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リンネの転生ライフ 現代異能編 1

 この世界のジャンルは現代異能バトルである。


 強いて世界に名前を付けるのなら、この世界に蔓延る異能の名前を取って『サヴァイヴ』と名付けよう。意味はまぁ、後々にわかってくると思う。


 さて、『僕』はそんな『サヴァイヴ』の世界に暮らすごく普通の男子高校生である。ちなみに一年生。名前は六道ろくどう 輪廻りんね。ある意味、まんまな名前だが、小学校の頃からキラキラネームとしてからかわれてきた。仕方ないね、ある意味因果だから、これ。


「リンネさん、この世界での貴方のキャストを教えます」


 そんな普通の高校生であった僕は、ある日、しゃべる猫と出会って運命を思い出す。というか、自分の妄想だと思っていたことがマジで、ちょっとびっくりしただけなのだが。


「うん、遅いね。大分遅いね。もう十六歳になったよ、僕。シャム猫さん、僕は前世の記憶を持っているんだから、せめてもうちょっと早めに来てくれた方が、準備が出来て助かるんだけどさ?」

「もろもろの理由により、この世界のシナリオが始まるまで、私とリンネさんは接触できないのです。規則だから仕方ありません」

「そうかー。規則だから仕方ないよねー」


 でも、さすがに道端で猫としゃべっていたら頭おかしいと思うから、自宅に戻って、僕の部屋で詳しい話をすることになりました。どうやら、このシャム猫の声は僕だけにしか聞こえてないようだし。


「何か飲む?」

「お構いなく」

「何か食べる?」

「お構いなく」

「どこか撫でる?」

「顎の下の方で」

「そこはお構いなくじゃないんだ」


 しばしの間、シャム猫と戯れる僕。いいね、やっぱり猫は癒しだね。これで皇帝ペンギンがいきなり現れたら、僕はどうしようかと思ったよ。


「はい、それで今回の世界での貴方の役割なんですけど、リンネさん」

「ういうい、何かな?」

「まずはこの写真をご覧ください」


 シャム猫は虚空から一枚のカラー写真を生み出すと、それを加えて、僕の手のひらの上に置く。どのような原理でそうなっているのかわからないが、そこら辺は詳しく考えないことにしよう。


「えっと……誰? この、世界中を呪っています、みたな顔をした美少年」

「この世界の主人公です。名前は佐藤さとう 陽介ようすけ。リンネさんと同じ16歳ですね。明日から、貴方と同じ高校に転校してきますので」

「へぇー、そうなんだー。あ、ひょっとして、俺の役割ってあれ? この主人公の友達ポジションになれってことかな?」

「ご明察」


 にこり、と微笑んでシャム猫は言葉を続ける。


「貴方には、この陽介君と友達になっていただき、物語の序盤あたりで無残に殺されてもらいます」

「うわぁ」

「拒否してもいいですが、その場合、今から即刻貴方を殺して、また次の人生を一からやり直しですよ?」

「なんというブラック」

「そりゃ、これは囚役みたいなもんですからね」


 さらりと言ってくれるが、猫さん。この若い身空で無残に死ねとか……死ねとか……。


「まぁ! 囚役なら仕方ないね!」

「リンネさんのさっぱりとした死生観、私大好きです」


 こうして、僕の囚役ライフ第一弾は始まったのだった。



●●●



「……佐藤陽介です。よろしくお願いします」


 翌日。

 朝のホームルームで、そいつは生気の抜けた顔で転校挨拶を行った。

 佐藤陽介。この世界の主人公。男にしては少し長めの、肩までかかる長さの黒髪。容姿は中性的というより、人形的で。彼の瞳は黒曜石のように輝いている。身長は、平均的な僕より少し低めって感じだ。


「それじゃ、えーっと陽介の席は――」

「はいはぁい! せんせー! 僕の! この! リンネ君の隣が空いてまーす!」

「ちょ、六道お前、そこは普通美少女がやる役割とかじゃ……」

「や、だって、先生。うちのクラスに美少女なんていな――」


 なぜかクラスの女子全員にリンチにされました。

 担任の高橋の奴は見ないふりをしていました。くそが、これが現代社会に救う闇か! ちくしょう、主人公君、こんな世界壊してしまえ!

 あ、結局僕の隣に陽介君は来ましたとさ。


「よう! 僕は六道輪廻! 趣味は畳の目を数えることと、縁側で猫と戯れることさ! よろしく!」

「もっと人生を楽しめよ……」


 出会って早々にツッコミを受けました。

 ほほう、なかなかのツッコミだな、陽介君。主人公になるのなら、やはり、ツッコミ力とか運命力は鍛えてもらわないと。


「だったら、これから一緒に人生を楽しもうじゃないか、陽介!」

「いきなり呼び捨てにされたし……」

「まぁまぁ、僕も呼び捨てにしていいから」

「えっと、じゃあ…………太郎だっけ?」

「人の話を聞いてない!?」


 意外と良い性格してやがるぜ、この主人公!

 はい、そんなわけで元々テンション高めキャラとして売りだし中だったので、そのまんまの陽介と接触することに。あれですよ。主人公が暗めな場合は、その親友ポジは明るいキャラじゃないとね! 多少馴れ馴れしいぐらいでちょうどいいんだ、多分。世界からの物語補正で、好感度が上がり易くなっているみたいだし。


「そんなわけで放課後だよ、陽介!」

「お、おう」

「これから美少女ウォッチングに行きます」

「うぇ!?」


 何言ってんの、お前。みたいな顔で陽介が僕を睨んできます。だがしかし、そんな威圧程度じゃ僕は怯まない! なにせ、リアルに命がかかっているからね! まぁ、どの道死ぬんだけどな! HAHAHA!


「うるせぇ! 転校生に美少女を紹介しないといけない呪いにかかっているんだよ、僕は! 紹介できなかったら死ぬんだよ! そして、お前を呪ってやる! 尻からわさびがひねり出される呪いをかけてやる!」

「やめろや」


 リアルに嫌そうな顔をする陽介。


「つか、俺は別に、恋愛なんて今は興味な――――」

「うっせぇ! 恋愛に興味が無くてもエロスには興味あるだろ!? ああん? あるだろ? なかったらテメェは男失格だ!」

「なんでそんな喧嘩腰なんだよ……?」

「健全な男子高校生だぜ!? お前、女子を見たら頭の中はセックス! セックス! セックス! ってなるだろーが! あ、ブスは例外な!」


 そんなことを叫んでいたら、通りがかりのブス全員にリンチにされた。

 くそが、ブス共が。へへん、どうせテメェらなんて物語の脇役にも慣れない顔偏差値の存在よ。実際、あれだぜ? アニメとか漫画に描写されることになったら平均以上の顔しか出ない感じなんだぜ?


「そんなわけで美少女ウォッチング行こうぜ!」

「お前のタフさには負けたよ」


 呆れたように笑う陽介。

 おっし、ならば僕に付いてくるがいいさ! 君に我が校の美少女四天王を紹介してやろうじゃないか!


「はい! まずは黒髪ロングで凛々しい系美少女が、うちの生徒会長である七尾ななお 由依ゆい先輩だ! おっぱいがでかいのを実は気にしているが、気にしている割には、意外と体育の授業とかで割とばいんばいんと――」

「あ、輪廻が生徒会長の投げた辞典で吹っ飛ばされた」


「次はこの高校を支配している番長系美少女を紹介しよう! ほら、あの茶髪で胸が貧相な、控えめに言って中学生にしか見えない、目つきに悪い奴が――――がぁああああっ!? やめ、おまっ、リアルに骨を折ろうとすんなよ!?」

「名前を言う前に速攻で間接技決められてる……」


「ぜぇ、ぜぇ、最後の四天王は隣のクラスの暁さんだ…………なんか、ハーフで地毛が銀髪で目が青いという、西洋人形みたいな美少女だな! まぁ、胸は貧相だが、その分、性格は前の二人に比べて優しいからおすすめ――――ってやめろぅ、ブス共! 妙な連帯感を発揮して、僕をリンチに来るのはやめろぅ!」

「四天王なのに三人なのか?」

「最後の一人は募集中だけど、ほら、ブス共が意外と多いからぁ!? ごめんなさい! ペンチは仕舞ってください!」


 こうして、ボロボロになりながら僕の美少女紹介が終わりましたとさ。

 ちなみに美少女が三人までなのはあれです。せっかく三人まで揃ったんだから、残りの一人ぐらい後から入学したりしないかなぁ、という男子どもの淡い期待の表れなのです。ま、三人もレベルの高い美少女が居るだけで充分だと思うけど。


「そんなわけで、三人の内、どいつを攻略する?」

「や、別に攻略しないって」


 夕暮れ。

 適当に地元のを案内しながら、僕は陽介ともにファミレスで一足早い夕食を食べていた。ちなみに、僕はドリアで、陽介はポテトのみ。割と小食なんだとか。


「えー、しないのー? あれだぜ? 人生は一度しか……基本的には無いんだから、やれるだけの経験はやっておけば? 恋愛とかほら、周りがこぞって素晴らしい物だと推奨しているしさぁ」

「そういう輪廻こそ、どうなんだ?」


 もそもそと、小動物のようにポテトを食べる陽介は僕に尋ねてくる。外見はすさまじい美少年だというのに、妙な食べ方のをしているので、そのギャップで笑いそうになったが、我慢。


「あー、僕は既にあの三人に告白して振られているからなー」

「へぇ、参考までになんて?」

「エロい体してますね。一発やらせてくれませんか? って、そしたら返事の代わりに三人とも鉄拳が飛んで来た。暁さんでさえ、涙を浮かべてグーだったぜ?」

「ははっ、最高だな、お前」


 あ、今、初めて笑った。

 なんだ、お前…………今日、ずっと仏頂面していたから、笑えない奴かと思っていたぜ、まったく。体張って、受けを狙って損した。いや? 得した、かねぇ?


「その顔で女子に話しかければニコポできんぜ?」

「なんだそれ?」

「ニコって笑う。ポッと女の子が惚れるの賛美式」

「や、それで惚れたら、その女子頭がおかしいだろう」

「だよなぁ」


 リアル主人公に尋ねてみても、やはりそうらしい。でも仕方ないんかね、創作物は。展開遅いとつまらないとか言われそうだし。


「んで、陽介。結局恋愛はどーする?」

「今は遠慮しておく。別に性欲が無いってわけでも、恋愛に興味が無いってわけでもないんだが。どうにも」


 一息、間をおいて、陽介は自嘲するように言った。


「今の俺は、生きてるって実感が無いんだ」

「……そっか」


 僕は生まれる前から、ある程度、この世界に対する知識――特に、異能の仕組みについてを植え付けられていたから、その虚無感は理解できる。

 なにせ、異能『サヴァイヴ』を所有する者は皆、何かしらの欠落を抱えているのだから。

 それは陽介のように、生きているという実感だったり。

 あるいは、味覚や視覚という肉体的な物。

 果ては、概念的な物すら、異能によって欠落が生み出される。

 僕は所詮、脇役だ。後どれくらいかはわからないが、少なくとも半年内には無残に殺されて、死ぬ。陽介の心に傷が残るようにして消えなければならないのだ。

 陽介にとっては、はた迷惑も良いところな友達になる予定だ。

 だから、せめて…………僕が死ぬ前までに、こいつの欠落を少しでも癒すことができればいいと思う。

 あと、ヒロイン決めな! 異能バトルには美少女が付き物らしいから。


「陽介」

「ん?」

「安心しとけ、僕が隣に居る限り、貴様に安穏の日々は訪れない……」

「いきなり何言ってんだ、こいつ」


 目を丸める陽介に、僕はにやりと笑って言う。


「つまり、実感なんて覚えている暇がないくらい、楽しい高校生活にしてやるってことだよ!」

「…………はっ、なんだそれ?」


 僕と陽介は顔を見合わせて、笑う。

 どこにでもいる、普通の高校生のように。


「うっしゃあ! んじゃまず、ファミレスの挑戦メニューを注文しようぜぃ! ハーイ、お姉さん! この『真の大盛りは見た目で殺す特大チャーハン』をお願いしまーす!」

「おま、それ…………もはや皿がオードブルの大皿じゃねーか」

「僕と陽介の友情パワーならできるって!」

「言っておくが、俺は小食だぞ?」

「そういえばそうだった!?」


 結局、チャーハンは僕が八割食べて撃沈しましたとさ。

 うん。次の日は朝食もいらなかったよ。


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