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アルフレッド様は少し疲れた様子で入って来られ、私を見るなり優しく微笑まれました。
「ベルも来ていたのだな。今日は話も出来ず残念だった。しかしドレスは良く似合っているよ」
そう言って近付いて来られていたのですが、突然ピタリと歩を止められました。
「ア…レク……それは…」
視線は未だ繋いだままの私達の手。ぶるぶる震える右手を上げて指で指し示されます。
「なっ、何故…手……を握っ…!?まさか!!まさかベルの純潔をうばぁぁっ!?」
見事!アルフレッド様の顔面にリューク様が投げたクッションがヒットしました。
「手を繋いだだけで何言ってんのさ。その前に報告があるでしょ?アレクも。そろそろ離しなよ。これじゃぁ全く進まなくて困るんだけど?」
にっこり笑って仰っていますが…目、笑ってませんよね?
隊長様はチッ、と舌打ちしてから手を離されました。やっと羞恥心から解放されてホッとすると同時に、少し…寂しくも感じてしまいます。隊長様を見上げると、ニヤリと笑われました。…あ、これは良くない事を考えてますね?
「そんなに寂しいなら俺の膝にでも乗」
「報告!!報告するぞ!!!」
アルフレッド様が大きな声で遮られ、隊長様はまた舌打ちされていました。
隊長様、一体何を言おうとされていたんでしょうね?しかしあの顔はきっと碌でもない事なので聞かなかった事にしますよ。
「結論から先に言うと、俺の力では癒す事が出来なかった。…すまない」
アルフレッド様は隊長様に深々と頭を下げられます。
「いや…こちらこそ無理を言ってすまなかった。それで彼女は?」
「今は国王と共に過ごされている。…彼女は治る見込みはあるんだ。ただ、現実を思い出す事に恐怖心がある限りは難しいだろうと思う」
「…そうか」
「私の力は治ろうとする対象者の思いに働きかけ、ほんの少し手助けをする程度しかない。殻に籠りたいと思う人には効果がない」
「すぐには無理でも少しずつ、だね。日にち薬ってやつでしょ。僕も父も協力するからさ」
「もちろん私も出来る限りの事はしよう」
「…ありがとう」
隊長様はお二人に頭を下げられます。友情って素敵ですね!!
『隊長様!私も微力ながら協力させて頂きますよ!!』
目が合ったので、両手を握り締めてヤル気アピールです!!
「お前は……そのままで良い」
『えっ!?何故!!』
「お前が張り切ると面倒事に巻き込まれそうな気がする」
えぇっ!?
「あ、それ分かる。空回りしそうだよね」
なっ!?
酷い言い掛かりですよ!!アルフレッド様!!ここはドーンと言い返して下さい!
「…そうだな。張り切って事件に巻き込まれに行きそうだ」
アルフレッド様まで酷いですよぉ!!!
盛大にむくれる私を見て、執務室には暫し隊長様達の笑い声が溢れたのでした。
……って、面白くないですよ!?




