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暴力表現があります。苦手な方はご注意下さい。
あの舞踏会から二週間が経ちました。
夢の様な時間は過ぎ去り、私はまた現実の忙しさの中に身を投じております。
隊長様とはお会いしておりません。
時折腕輪を眺めて夢じゃなかったとか、会いに来て下さるのかな、とか思っておりましたが全くの音沙汰なしです。
「これで何時でもお前に会える」などと、嘘ばっかりです。
あれから変わった事が二つあります。
一つは執事さんや他の使用人の方です。
「本当はもっと早くにベル様のお立場を確立させねばならなかったのに…奥様の命令に背く事が出来ず辛い思いをさせてしまいました……長く支える身として恥ずべき行為です。本当に申し訳ございませんでした」
執事さんや古参の使用人さん達は土下座をして謝罪されたのです。もちろん慌てて止めて頂きましたが。
私が特に不幸だと思っていない事、むしろ彼らに感謝している事を伝えると、それからは今まで以上に温かく接して下さるようになりました。
これまでは私の事を不憫だと思いつつも行動出来ない自分を責め、どこかよそよそしい態度になっていたのだと告白された時は思わず泣いてしまいました。
私はずっと疎まれていると思っていたからです。
そしてもう一つは最悪な事に、何故か奥様の弟セイラム様がお屋敷に来られる回数が増えた事です。
執事さんや年配の使用人さん達は、私や若い女性の使用人さん達が一人にならないように気を配って下さいます。
今までもそうだったのですが、和解して以降はより一層注意して下さっているのが分かります。
しかしそれでも一人になる事はあるのです。例えば今回のように…
「お前は下がれ」
「…っ!…しかし…」
「下がれと言ったのが聞こえんのか!!お前は用無しだ!!」
セイラム様が唾液を撒き散らしながら執事さんに怒鳴られます。気持ち悪いです。
執事さんは最後まで粘って下さいましたが、やはりセイラム様に敵うはずもありません。客室には私一人が残されてしまいました。
「おいお前、こっちへ来て酒を注げ」
ゲヒヒッと気持ちの悪い笑いを零し、私を指差されます。私は悪寒を堪えて側まで行くと、空のグラスにお酒を注ぎました。
と、セイラム様が突然グラスを傾けられ、その反動で自身のお召し物にお酒が溢れてしまったのです。
「おい!!なんて事をするんだ!!!」
えぇっ!?私は何もしていませんよ!?それはセイラム様が勝手に…
「まぁ、良い。俺は寛大な男だ。着替えさせろ」
嫌悪感に震える身体を叱咤してボタンを外し終えた時、ガシッと腕が掴まれます。
なななっ!?何ですか!?
「お前は以前の舞踏会に参加していただろう?姉上やキャシーは気付いていなかったが俺の目は誤魔化せん。お前は美しい……俺の妾にしてやる」
はいぃっ!!??止めて下さい!!!離してっ!!!
「無駄だ。お前がいくら抵抗しようと俺には敵わん。大人しくしていたら悪いようにはせんよ」
私の腕を掴む腕に更に力が加えられます。
いやぁっ!!やめてやめてやめてぇっ!!離してぇぇっ!!
「小娘がっ!大人しくせんか!!」
頬に痛みが走り、気付いた時には男が馬乗りになっていました。
「ふふふ…痛いか?痛いなら叫んで助けを呼べば良い。まぁ、お前は声が出せんのだったな?クククっ…ほら、叫べ!!」
男は至極楽しそうにそう言います。
助けを求める声は虚しく空気となって消えていきます。
痛いよぉ…やめてぇっ…
「…げへへっ…これもなかなか…」
男は更に手を振り上げます。
助けて!!!誰か!!!
助けてっ!!!!
助けてっ!!
……隊長様ぁっっ!!!
「ピギャッ!!」
不意に体が軽くなり、恐る恐る目を開けます。
そこには金色の輝きを身に纏った隊長様の後ろ姿がありました。
あぁ……助けに来てくれた…
そこで私の意識は途切れました。




