食に勝る活力はなし!
今回から主人公視点での物語になっていきます。
「ご注文はお決まりかな?お兄さん」
愛らしい笑顔で尋ねる少女にただ一言「・・・・・何でもいい。」と愛想の欠片もなく呟くが、少女はそれを気にした様子もなく笑顔を浮かべ、初老の男性の方を向き叫んだ。
「おじぃちゃん!お任せコース1人前はいったよぉ~!!」
そして何故か自分の隣のイスに座りニコニコしながら自分を見ていた。
最初は気にしない様にしていたが、ずっと見られれば流石に苦痛になってくる。
目だけを少女に向け尋ねる。
「何か俺に用か?」
ぶっきら棒にも程があると自覚はあるが、今はそんな余裕がないのも事実なのだ。
そんな自分に対して少女は気にすることもなく目をキラキラさせて食いついてきた。
「お兄さんは冒険者なんだよね!?ねぇねぇどんなクエストやってきたの??」
「・・・・・・何故自分が冒険者だと?」
そう尋ねると少女は不思議そうな顔をした。
「何故って、冒険者じゃなきゃそんな格好しないでしょ?変なお兄さん」
そう言われて初めて自分の格好に気がつた。
異世界入りという事実だけでいっぱいいっぱいだったせいか、自分がどんな格好をしているのか全く見ていなかった。
軽装備とは言え鎧を着込み、腰に短剣を装備していれば誰がどう見ても冒険者かならず者にしか見えないだろう。
「あぁ、確かに変だな。お嬢ちゃんの言うとおり・・・・・だな。」
自嘲気味に笑いながら頭を撫でてやると、少女は少し頬を赤く染め目を細めるが、すぐに頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。何か失礼なことをしただろうか?
「気にするな若いの。そいつは子供扱いされた事が不満なだけじゃよ。」
その声に視線を前に向けると料理をもった初老の男性が立っており、目の前にスープやサラダ、何かの肉を焼いたステーキ等が置かれていった。
「そいつはドワーフ族だからのぅ。見た目と中身が伴わないんじゃよ。まぁ、簡単に言えば見た目は幼女中身は熟女ってとこかの?」
そう言い残し笑いながらまた厨房の中に戻っていったのだが・・・・・・隣で涙を蓄えながら厨房の奥を睨む少女を俺にどうしろというのだろうか?
とりあえずこのカオスな状況を無視し、目の前に置かれた食事に手を伸ばした。
野菜がゴロゴロと入っており、濃厚な味のシチュー。一口啜れば弱った身体に染み込むように温かみを与える。新鮮な野菜だけで特にドレッシングのないサラダは素材そのままの味が楽しめ、口の中をさっぱりさせる。
最後に食べたステーキは噛めば噛む程旨みが増し、力が湧きあがってくるかのようだ。
そうして黙々と食事をしていると、目から何か熱いものが溢れてきた。
食事がうまくて泣いたわけではない。確かにうまいがそこまでではない。
では、何故か?自分でも確信があるわけではないが、恐らく生きている事を噛み締めることで涙が溢れてきたのではないだろうか。
そんな自分の様子を温かく見守る二人の目が嬉しくもあり、気恥しくもあった。
「ごちそうになった。」
人に触れ、腹が満たされた事でようやく余裕ができたのか初めてこの世界で笑う事が出来た。
それを見た男性も嬉しそうに頷き、少女は笑顔を浮かべていた。
そしてお代を払おうと思った時にふっと気がついた。
何にも考えずフラフラと食事にきたが、果たして自分はお金を持ち合わせているのだろうか?
ホームに転がってる武器を売っぱらえば金なんかすぐ出来るが、初対面の自分が金を取りに帰るといった所で信じてもらえる訳がない。
そんな自分の焦りを知ってか知らずか、満面な笑みを浮かべた少女により渡される伝票という名の死刑宣告。
覚悟を決めよう。そう思い口を開きかけた時に激しい破壊音と共に数人の男達が入ってきた。
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