5.そして……【HAPPY END】
これで完全終了です。
お楽しみ下さい。
蒼が頑張って合格した高校を自主中退し、生まれた時からずっと過ごして来た家も引っ越して、完全にその姿を消してから2カ月後。
関東近郊の地方都市の高校の編入試験に、なんとか合格して再び平穏な高校生活を再開して居た蒼の姿がありました。そんな新しい高校や環境にもなんとか慣れて、数人の友人も出来始めて居た、とあるそんな日。
「ねぇねぇ。もしかして、これって蒼ちゃん?」
そのやっと仲良くなった友人の1人から、彼女のスマホの画面を見せられて、それまで浮かべていた笑顔が強張り、一瞬で血の気が引いて真っ青な顔になった蒼でした。
そこには笑顔の蒼とパンチラ写真が並べて掲載されていました。しかもそのサイトには《今どこっサイト。【捜索対象No.4 結城蒼】を探せ!》とあったのです。
更にそのサイトには、一体どーしらべたのか蒼が、今住んでいる県名や都市名が載っているのでした。
“ドサッ”
蒼は、そのスマホ握りしめたまま、その場で膝から崩れ落ちると気を失っていました。
翌日蒼は、学校に行くことができませんでした。昨日の事もあったし、突然生理も始まり本当に頭痛と腹痛が激しく気分も陰鬱で最悪な状態だったのです。ベッドで虚ろな表情を浮かべながら横になっている蒼。でもそんな状態でも、どーしても昨日の事が気になって、手許のスマホに指が伸びます。そして昨日のサイトを探し出しました。そのスマホに映ったサイトの掲示板を、まるで心を奪われたかの様にじーっと見詰め続ける蒼でした。
そのサイトの掲示板には一時間に数件の投稿がありました。その内容は以前アップされた写真の再投稿がほとんどでしたが、なかには蒼の知人しかしらないような情報のアップもありました。
そしてまた一件新しい投稿がありました。
【んっ!!!】
その内容を読んだ蒼の目がいっぱいに見開きます。
《発見! 発見! こいつだろ! 結城蒼って、俺のガッコの転校生じゃん♪》
そこには新しい学校の制服姿の蒼の写メが添付されていたのでした。
“ガギャッ”
力任せにスマホを床に叩きつけると、ガバっとうつ伏せでベッドに顔を埋める蒼。たぶん数日中には、また自宅の住所や学校名が晒されることが蒼にも簡単に予想がつきました。そしてまたアレが……、云われもない中傷や、いかがわしい噂、ガッコでのシカト、盗撮、怪しい人影……、それがまた繰り返される……。
【もう! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ】
蒼の声にならない絶叫が部屋中に木霊していました
“こんこん、こんこん”
その時蒼の部屋のドアが、乾いたノック音を響かせました。
「ねぇ。あおちゃん。入るよ? いい?」
それは、蒼を心配して様子を見にきた奏音の声でした。
「これは……。ちょっと酷いねぇ」
嗚咽を漏らしながらも、なんとかパソコンを操作する蒼の肩越しから、モニタに見入る奏音が、思わず呟きを漏らしました。奏音が肩越しに見つめる蒼の机の上のパソコンのモニタに写った、あのサイトの掲示板には 蒼の新しい家の住所と、蒼の部屋の窓から盗撮したらしい、蒼の着替え中の姿が写っている写真が投稿されていました。
【マジ酷いな。うww祭りになってんじゃん。でもこーなっちゃたら、もうどーしようもないし……。ん???】
その時その掲示板の下に表示されたアクセス数に気が付くと、奏音の心の中にに別の感情がふつふつと湧きだしてきました。
【んん? なにこれ。116万アクセス? うおっ、すっげぇなぁこれ。ちょ~人気サイトじゃん。ってか、もしかしてこれ全部あおちゃん目当てなんか?】
そしてほんの数秒後に、奏音の口角がゆっくりと釣り上がりました。奏音は、目の前で微かに震える蒼の両肩をぐわっと鷲掴みにすると、そのぷっくりとした唇を蒼の可愛い耳たぶに触れそうな程近づけ、小さい声で何事かを蒼に囁きかけました。
「ねぇ、あおちゃん。ちょっと相談なんだけどさぁ…………」
その奏音の囁きを聞いていた蒼は、生まれて始めてなくらいに大きく瞳を見開いて、ぐっと首を回して奏音と向きあいます。
【な、なに? なにを云ってるの?】
正面から蒼と奏音の視線がぶつかりました。
「ねっ! どうせこーなったら、もう同じじゃん?」
そこには、嬉しそうにウィンクする堕天使のような表情を魅せる、奏音の顔がありました。そしてその奏音を悪魔を見るかの様な表情で凝視する蒼。でも確かにその時、静かに何かが転界し始めたのでした。
「蒼? どーしたの朝だよ?」
朝起きてこない蒼を心配した母親が、ドアの外から蒼に声を掛けますが、部屋の中から返事はありません。
「入るよ。いいね」そっとドアを開けた母親……。
“スースースースー”
そこには連日の営業活動で疲れ果てて、完全に熟睡している蒼がいました。
「蒼! 事務所の人と奏音ちゃんが来てるのよ。サッサと起きなさい!」
「ムニャ~~」
母親は熟睡する蒼の肩を、ゆっくりと揺さぶって夢の世界から蒼を現実の世界へと呼び戻しました。
その日の夕方、母親がそこで目にしたものは、武道館に詰め掛けた数万人のファンの声援を受け、光煌めくスポットライトを全身に浴び両腕をぶんぶんと振りながら飛び跳ねるようにステージ中を駆けまわって全身で喜びを爆発させている、蒼の姿でした。そう、それはまさにトップアイドル姿そのものでした。
そしてその蒼が、駆け巡るステージの背後に掲げられていた巨大な蒼の写真。それはまさに天真爛漫な笑顔を浮かべる制服姿の蒼の写真でした。そうです、その写真こそは、あの大がネットに晒した写真の中の一枚だったのです。
そこに居たのは、あの掲示板を逆手にとって、エロネット有名人→ネットアイドル→リアルアイドルへと駆け上った蒼の姿だったのです。
「やったね! あおちゃん」
「うん。かなかなちゃん。ありがとう~」
「目指せ! レコ大! そして紅白! トドメは芸能人隠し芸大会! だね」
「かなかなちゃん、それは……」
蒼と同じステージ上には、ちゃっかりと蒼と一緒にアイドルに成り上がった奏音の姿がありました。そしてなんとも昭和レトロ的な奏音でした……。
そして蒼の武道館デビューの翌日、あのサイトには、当然のように蒼のはち切れんばかりの笑顔の写真が、何枚も投稿されていました。
【あ~~~~、蒼ちゃん。マジ可愛いなぁ~~~。元々俺の投稿が始まりなんだから 連絡くらいくれてもいいのになぁ~】
蒼ファンクラブの会員カードを片手に、ぼう~っとモニタ上で笑顔をふりまく蒼の動画を眺める大。机の上にある大のスマホには、当然誰からもなんの連絡は入ってきません。
あいかわらず彼女はおろか友達もできない大は、再びチャカチャカとまた別の女子高生あてのメールを、ニヤニヤ笑いを浮かべながら熱心に書き始めるのでした。
おしまい
如何でしたか?
出来れば、感想等を待っています。それでは……。




