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隊長様は呆然とするルシアン様を置いて、同じく呆然とする私の腕を引いて歩き出されます。

途中で何人かの紳士が驚いた顔をしてこちらをご覧になっていましたが、ルシアン様のように話しかけて来られる方はいらっしゃいませんでした。



しばらくして王族の入場が告げられました。皆さん粛々と頭を下げて出迎えます。「楽にせよ」と深みのある声に顔を上げ、じっくりと王族の方々を観察させて頂きます。


威厳あるライオンのような国王陛下に、年齢不詳の儚げな王妃様。このお二人は絵姿を見た事がありますが、やはり実際に拝見すると王族の威厳のようなものを感じます。


そして両陛下の一段下に座られているのは、お嬢様が褒めちぎっておられた王太子殿下です。優しげな美しい面立ちを縁取る薄い金色の髪。柔らかそうなそれは周囲の光を反射してキラキラと輝いております。おぉ……これが噂の…。確かに綺麗な顔をされていますね。ですがあの笑顔は何となく…いえ、気のせいでしょう。



現在の国王陛下には三人のお子様がいらっしゃり、美姫として有名な一番上の第一王女様はもう他国へと嫁がれております。

残るはまだ幼い第二王女様です。確かアルト様と同い年の王女殿下は、幼すぎる為本日は出席されないそうです。



ボンヤリと王族観察をしている間に国王陛下の挨拶が済み、陛下と王妃様が踊られ、いよいよ舞踏会の始まりです。

皆さん思い思いに踊ったり、食事をしたり、歓談されたりしています。


それにしても舞踏会とはこんなに豪華で美しいものなのですね。まるで夢のようです。屋敷に帰ったら使用人の皆さんにお伝えしましょう。執事さんなんかは特に喜んで聞いて下さるでしょうし。



「何か食うか?」

はいっ!!食べたいです!!

私が勢い良く頷くと、何故か楽しそうに微笑まれます。

だから、その笑顔は、凶器です、って…。




隊長様に連れられて豪勢な料理の方へ歩き出した時、何となく視線を感じました。ふとそちらへ目をやると、一人の女性がこちらを凄い形相で睨んでいらっしゃるではないですか!!まるで鬼のような顔をしたその女性は、スタスタと私達の側まで来ると先程の様子が嘘のように可愛らしく微笑んで仰いました。

「アレク様っ、お久しぶりですわ」

ぐいっと私と隊長様の間に身を挟むと、隊長様の腕にご自分を絡めてシナを作られます。その際、大胆に開いたドレスで豊かな胸を強調するのを忘れません。なんと…これが果物屋のポーラさんが言っていた女豹さんの技ですか。


驚く私と対照的に、隊長様は鉄壁の無表情で女性を見下ろされています。私なら全身の毛穴が開いてしまうでしょうが、彼女は平気のようです。こちらもまた、空気が読めない方なのでしょうか。


「どうしてマリーに参加する事を内緒にしてたんですの?マリーはてっきり今夜も来られないのだと思ってお父様にエスコートを頼んだんですの。お手紙で教えて下されば良かったのにぃ」

「……何故お前に教えねばならない」

「意地悪なアレク様。今夜はマリーと踊って下さらないと許しませんわっ」

「お前と踊る気はない」

「テレ屋さんですのね〜。そんなアレク様も素敵ですわっ」

「………」

今や隊長様の眉間にはベルベルト山脈のような深いシワが刻まれています。隠しようもない怒気が隊長様から放たれた時、やっと女性がビクリとして身体を離されました。…遅い…遅いですよ。



「マリー?何をしておるんだい?…おや?アレクセイ殿じゃないか」



大きな身体をえっちらおっちら揺らしながら現れた男性が隊長様の肩を親しげに叩かれます。あの……止めた方が…。


「いつもウチの娘が迷惑をかけて申し訳ないですなぁ。マリーや、きちんと挨拶したのかい?」

「もちろんですわ」

「ウチのは君にご執心でね。…おっと、それを言ったら叱られるな。だがこれだけは言わせてくれないかい?マリーは君と踊るのを楽しみにしておったんだよ」

「もうっ、お父様ったら!」

マリー様は頬を赤らめてモジモジされています。先程の恐怖心は彼方へと飛んで行ってしまったようですね。

「踊ってくれるね?」

「…私には連れがおりますので」

「おや?断ると言うのかい?」

男性は人の悪い笑みを浮かべて隊長様を覗き込まれます。今にも隊長様の舌打ちが聞こえるようです。


私は何か断り辛い理由があるのだと察し、隊長様に微笑みかけます。安心して下さい。私は空気が読める子なのです。

私を見た隊長様は一瞬イラッとした表情をされましたが、(え?何で?)マリー様に向き直ると美しく礼の形を取られました。


「では、一曲」


それは地を這うような恐ろしい声で、泣く子も気絶するのではないかと思う程の威力がありました。

しかしマリー様は喜びに顔を輝かせると、弾むように隊長様と共に人混みに消えて行かれました。



その際私に勝ち誇ったような笑みを向けるのを忘れない所も流石、と言うところでしょうか。




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