表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
篝火 -春ー  作者: 日笠
16/24

春 -7-

第六話のあらすじ

子ども妖怪の可愛い尽力によって空き巣を未然に防いだ千歳たち。穴の空いた縁側を見て残念なような一安心のような複雑な気持ち。

ところが、居間には新たな珍客が待っていたのでした。


千歳家の知られざる秘密がほんのり明かされる第七話。

「芙蓉か、来てたのか。」

 芙蓉―――姑獲鳥と言う妖怪である。元は子を亡くした母親が死後転じたものと言われ夜な夜な子を攫ったりする鳥のような妖怪であるのだが、今我が家で飲んだくれているのは酒に溺れ、男に溺れ、駄目な母親像を地で行くような、黄色い羽が金糸雀のような性格破綻者である。しかも絡み上戸。そこはかとなく疎ましい。

「来てたのか、だって? 何て言い草、まるで私が歓迎されていないみたいじゃないか。」

「お前を歓迎する用意など全然まったく金輪際しておらん。」

「はん、さてはお姉さんが来て照れているんだな?」

「人外にときめくことは無いしよしんばときめいたとしてもお前みたいな年増願い下げだ。あと絡むな。飲んでもいいから僕に絡んでくるな。」

 腕に生えた黄色い羽、決して整っていなくはない顔立ち、奇抜なセンスに染め上げたカラフルな短髪、そしてカジュアルなヘソだしルックから覗く無様な三段腹。なんだろう、すごく残念だ。せめて路線を変更すれば、大人な女性を演出できそうなものを。

「なんだお前、残念そうな人を見るような目で見て。」

「少し惜しい。残念そうな妖怪を憐れんでいる。」

「……童貞が。」

 本当に早く帰ってほしい。

「ったく、犬神はいい鼻してるよ。」

「何っ! 来ていたのかあいつ。ああ聞くだけで虫唾が走る。」

芙蓉がぺっ、と唾を吐き捨てる。人の家で。礼儀知らずも甚だしい。

「本当に嫌いなんだな。」

「ついでに言うと、芙蓉は白露も苦手じゃ。」

ミコが卓に座りながら言った。

「どうして」

「あの子を見ていると、こう、本能が怯えるのよ。」

「ほれ、捕食者と被捕食者じゃし。」

 猫と金糸雀か。確かに。

「千歳は一生食されない草食系だよな。」

「ネコのようなイヌ科のミコがいるというのに、どうして芙蓉はいなくなってくれないんだろう。」

「ネコでも犬でもないからじゃろ。誇りある、この尻尾が、狐の証じゃ。」

これ見よがしに尻尾を振る。ふさふさでこんがりとした狐色の尾っぽが鼻先をかすめて少しくすぐったい。

僕は正月に使った毛筆を連想した。

「狐ちゃんごときには遅れは取らないよう。」

 けけけ、と芙蓉が笑う。

「それで、本当に何があったんだい? 私はその間一人で寂しくお酒を飲んでいたわけだけど。一人酒っていうのも悪くなかったけどさあ。」

「うちに泥棒が入ったらしくてな。こいつらが追っ払ってくれた。」

「活躍したんだっ。」

「追いかけました。」

「そして盗人は縁側の脆いところを踏み抜いての。で、滑稽だからみんなで見に行こうという話になったのじゃが、逃げられておった。」

「皆っていった? ねえ、私は? ねえねえ私は? 誘われていないんだけど。」

「お前を呼びに行く時間が惜しいほど、急を要していたからな。別にお前がいなくても僕たちにとっては何も惜しくない。盗人と芙蓉、どちらに天秤が傾いたかは言わなくても分かるだろう?」

 その瞬間には他意もなく、ただ単に呼ぶのを忘れていただけなのだが、こう対面して無闇やたらと絡まれていると意味もなく反撃がしたくなる。

「私がいないパーティーなど勇者のいない魔王討伐体のようなものだぞ? 王様や魔王に見向きも相手もされない。主人公にすらなれやしないんだ。」

「僕たちが目指すのは小市民だから。どこかの村でお前に『魔王の城は西だよ』とか教えるだけで教えて、慎ましく生きていきたいと思っている。そして返り討ちに遭うがいい。」

「私がいなければ世界は救われないんだ。」

 杯を片手に立ち上がる。起き上がる途中で膝が炬燵に当たり、机の上に空き瓶がいくつか倒れた。本人も足を痛そうに抱えている。

「阿呆じゃ。」

「酔っぱらいはもう帰れよ。」

「酷い。みんなして私をいじめるんだ。悲しい。芙蓉おねえちゃん悲しい。」

 手で顔を覆いながらも、薄眼を開けてちらちらとこちらを向いているのが分かる。そのあざとい視線にも気づかない幼気な子供妖怪達が、餌食となった。

「芙蓉姉ちゃん可哀想。大丈夫?」

「大丈夫? 冷やしてあげますね」

「ああ! この優しさが胸に染みる! ありがとう!」

 そう言って芙蓉は子供妖怪を抱きしめた。羽毛でふわふわの両腕にくるまれて、子供妖怪はくすぐったそうに笑い声をあげている。

「なあ、ミコ? 芙蓉って子供受けはいいよな。性格あんなんなのに。」

「まあ、元は母親が化けた妖怪じゃしの。子供好きだし、子供からも好かれるのじゃろ。」そして、嘆かわしいと言わんばかりに続けた。「あんな性格じゃのに。」

「煩いわよ! さあ、子供たち。こっちに来てご飯食べようねえ。」

 流れるような所作で自然と子供妖怪たちを膝に乗せてご飯を食べさせてやっていた。子供妖怪も子供妖怪で、芙蓉に甘え口を大きく開けてご飯を待っている。ひな鳥みたいだった。鳥の親子が、僕の夕食になるはずだった焼き魚を遠慮なく食している。

「でもなんで泥棒に気付かなかったの? ミコはここに結界を貼っているでしょう?」

「初耳なんだが。」

「初言じゃが、気付いていると思っとった。言っておくが、それほど大層なものではないぞ? 何かを弾くとかそういう効果は持っておらぬ。誰かが結界に足を踏み入れたのう、とかそんな感じじゃ。」

「微妙な結界だな。」

 使用者と同じく。

「悪かったの。」

 心を読まれた。

「微妙よねえ。」

 芙蓉は口に出した。

「でもそれなら、盗人の存在に気がつけたじゃないか。」

「うちはてっきり主がまた阿呆なやり方で帰ってきたのかと。」

「僕はその時もう玄関にいただろう?」

「それも気付いておったが、うちはフェイクかと。」

「フェイク?」

 そんな器用な真似はできない。何より、どうやって結界を誤魔化せばいいというのだ。

「主はとっくに結界のことに気付いていると思ったのじゃ。じゃから、玄関に普通の客人を置いて、自分は結界を欺きながら庭から侵入してきたと。まあ、うちの結界はごまかせなかったようじゃが。」

「結界を誤魔化せるのか?」

「できるよー。なんかこう、息を潜める感じ? 妖力が無いとできないけどね。」

芙蓉が言った。気配を消すと言うことだろうか。

「主じゃないということは、つまり……盗人が?」

「妖力持ちの盗人ということか。」

 ますます、捕まえておかなかったことが悔やまれる。もし妖力を持ち合わせているのなら、僕の人生相談に付き合ってもらえたかもしれない。妖怪塗れの生活の辛さは、同じ境遇の人間にしか分からない。

 それほどいいものじゃないのだ。

 お伽話と現実は違う。

「まあ、それほどの妖力ではなかったがの。」

「そもそも僕は妖力持っていないからな。ただ土地柄後天的に見えるようになっただけだから。」

「兄ちゃん、ちょっと!」

「千歳兄さん、花見は?」

 芙蓉の呪縛から逃げてきた子供妖怪たちが服の裾を引っ張ってきた。

「ああ、そうだ。ユキたちから聞いたよ? 千歳、あんた花見をやるんだって? 粋なことするじゃない。」

 自分の手を離れた子供たちを名残惜しそうに眺めながら、芙蓉が言う。

「花見はやるつもりだが、お前を呼ぶつもりは毛頭ない。」

「やだなぁ、ユキがみんなで行きますから準備しといて、って言って回ってたよ?」

「ついさっきお前、みんなの枠からはぶられたろうに。」

「過去はやり直すためにあるのさ。ねー。」

 ねー、と子供妖怪が返す。

「それは僕に行っているのか。……みんな、ねえ。」

 ユキのことだから、妖界中に触れ回るようなことはしないだろうか、少なくとも一度でも家に顔を出している面子は揃えてくるのだろう。遅かれ早かれそうなることは分かっていたが、まさかフライングで訪問してくる奴がいるとは思ってもみなかった。

「で、いつやるの。」

「そうじゃった。主? 結局桜はどうするのじゃ?」

「可能な限り早くやりたい。」

「でも桜咲かぬじゃろう。」

「えっ、桜咲いてないのに花見するつもりだったの? 夢見がちな青臭い青年は頭の中お花畑ですねえ。まさかその花畑を具現化するつもりなのかしら?」

「教育に悪いとは思わないのか。」

「暴言にも負けない強い子供たちに育ってほしいと思っているわ。」

 反面教師だな、とは口には出さなかった。

 そうじゃな、とはす向かいに座るミコが神妙に頷く。

 勝手に読むな、と強く念じておいた。

「桜についてだけど。帰ってくるとき犬神に教えてもらったのだがあの桜には元の主がいるそうだな。」

「おや、知っておったのか。」

「やっぱり気づいていたのか。」

「さもありなん。」

 ミコが誇らしげに鼻を鳴らす。

「うちじゃもの。」

「あの場でさっさと教えてくれればよかったのに。」

「ちょっと待ち。もしかして二人が言っている桜って、あの糞爺の妖怪桜のこと?」

「ん、知っていたのか。」

「噂だけはねえ。というか、あんたあそこで花見やるつもりだったんだ。浅はかなり。さすが―――」

「それ以上は言わせん。いいだろう、別に。咲けば問題ない。」

「咲けば、ね。あそこはもう数年も咲かないっていうのに。あの爺が憑いてから、ずっと。」

「それはあの桜が、糞爺の仮宿に過ぎないからだ。仮の主人ではなく、本来の、桜から変化した妖怪を探し出して力を貸してもらえれば、それはもう満開の桜が僕の手の中にだな。」

「そう簡単に行くじゃろうか。」

「何とかなるさ。」

「何とかなったらまた呼んでくださいな。したら、子供たちと行くから。」

「花見! 花見!」

「お花見、お花見」

「お前だけには三日後の日付とかを通達しておこう。」

「うっわ最低。差別野郎はモテないんだよ。そんなんだからいつまでたっても独り身なのよ。」

「余計なお世話だ。」


芙蓉はサンバの格好をイメージ

でてくると会話が弾むキャラです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ