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「ベル様、ドチラ…ヘ行カレル、ンデスノ?」

声はゆっくりと私を追いかけて来ています。

良かった…これでリリアンさんは取り敢えず安心ですね。

後はアリアさんですが……どうもアリアさんは早く動けない様子。上手く逃げれば捕まる事は無いでしょうが、早くアリアさんを治して貰わなければ……。



「べ…ル様……お召替エヲォォォ!!!」



後ろでアリアさんの歪んだ叫び声が聞こえます。アリアさんは今やぐったりと頭を後ろに仰け反らせたマリオネットの様です。これはやはり操られていますよね……。




しかしこれだけ騒いで王宮内を駆け回っているのに、何故騎士様や他の方に出会わないのでしょうか。

私は今も壁や窓を叩きながら走っているのですが、全く誰も現れてはくれないのです。

リリアンさんが倒れていた事や、バームさん達が居なかった事と何か関係があるのでしょうか。

ゆらゆらと漂う様に動くアリアさんを振り返りながら、私は自分でも不思議な程に落ち着いていました。


大丈夫です。必ず隊長様が助けて下さいますから。

私は腕輪に触れて小さく微笑みます。



隊長様…私はここに居ます。











突然腕輪が熱くなり、辺りを眩い光に包まれます。

優しい、金色の光。



「ベル!!」



ふわりと抱き締める温かい腕と、私を呼ぶ耳に心地良い声。



『隊長様!!!』

来てくれた!!

やっぱり来てくれたのですね!!



私は思わず隊長様にしがみ付きます。逞しい腕がギュッと抱き返してくれました。それだけで私の恐怖が和らいでいきます。


「大丈夫だったか!?」

『はい!!私は平気なのですがリリアンさんが…』

「分かっている。他の者も皆そうだ……アリアは操られているな」

隊長様は険しい顔でアリアさんを睨みながら右腕を挙げると、何かを呟かれました。


「グ、ァ……」


アリアさんが突然床に倒れ込まれます!そんな…!!アリアさん!?

「眠らせただけだ」

確かにアリアさんは穏やかな顔で眠りにつかれているようです。

私はホッと息を撫で下ろしました。


「お前は本当に大丈夫なのか?」

隊長様はそう言って私に向き直られました。

『はい。隊長様が来て下さいましたから』

「そうか……それなら良かった」

目元を和らげて私の頬を撫でようとされた左手を見て目を見開きます。

『血が…っ!!』

隊長様の左手の甲には何かで切りつけた傷が深々と付いていました。

「大丈夫だ」

隊長様は無表情に言われますが、私は慌てて夜着の袖を切って傷口を止血します。こんなに血が出ていて痛く無いはずありませんよ!?どうしてこんな…。

「…眠け覚しだ。俺にも術が掛けられたが、こうした方が手っ取り早く解けるからな」

成る程……にしても思い切り切り過ぎです!!

「今度こそお前を助けたかったからな」

真剣な声に私の頬が熱くなります。それを隠すように私は俯きました。だってとても不謹慎ですよね。

『…ですが、隊長様が傷付かれるのはとても悲しいです』

嬉しい。だけどこれも本心です。

俯く私の上から優しい声が降って来ました。

「間に合って良かった…」

見上げると、私を見つめる美しい黄金色に囚われました。

あぁ…私は今、嬉し過ぎて顔面が崩壊しそうです。

『ありがとうございます…』

隊長様はくしゃりと笑うと私の頭を撫でて下さいました。

「取りあえずここを離れるぞ」




隊長様は手早くアリアさんの両腕を縛り上げ開いた部屋へ寝かされます。また操られない為だそうですが、何だか申し訳ないです。

そして私に上着を掛けて下さり、腰に手を回されました。

「少し、飛ぶ」

その言葉の直後、以前も経験した目も眩む程の閃光が走りました。


目を開けると、そこは豪華な部屋の中でした。何処ですかね…?

辺りを見回すと、床には見慣れた金色の髪……

『リューク様!?』

隊長様は驚く私の手を引いて床に倒れるリューク様の元へと近寄られます。

「起きろ」

そう言うが早いかリューク様を足蹴にされます。ななな何て事をっ!!相手は皇太子殿下デスヨ!!??

「う……」

リューク様の長い睫毛がゆっくりと動き苦しげな呻き声を上げられます。

「起きろ馬鹿」

更に足に力を込めようとする隊長様を必死で止めて、私はリューク様の側に跪きました。

『リューク様!!』

ゆさゆさと肩を揺さぶると、その私の手を握り瞳をゆっくり開かれました。

「う……ベル?」

『リューク様!!…良かった…』

「足……痛い」

え?と思って振り返ると、隊長様がリューク様の足を思い切り踏んづけておられました。た、隊長様!?

「手を離せ」

地の底から響くような声で言うと、私をさっと後ろに引っ張られます。


「アレクセイ…?……僕は…?」

「まんまと術に嵌りやがって…さっさと起きろ」

「僕は……そうだ…突然身体が重くなって…何とか返そうとしたんだけど…」

「俺のやった腕輪を外しただろう。だからいつも付けていろと言ったんだ」

リューク様はゆっくり身体を起こし、苦笑されます。

「少しなら大丈夫だと思ったんだ。だって男から貰った物なんて嬉しくないからね」

「馬鹿め…」

隊長様は溜息を吐くとリューク様を引き起こされました。

「事態は思ったよりも深刻だ。城中の者が眠らされるか…或いは操られているな」

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