49
…思い出した。
私は私。
クシャナ王国第一王女、フレイアだ。
目の前に横たわる隊長様とリューク様。そして城中の皆……。
皆傷付き、倒れている。
「許さない…私はあなた達を許さない」
出した言葉は巻き起こった突風に煽られ消えて行く。
私は立ち上がり、ゆっくりと瞳を閉じ…そして開いた。
私の口は不思議な旋律を紡ぐ。
今までは分からなかった言葉がすんなりと頭に入って来る。
「癒しの風よ…皆を闇の淵より救い光の元へ!!!」
瞬間。立っていられない程の風が巻き起こりレーヨンやキャサリン、バームさんも吹き飛ばされる。
真っ白だったリューク様の顔色が戻り、小さく身動ぎされたのが分かった。
隊長様は…動かない。
私はぐらりと傾ぐ身体を両足で支える。
まだだ。
まだ、駄目だ。
「戒めの風よ!!悪しき者達を捉え力を奪え!!!」
再び起こった風がレーヨン達を拘束し、見えない檻に閉じ込めた。
「精霊の名の下…に、彼らを…裁く!!我は精霊の愛し…子フレイア!!我の願い、を聞き届け…よ!!」
風に拘束された者達が言葉も無くぐったりとした時、私はその場に崩れ落ちた。
まだ…まだ、駄目…。
私は最後の力を絞ってズルズルと隊長様の元へ這って行き、手を握り締めた。
冷たい…。氷のようだ。
「隊長様……お願い…死なないで…目を開けて下さい…」
私は必死で自身の力を注ぐ。
「精霊達…お願いだからアレクセイ様を助けて…」
情けない程に涙でぐしゃぐしゃになりながら、隊長様の名前を呼び続ける。
お願い!!
死なないで!!!
お願いだから私を置いて行かないで!!!
アレクセイ様!!
「泣い…てい……のか?」
掠れた声がし、私はバッと顔を上げた。
「俺…以外に…泣かされ、るな…と言った…ろう?」
隊長様は優しく微笑むと私の頬に手を当てた。
その、温かな手。
「……っ!!!」
私は言葉が出せず、隊長様の胸に倒れ込んでしまう。
「アレクセイ様っ……!!」
良かった、良かった!!
皆!!ありがとう!!!
「ベル…声が?」
その言葉を最後に、私の意識は途切れたのだった。




