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少し暴力表現…と言うかホラー的な文章があります。

そこはカーテンが引かれた暗闇でした。

ランプ…持って来れば良かったです。


『誰か居るんですか?』


良く見ようと目を細めていると徐々に目が慣れて来たようです。

ボンヤリと並ぶ衣装が見えます。

そして……


私はハッと息を飲みました。






暗闇の中には女性が佇んでいたのです。






『だ、れ…?』



この部屋は私の寝室からしか入れない筈です。就寝前にはリリアンさん達が出入りされていましたが、誰かがいるなどとは仰ってませんでした。

…では……この方は……

恐ろしい結論に足がすくんで動けません。


『ゆ、ゆ…れい……』


音の無い言葉が闇に消えた時、その女性がこちらを振り返りました。

う、動いた!!??

悲鳴を上げる為に開けかけた口を閉ざします。




何故ならそれは私が良く知る人物だったのです。

小柄な身体なのにとても女性らしい身体つきで、くりくりの大きな瞳の持ち主。

今は体調が悪いと言われていた筈……



『アリアさん…?』



私は力が抜け落ちそうな程ほっとしながらも彼女の方へ近寄ろうとしました。

良かった…。元気になられたのですね。



アリアさんは虚ろな瞳で私を見つめ返すと、どこか夢見るように微笑まれます。

「ベル様、今日はどのドレスになさいますか?」

『え?』

「私はこちらが良いと思いますの」



そう言って差し出されたそれは、いつかのドレス以上にボロボロに引き裂かれていました。

「ほら、こちらはベル様にお似合いですわ」

焦点の合わない目に、口元には笑みを貼り付けたままアリアさんはゆっくりとこちらに歩み寄られます。

反対の手には裁ちバサミを持たれているようです。

『ア…リア、さん…?』

「少しお直しが必要デスわネ」

そう言って私の肩へ刃先を向けるとスッと手首までなぞるように動かされます。



「腕ガ…長いですノで」



その言葉にゾッとして、私は思わず一歩後ろへ下がります。

アリアさんはことんと首を傾げられました。

「どうナサイましたノ?早くお召しにナラレませんとお時間がありマセんわ」

『アリ、アさ……』

「サァ、こちらへ…」

足が震えて動かない私の手首を掴んでご自分の方へ引き寄せられます。


ギリギリと音がしそうなほどの握力は小柄なアリアさんからは想像も出来ません。

『いっ……』

痛みに顔を歪めて身をよじる私にアリアさんは笑みを深めます。

「今、直シテ差し上ゲマスわネ」



『いやぁっ!!』



私は滅茶苦茶に暴れて腕を振り払うと、ドアに向かって走り出しました。

怖い!!

あれは本当にアリアさんなのですか!?

誰か……誰か!!!



寝室を抜けて隣の部屋に駆け込もうとしました。するとそこには床に倒れるリリアンさんの姿が!!…そんな!!??

『リリアンさん!?大丈夫ですか!!??』

急いで駆け寄って確認すると、リリアンさんは気を失っているだけのようでした。

ホッとする私の耳にアリアさんの足音が聞こえます。

どうしよう!?リリアンさんを守らないと!!

私は手当たり次第にアリアさん目掛けて物を投げ付けます。こ、来ないで下さい!!!



「ベル様…お行儀ガ悪いですヨォ?」



アリアさんは気にした様子もなくこちらへと近付いて来られます。

しかしアリアさんの頭は不自然に仰け反っており、歩き方も何処か不自然です。

例えるなら見えない糸で身体を動かされている様な…。





「邪魔なリリアンは放ッテおイて…コチラへ……オ召替エを致しマショウ…私ガ手伝って差し上ゲマスカら」




アリアさんはリリアンさんに興味が無いようです。ならば私が側に居る事の方が危険なのでは!?

私は一か八か、ゆっくりと近づくアリアさんを避けてもう一つのドアに向かいます。

案の定アリアさんはこちらへ向かって来られます。



そうでした!廊下には護衛の騎士様がいらっしゃる筈です!!

『誰か!!……バームさん!!』

扉を開いて勢い良く飛び出しましたが、誰の姿もありません。何故!?皆さん一体何処へ行ったのですか!?




呆然とその場に立ち尽くし、思わず涙が溢れます。

『一体どうしたら…』

怖い。怖い。怖い!!

誰かに助けて欲しいのに誰も来てくれない。



私はこのままアリアさんに捕まってしまうのでしょうか…。






「早ク…コチラへ……一人ではモ出来なイのデスカラ…」







近付くアリアさんの声にはっとします。

そうです!

こんな事をしている場合ではありません!

ここにはリリアンさんが倒れているのです!!私が居るとリリアンさんにも危険が及びます!!!


操られている風のアリアさんを傷付ける事は出来ませんが、せめてここを離れなければ!!!

逃げて、助けを呼ばなければ!!





そうして私は闇夜の廊下へ脱兎の如く走り出したのでした。

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