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「何だ?俺に会えてそんなに嬉しいか?」


そう言ってニヤリと笑われたのはまごう事無き悪魔の笑みを浮かべた隊長様でした。


「さっさと行くぞ」

隊長様は呆然とする私の腕を掴んで立たせて歩き出されました。周囲に助けを求めようと目をやれば、とても嬉しそうな執事さんと目が合いました。執事さん……魂を売り渡してしまわれたのですね…。




ドナドナよろしく連れて来られたのは屋敷の外。一体ここで何が…?隊長様を見上げると、その金色の瞳がより濃くなった気がしました。そして何やら聞き取れない言葉を呟かれたと思った瞬間、辺りが目も開けていられないほどの光に包まれたのです。


「着いたぞ」


隊長様の声に恐る恐る目を開けると、そこは驚く程豪華な部屋の中でした。呆然とする私のすぐ側で隊長様の楽しそうな笑い声がします。

「そこまで熱烈に誘惑されると嬉しいもんだな」

何を…と隊長様を見上げてから、はたと気が付きました。なんと、私は隊長様の腕に思い切り抱き付いていたのです!

慌てて飛び退ると、隊長様はニヤリと笑ってから踵を返されました。

「頼んだ」

「はい。お任せください」

突然聞こえた声に驚いて振り返ると、そこには見た事のない女性が三人。


女性達は理解出来ない事が続いて固まる私の周りを取り囲むと、あれよあれよと言う間に浴室に連れ込み服を剥ぎにかかります。

なななななななに!?やめて下さいいぃっ!!!

「…細い…」

ぬわぁっ!?

「羨ましいですわ〜。スベスベ!!御髪も滑らかですわっ」

ぎゃひっっ!!

「こちらは少々小振りですが、形がとてもよろしいですね」

ぎゃぁ〜!!!どこ触って……自分でっ!せめて自分で!!!ひいぃっ!?やめっ………許してくださいぃっ!!!






自分でも触った事のない部分まで念入りに磨き上げられ、浴室から出た私は精魂尽き果てた状態になっていました。


もう、二度と、こんな目には、遭いたくない。


しかし私の災難はこれで終わりではありませんでした。この後身体中をマッサージされ、香油を塗り込まれたのです。…もちろん全てが全裸でしたよ…。


もうどうにでもして…と虚ろな目をした私が次に連れて来られたのは大きな鏡のある部屋でした。いつの間にやら下着を着せられ、ギュウギュウとコルセットで締められている状態で覚醒させられました。

グゥゥゥゥエエエエエエッッッ!!??ちょっ…苦しっ……助けっ……。


先程とは違う意味で意識が遠退き始めた頃、やっと拷問から解放されました。三人の女性曰く「ベル様は華奢ですのでこの位で済みましたが、中には三人がかりで締めねばならない方もいらっしゃいます」との事。


貴族社会とは何と恐ろしいのでしょう…。


奥様やお嬢様を少しだけ見直しました。そんな所だけは我慢強かったんですね。驚きですよ。



私に用意して頂いたのは紺色のドレスでした。落ち着いた色合いですが、胸の辺りにレースがふんだんに使われており若者向けのデザインのようです。更に、これならば私の悲しい体型がカバー出来ます。嬉しくも悲しい事実ですね。下に行く程色合いが濃くなるグラデーションがとても美しいと思います。


しかしこれは幾らですかね?こんな高そうなドレスを買うお金などありませんよ…。

それにしても私の身体にピッタリ合うのは何故でしょうね。…恐ろしくて聞けませんよ。



ドレスが着付け終われば今度は髪結いです。私の腰まである髪をどう纏めるかで意見が分かれたようです。私としては適当で良いのですが、それを伝えると何をバカなと叱られました。すみません。


結局半分纏めて半分おろすというのに決まったようです。全て纏める派の方…そんなに悔しがられなくとも…。



それが終わると最後にお化粧を施されます。今までの事もそうですが、お化粧も人生で初めての体験です。何だか気恥ずかしいです。

ここは盛りに盛って美女へと変貌を遂げたいと思い……あれ?そんなに簡単で終わらせてしまうのですか?いや、幾ら何でもそんなに簡単では私の平凡顏が変身できないと思うのですが……いえ、何も言いません。プロの方にお任せします。



仕上げにと持ち出されたのは私の瞳の色と同じ色のネックレスとイヤリングでした。

これは…どこからどう見ても本物の宝石ですよね!?そんな高級な物は恐ろしくて身に付けられませんよ!?


逃げようとする私に女性の一人が笑顔で仰ります。

「こちらを着けて頂けなければクビになりますので」

それ、笑顔で言う事ですかぁ!?

…恐い!笑顔が恐いです!!目が笑ってませんよ!?




すったもんだの末に全ての支度が整い、女性の一人が退室されました。

そして……





「とてもお美しいですよ」






大きな鏡に映し出されたのは、豪華なドレスで着飾り化粧を施された一人の美しい令嬢の姿でした。

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