三大欲求?いえいえ、知識欲だけで十分ですよ
昔からずっと感じていた。
私という存在は、決して他人とは相容れないと。
周りからの私への評価は小さい頃から変わらない。
通知表には「個性的な子」だと書かれていた。
近所の人からは「変わり者」だと噂されていた。
家族からは「化け物」だと罵られていた。
普通の人が聞けば同情するようなことかもしれないが、私にとって周りの評価なんてどうでもいいことだった。
私にとって重要なことは知識を得ることだけ。
哲学、宗教、歴史、政治、経済、数学、化学、医学、農学、工学、軍学、芸術・・・・・
この世に存在する全て-森羅万象-を知りたい。
それが私の持つ唯一にして絶対の欲望。
知識を得るためならなんだってするし、逆に邪魔なモノがあるなら全力で排除する。
私の考え方を聞いた人の反応は、大体三つのパターンに分けられる。
悲壮な表情を浮かべながら友情や愛情、人の尊さを必死に説いてくるパターン。
顔を真っ赤にして、如何に私の考えが間違っているのかを怒鳴りつけてくるパターン。
逆に顔を真っ青にして、二度と近寄らなくなるパターン。
どんな反応を返されても、大して興味はわかない。
しいて言えば、どんなパターンでも最終的に私が「イカれている」という結論に辿り着くことが、少しだけ面白いと感じる。
故に、入学当初は色々とあったが、高校生になって半年が経つ現在、私に係わろうとする人は家族を含めて誰もいない。
「突然の召喚を申し訳なく思う、異世界の勇者たちよ」
突然だが、どうやら異世界召喚という現代文学では定番のシナリオに巻き込まれたらしい。
少し時間を遡って整理してみよう。
一日の授業が終わり、私はいつも通り図書館に籠っていた。
なにせ国内の高校の中で図書館が一番大きいという理由だけで、世間から難関校と言われている高校に入学したのだ。少しでも時間があるなら図書館に通うのは当たり前だ。
幸い一人暮らしのため、帰る時間がいくら遅くなっても問題はない。
その日も時間ギリギリまで本を読んでいるつもりだった。
元凶は閉館三十分前になって図書館に現れた。
男子生徒が一人に女子生徒が二人という組み合わせで図書館に入ってきたのは、上履きの色からして同学年の生徒らしい。
そこまで確認した私は再び本に目を落とした。
人間という種に興味を抱くことはあっても、個人という個に興味を抱くことはないからだ。
このとき、すぐに図書館を出ていれば、異世界召喚なんていうファンタジーな出来事に巻き込まれることはなかったかもしれない。しかし、予知能力といった第六感を持ち合わせていなかった私は、近くを通りかかった男子生徒の足元に浮かび上がった、光り輝く魔法陣の範囲に入ってしまったというわけだ。
「事実は小説より奇なり」とは、よく言ったものだと感心する。
まあ、元凶とは言ったが、異世界に召喚されたこと自体は感謝すらしている。
平行世界-パラレルワールド-の存在が明らかになり、元の世界では決して得られない知識が満ちているのだ。感謝こそすれど恨む理由にはならない。
時間は戻って現在、私は王宮の敷地内に建てられた図書館にいる。
召喚される前でも後でも、やっていることは変わらないことに我ながら苦笑する。
といっても、今の状況で私にできることは少ない。
なにしろ、私の魔力は一般人に毛が生えた程度のものらしい。
一緒に召喚された男子生徒は、魔力測定の結果勇者であることが判明。
付き添っていた女子生徒二人も、勇者ほどではないが高い魔力を持っていたため従者という立ち位置に収まった。
現在この三人は、魔王を倒すためにこの国の軍隊と共に魔大陸へと進軍している。
いや、さっき入った最新情報では無事に魔王を討伐したらしい。
まだこの情報は王宮には伝わっていないが、王様の耳に入るのも時間の問題だろう。
「おお、よくやった勇者よ!!姫と結婚して新しい王となってくれ!!」
「おお、よくやった勇者よ!!約束通り元の世界に送還しよう!!」
なんてことになればいいのだが、この国の王様も普通の人間と同じく欲深いようで。
今まで魔王を倒すために協力していた同盟国を、勇者の力を使って征服するつもりらしい。
ちなみに、同盟国にはエルフやドワーフ、妖精といった人間以外の種族の国もある。
いつか訪れる予定だ。人間とはどんな違いがあるのかを色々と試してみたい。
閑話休題
さて、そこで怪しくなってくるのが私の立場だ。
無償で魔王を倒しにいく優しい勇者様に「今まで協力していた国を襲ってくれ」といったところで聞いてくれるはずがない。
そこで王様は人質をとって勇者様を支配するつもりらしい。しかし、この世界に勇者の家族はおらず、勇者の仲間では人質にするには強すぎる。
そこで白羽の矢が立ったのが私である。
召喚に巻き込んだことで勇者が罪悪感を覚えている相手であり、戦闘力も大して持たない人間。人質には最適な人材だろう。
当然みすみす人質になるつもりはない。
この国で得られる知識は一通り得たので、そろそろ別の国へ行くつもりだ。
そろそろ動こうかと、本を片付けていると衛兵を連れた王様がやってきた。
「おお!!やはり図書館におりましたか!実はお話したいことがあるのですが・・・・」
優しく笑うその目には、隠し切れないドロドロとした濁りがある。
ちょうどいいタイミングで王様が現れたので、予定よりも若干早いが計画を実行に移すことにする。
「王様、実は私もお話したいことがあります」
「そうなのですか!それは良かった。ここではなんですから、落ち着ける場所に移動しましょう」
王様の提案に首を横に振ることで拒否を示す。
「いえ、その必要はありません」
「?それはどういった意味で・・・・・・・」
疑問符を浮かべる王様に構うことなく、私は魔法を発動させる。
微量の魔力を糧に発動した魔法は、私の手の動きに合わせて黒い刃を形成し、王様の首へと吸い込まれる。
図書館に鈍い落下音が響く。
呆然としていた衛兵が動き出したのは、王様の胴体から噴き出した血で真っ赤に染まってからだった。
ちなみに、ちゃんと計算して切ったので私には一滴もかかっていない。
「貴様!!!いったいなにを」
口を動かす暇があるなら体を動かせばいいのに、と思いながら魔法を発動。
体から魔力が抜ける感覚と共に、衛兵の周囲の重力が急増化。
多量の水分を含んだ何かが潰れるような音に、人体を構成する水分量を納得させられる。
図書館に静寂が戻る。
人を殺したことに関する罪悪感や悲壮感は微塵もない。
私の邪魔をしようとしたから排除した。
それだけのことだ。
例え殺さずに逃げたとしても、冤罪による指名手配か追手が向けられただろう。
そうなれば今後の活動の枷となる。つまり、こいつらが私を人質にしようと目論んだ時点で、選択肢は決まっていた。
そして、王様の殺害には成功したわけだが、このままではどちらにせよ犯罪者として狙われる。
だから・・・・
「王宮内にいる人を全員殺せば問題ないよね」
事前に用意しておいた黒塗りのナイフを取り出す。
たしかに私の魔力は決して多くない。だが、効率的に運用すれば上級魔法だって余裕で使える。
人を殺すことに限ればナイフ一本あれば十分だ。
必要なのは知識。
どうすれば少量の魔力で魔法が発動できるのか。
どうすれば人に見つからないように移動できるのか。
どうすれば効率よく人を殺害できるのか。
やはり知識は素晴らしい!!
漏れ出す嗤いを抑えながら、私は図書館を後にした。
その日、魔大陸から帰ってきた勇者様御一行は、人の気配がなくなった血塗れの王宮に、半狂乱になったとかそうでないとか。
私の邪魔になら何であろうとも排除する。
知識を得ることは、私にとって麻薬よりも甘美なものだから。
最後まで読んでくださりありがとうございます!!
誤字脱字などありましたらご指摘いただけると幸いです。
続編や番外編なども思いついているのですが、様子を見て需要がありそうなら投稿したいと思います(笑)