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『思い出すって…どうやって?』

私は敬語も忘れて問いかけます。消えた記憶を取り戻す事など可能なのでしょうか。

「それは一応考えがあるんだ。でも…ベルにとっては少し辛いかもしれない…」

どうする?と私の顔を覗き込まれた瞳は、真剣に私の事を案じて下さっているのだと語っていました。

『思い出せるものなら……思い出したいです』

「辛い事があったから忘れてしまったんだと思うよ?思い出したらまた同じ思いをするかもしれない」

『はい…だけど以前も話した通り、それだけではないと信じたいのです』


ギュッと手を握って真っ直ぐ前を見つめます。青の瞳はとても優しく私を見つめ返して下さいました。

「よし。じゃぁ早速今夜やってみよう」

『分かりました。でも、どうやって?』


今までも何度か思い出そうと考えた事はあったのですが、何しろ幼い頃の事なのでサッパリ無理でした。というか、孤児院に保護された辺りの記憶も曖昧過ぎて覚えていないのが現状です。


「それは今夜のお楽しみ」


リューク様はそう言ってレーヨン様を呼ぶと、何か書いた紙を手渡しました。

「さ、ベルは今夜に向けてゆっくり身体を休めておいて」










リューク様の執務室を出て、何となく中庭へ向かいます。



忘れた記憶を思い出す…。



それは恐ろしい敵と対峙するような気分に似ています。

私は一体何を忘れているのか、そしてそれは思い出しても良い事なのか……。










考え事をしながら歩いていると、昨日の噴水の前までやって来ていました。

夜に見た時は女神様が現れそうだと思いましたが、昼間はまるで違っています。小鳥が水浴びをしている様子が和やかさを更に引き立てていますね。


「ベル」


振り返ると、そこにはやはり隊長様がいらっしゃいました。何となく来られるのではないかと思っていました。

「リュークに聞いた。本当にやるのか?」

『…はい』

隊長様は私の顔を覗き込まれます。…近い!!近いですよ!!!???

「話…聞くと約束した」

は、話?…話…はなし…って…昨晩の…アレ、ですか!?何故に今!?

あ、いえ…別にいつでも同じなんですけどね…。それにしても心の準備が…。

あの時は勢いで…うぅ……むしろあの勢いのまま聞いて欲しかったです…。

そしてやはり近いですよね!?息がかかりそうなんですけどぉ!!??


『あ、でも書くものが…』

「そのままで分かるから大丈夫だ」

『わ…分かりました!!分かったから少し離れて下さいっ!!』

私が顔を真っ赤にして隊長様と格闘していると、


「アレクセイ様〜!!」


どこか間の抜けた声を発しながらオジサン…いえ、ブルース様が駆け足でやって来られました。

「アレクセイ様!殿下がお呼びです!!」

「………」

「……アレクセイ様?」

「聞こえている!!…何の用だ?」

「今夜の事についてだそうですよ?」

「…先程聞いたが?」

「えっ!?…ですが殿下が『必ず連れて来てね』と…」

「…クソッ…邪魔するつもりだな」

途端に不機嫌なオーラをバシバシ発せられる隊長様に、私もブルース様も縮み上がります。

「…後で行く」

「りょ、了解しました!!では『そう言ったらブルースは側にくっ付いているんだよ?』との命令通り、側に控えさせて頂きます」

「はぁ…リュークの野郎……仕方ない。話は今度だ」

そう言ってブルース様を伴って歩き出されます。





残された私は、何処かホッとしたような残念なような複雑な気持ちでその背中を見送ったのでした。

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