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ドアを潜り抜けると、そこはやはり美しい世界が広がっていました。
色鮮やかなドレスのご令嬢達に、談笑されている紳士。そしてやはり私達が現れた瞬間の驚愕の視線。
…だからこれは何なんですかね?
隊長様に視線を向けると、黄金色の瞳とぶつかります。
「俺がここに来るのが余程珍しいのだろう」
『前回も何人かに言われていましたが、そうなのですか?』
ここではメモに記す事が出来ないのでゆっくり伝えます。
「あぁ。俺はこういう集まりは嫌いだからな」
『では…』
「いや、不思議と前回も苦ではなかったな。…お前と一緒だからかな」
優しく微笑まれて顔に熱が集まります。私は思わず下を向きました。だって…恥かしいじゃないですか。
「今日こそ何か食べるだろう?前回は食べ損ねただろうからな」
『はいっ!!』
途端に元気になる私に声を出して笑われてから、ゆっくりと会場内を歩きます。
隊長様が私に話し掛けて来られてはお互いに笑い合い、会話が途切れて周囲のざわめきに耳を傾けます。
それだけで、何故かふわふわとした気持ちが溢れます。
しばらくして王族の方々とアルフレッド様の登場が告げられました。今日も皆さん堂々としたお姿で輝いていらっしゃいますね。
ふと、壇上のアルフレッド様の視線が私を捉えました。微笑む私の様子を見て、それから嬉しそうに破顔されます。
途端に騒めく場内。あぁ、そう言えばアルフレッド様は美しい顔をされているんでしたよね。最近の拍車が掛かった過保護ぶりのせいですっかり忘れてましたよ。
メインの方々のダンスが始まり、会場は一層賑やかになりました。あちらこちらで笑い声が聞こえて来ます。
キラキラ、ヒラヒラ。とても華やかです。
…この中に私に嫌がらせをした方がいるなんて思えない程美しいです。
まぁ、人は見かけではありませんからね。気を引き締めねば。
私はその光景を見ながら隊長様に取り分けて頂いた料理を堪能していました。これは…!見た目だけでも美しいです!!流石です!!!
それにしても、なんて美味しいのでしょう!!!これだけでもここに来た価値がありますよね!!
「そんなに美味いか?」
『はいっ!!とても美味しいです!!!』
「そうか…これも食べろ」
隊長様はご自分の分を私に差し出されます。隊長様は召し上がられないんですか?
「俺は別にいらん」
そうですか!?なら、遠慮無く貰っちゃいますよぉ?わ〜い!!いっただっきまぁ〜す!!
無作法にならない程度に、それでもご令嬢としては異例の食べっぷりを披露する私を隊長様が面白そうに眺めていらっしゃいます。
モグモグモ……む?なんですか?
「いや……幸せそうだなぁと…」
『はいっ!!幸せですよ!!』
だってこんなに美味しい料理を食べれるんですからね!!
「……良かったな」
隊長様は面白そうに笑われています。何ですか?人を見て笑うのは悪い癖ですよ。
抗議の瞳で睨み付けると、笑いを収めてお皿を差し出されました。
「いや…すまん。デザートもあるぞ」
『えっ!?良いんですか!?頂きます!!』
限界だと言いたげに隊長様が噴き出されました。なんと、目に涙まで光ってますよ。何がそんなに可笑しいのですかね!?失礼ですよ!!!……ん?このケーキ…美味しいっ!!
「もうっ…勘弁してくれ…」
隊長様は私を見ながらお腹を押さえています。もう良いですよ〜。無視です。無視無視。私はケーキ様に集中しますので。




