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ドアの向こうは、別世界でした。



贅の限りを尽くした会場は夜だというのに昼間のような明るさが満ちており、その灯り一つ一つが不思議な色で輝いております。

周囲を埋め尽くす色とりどりのご令嬢達は皆さんとても美しいです。まるで絵本の中の妖精みたいです。なんて綺麗なんでしょうか…。


ほぅ、と息を吐いた瞬間、何故か今まで賑やかに歓談されていた周囲の人々がこちらを驚愕の表情で凝視されます。

え…何ですか!?やっぱり私、変ですかぁ!?

「行くぞ」

隊長様は意に介した様子も無く私の手を引いて歩き出されます。それに合わせて動く周囲の瞳。こ…これは一体……。



「やぁ、アレクセイじゃないか。君がこんな場所にいるなんて珍しい事もあるもんだね」

後ろから軽やかな声が聞こえて振り返……らないのですか!?無視ですか!?

「ちょっ、ちょっと…アレクセイ!?」

情けない声を出した男性は少し早足で私達に駈け寄られ、前に立ち塞がられました。上からそこはかとなく不機嫌なオーラが発せられています。お、おう……恐ろしくて見上げる事が出来ませんよ。



いきなり登場した男性はそんな不穏な空気に気が付かれないのか、あえて気付かないふりをされているのか「久し振りだねぇ」と嬉しそうに微笑まれています。

そんなツワモノ様は、焦茶色の髪に光の加減によって金色にも見える茶色の瞳をされています。切れ長の目が軽薄そうにも見えますが、なかなかに整った顔立ちをされています。



「いやぁ、まさか君に出会えるなんて驚いたよ〜。それにこんなに可愛らしいバンビちゃんなんてどこで見つけてきたんだい?あっ、僕はルシアンって言うんだ。よろしくね?バンビちゃん」

バンビ!?何ですかそれ!?気持ち悪ぅっ!!

ルシアン様は固まる私の手を取るとそっと口付けられました。これが紳士の挨拶なのでしょうか。…それにしてもバンビ………いえ、あまり考えるのは止めましょう。鳥肌が治らなくなりそうです。てか、いつになったら離して頂けるんですかね。引っ張っても良いですかね?



「で?可憐なバンビちゃんの名前を教えて頂いても?」

「…お前に教える義理はない」

今までずっと黙っていらした隊長様が無表情で告げられます。手を取り返して下さったのは助かりますが、その顔は恐いから止めて下さい。借りたドレスの汗染みが気になりますのでっ!

「アレクセイならそう言うと思ったよ〜。でも、僕はこのバンビちゃんに聞いてるんだ。ね?名前はなぁに?」



私は慌てて隊長様を見上げました。

そうでした。私は貴族の振る舞い以前に自己紹介すら出来ないのでした。

ここはヘルプ!隊長様!!ですよー。きっと良いフォローをして下さると信じています!!



「………」

「………」

「………」



え?何ですかね、この沈黙。ルシアン様も怪訝な顔で私達を見つめておられます。たたた隊長様っ!!どうにかして下さいよぉ!「心配するな」って仰ったじゃないですかぁ!!



思わず腕に取り縋って焦る私を満足そうに観察された後、隊長様はニヤリと笑って仰いました。




「コレもお前に教える義理はないそうだ」




にょええぇぇぇっ!?

そんな事全くもって思ってませんよ!?

ちょっとぉ!!いい加減な事言わないで下さいよっ!!あぁっ!!ルシアン様の顔が引きつってます!!違うんですっ!!誤解なんですぅっ!!



隊長様は慌てて首を振る私を背後に隠すように立たせ、止めの爆弾を投下されました。






「顔を見るのも嫌だそうだ」






言ってねぇぇぇー!!!




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