかりを狙っている凶悪殺人事件である。
犯人の情報はあまり書かれていない。調査中なのだろう。
殺害された女子高生は皆、龍の通っているH高校から遠くなく、学校の教師たちも注意を促していた。
そこへ、ポテチとカルピスを上品なお盆に乗せて晴起が入ってきた。
「あーその事件ね。なかなか手掛かりがなくて困っているんだ。僕の能力でもダメだった。どうしてかな?」
「もしかすると何かの能力者かもよ。」
「その可能性が大きいかもね。」
「でも、俺のテレパシーじゃどうすることもできないな。」
「そんなことないよ!犯人と一言でも話さえすれば、後は聞き放題だぜ。」
「犯人と話なんて、そうそうできるものじゃないだろ?」
「それがそうとも限らないんだよ。実は、僕の中で容疑者が1人だけいるんだよ。」
「何だって?それは誰なんだ?」
晴起は少しだけ沈黙した。そして、
「その人は…小野先生なんだよ。」
小野先生は今年からH高校に勤務することになった先生で、性別は男、年は24歳。1年生の英語を教えている。今日の6時限目も小野先生の授業だった。
小野先生は、インテリでカッコ良く、女子生徒に人気があった。
そんな先生が殺人など犯すだろうか?
はっきり言って信じることはできなかったが、能力者の晴起が言うのだから、何か根拠があるのだろう。
「その根拠は?」
「今までに殺された女子高生の生きていた頃の意志を探ってみると、高校教師のO.Tと会うって共通して書かれていたんだ。どこの高校かはわからないけど。」
「いくら小野 正でO.Tといっても、小野先生とは決まったわけではないだろ?小野先生は、入院して勉強が遅れていた俺にも分かり易く教えてくれんだぞ。そんな訳ないよ…。」
「僕も小野先生じゃないことを祈っているよ。だから、僕の意見として覚えていてほしい。」
「俺にも手伝わせてくれないか?」
「喜んで。そうだ!翔太にも協力してもらおう。相手が武器持ちだったら、翔太の火鉄砲は役に立つ。」
「そうだな。翔太には俺から伝えておくよ。そろそろ帰らないと親がうるさいから帰るよ。また明日な。」
龍は家に帰ると、翔太に晴起と話したことを説明した。
翔太は快く了解し、やる気満々の様子だった。バイトは休むそうだ。
そして、いつもは目を通さない新聞にも目を通し、父親に感心されながら事件の内容を全て頭に叩き込んだ。
昔から龍は頭が良く、勉強すれば良い成績を残せる子だったので、それほど難しくはなかった。
その日は、様々な気持ちが入り交じる中、深い眠りに落ちた。




