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第43話 双子

 

 串刺しになり、倒れているクァルゴから少し離れた場所で、二つの小さな人影が舞っていた。

 周囲は、何も無い荒野なのに、その二人の周りだけお花畑が見えるような楽しそうな舞である。

 二人は歌うようによく通る声を発している。

 

 「死んだかなァ」

 「死んだかなァ」

 

 僅かな声質の違いこそあるが、ほとんど同じ人間の声にしか聞こえない、それほど近い声をしている。

 声そのものは、可愛らしい口調であるが、内容自体はそれに合わず恐ろしい事を口にしている。

 二人は、声と同じで姿形も可愛らしい、年齢は10歳を超えたかどうか位にしか見えない、だが街中で見れば取り立てて不自然ではないが、このような場所では逆にその可愛さも不気味である。 

 二人とも良く似ていた。

 恐らく双子なのだろう、だが、幼い容姿なので性別が分かりにくい。

 だが、この可愛らしい二人が、クァルゴに対してこのような攻撃を仕掛けたと言う事は疑いようが無かった。

 

 「不思議だね、血が出てないよ」

 「そうだね」

 「どうしようか」

 「もう一度やる?」

 「起きるのを待とうよ」

 「待とうか」

 「うん」

 「うん」


 眼を閉じてこの声を聞いていると、同じ人間が独り言を言っているようにすら聞こえる、その声が聞こえたのかどうか、クァルゴはその体をゆっくりと起こした。

 まだ鉄の槍のようなものが全身のあらゆる所に突き刺さったままだが、それをまるで気にしていないようである。

 「酷いですねェ、いきなりなんて」

 恨み事を言っているが、もちろん本気ではない、こういう戦いで卑怯な事など1つも無い、それは単純にやられたほうが悪いのだから。

 

 「生きてたね」

 「生きてたね」


 二人は、楽しそうな口調でそう言った。

 「自己紹介は……、いりませんかねェ」

 クァルゴにしてみれば少しでも相手の情報を知りたいところだ。

 どういう闘いにおいても、相手の数が多い場合は不利、しかも相手の実力が未知数で有るならば多少は時間を稼ぎたい。


 「ボクはティンク」

 「ボクはキャオ」

 素直に二人はそう答えた。

 だが、どちらがティンクでどちらがキャオなのか、それが分からない、教えられても入れ替われたら判別のしようが無い。

 

 「おじさん、何で生きているの?」

 「死なないの? 痛くないの?」

 二人は不思議そうな口調でそう尋ねた。

 口調そのものは「どうしてお月様は丸いの?」と聞いているような、悪意無い問いに聞こえるが内容自体はまるで別物である。


 「おじさんですか……、僕はクァルゴと言います、以後ヨロシク」

 若干、おじさんと呼ばれた事に傷ついたようにクァルゴは答えた。

 

 「うぅん、もう終わりだよ」

 「また、ボクがやって良い?」

 「駄目だよ、キャオはさっきやったろう」

 「でも、死んでないから」

 「え〜ズルいよ」

 「ズルくないったら」


 その口喧嘩をクァルゴは見詰めている。

 その言葉を信じるなら、さきほどクァルゴが喰らった攻撃――この鉄の槍はキャオという子供の能力らしい。

 まるで避けられなかった、相手の姿を確認する前に視界を覆い尽くすほどの鉄槍が襲い掛かってきたのだ、もしも幻闘獣の能力を使っていなかったら、それで終わってただろう。

 同じ攻撃ならば耐えられるが、どういう攻撃が来るか分からない、次の攻撃が防げる保証など無い。

 ならば、先手必勝である。

 クァルゴは、全身に力を込めた、クァルゴの全身を貫いている総勢10本以上の鉄槍が、一気にティンクとキャオの双子に向かい、飛んで来た時以上の速度で放たれていた。


 二人はすぐにそれに反応した。

 「じゃ、キャオ、やって良いよ」

 「よーし」

 キャオはそう言いながら、体の5倍の質量と重量はありそうな大きさの大金槌をどこからか出現させた。

 

 (召喚魔法――、魔力で武器を呼び寄せる事が出来るのか!)

 クァルゴは驚嘆していた、召喚魔法は、魔法使いの中でもかなり高位魔法に当たるからだ、転送魔法と同程度に位置している難易度の高さが有る。

 外見通りの年齢ならば、この二人の少なくともキャオと呼ばれている子供の魔法のセンスというのは計り知れない物が有る。

 

 「じゃー行くよ!」

 クァルゴのそういう驚きを知ってか知らずか、無邪気とも思える声をキャオは発した。


 『大地乃鍛冶屋グラウンド・スミス


 キャオは、その大金槌を地面に向けて思いっきり叩きつけた。

 その姿は、大金槌を使っているというよりも、大金槌に振り回されているように見えた、地面に叩きつけた時には自らの体は両足とも地面を離れていたくらいだ。

 クァルゴはてっきり、その大金槌で鉄槍を弾き飛ばすのかと思っていたが、違うようだ。 

 叩きつけた瞬間、眩い光が辺りを照らしていた、明らかに魔法関連の閃光である、攻撃ではなく魔法を使う際の余波とでも呼ぶべき物だ。 


 その時だった。


 大地が、もこもこと膨れ上がり、一瞬で二人の前に巨大な壁が出現していた。

 いや、目の前に急に現れたから”壁”と見えたが、実際はそれは巨大な”盾”であった、それを扱える人間はいまい、身長が10mもある人間ならば使いこなせるかもしれないが、それはもう人間ではない。

 土で出来た盾、というよりも、土の中に隠れていた巨人の盾を掘り起こしたように見えた。

 鉄槍は、見事にその盾に弾かれていた、かなりの勢いで放たれた槍であったが、とてもその盾を貫くだけの威力は無い。

 クァルゴは動いた。

 止まっている訳にはいかない、こちらの攻撃が見事に防がれたと言う事は、次は相手の攻撃が襲ってくると言う事だからだ。

 クァルゴの考えは、的確ではなかった。

 既に相手の攻撃は始まっていたのだ。

 二人の前にそびえ立っていた盾が、クァルゴに向けて倒れてきたのだった。

 本来ならば絶望的な光景である。

 必死の形相で目の前の視界を覆い尽くすほどの物から逃げなければならないはずだ。

 だがクァルゴは、自分に向かってくる巨大で圧倒的な質量を前にしていながら、どこかまだ飄々(ひょうひょう)とした顔付きのままそれを見ていた。


 大地を揺るがす轟音を耳を塞ぎながら、二人は眺めていた。

 巨大な盾が完全に倒れた瞬間、小柄な二人はそのあまりの衝撃で地面から飛び上がっていた。

 盾は、地面に倒れると同時に、大地に帰るようにその姿を土に溶け込むように消えていた、消えたと言っても地面に完全に倒れてからの事だ、そこに人がいれば骨も肉も何もかもが挽肉ミンチ状になってしまうだろう。

 

 「潰れたかなァ」

 「潰れたかなァ」


 また二人はほとんど同じ声で、重なるように言った。


 「まだ生きていたら次はボクだよ」 

 「生きていたらね」

 「生きているよ、多分。あのおじさん、あれだけ体に槍が刺さってても死ななかったもん」

 「でもさ、ペシャンコじゃあ、死んじゃうんじゃない」

 「うーん」


 その時、二人のすぐ傍から声が響いた。

 「良かったですねェ」 

 

 一体いつからそこにいたのか。

 距離にしたら10mも離れていない場所である。

 クァルゴがその気になれば、今の一瞬で勝負がついていたかもしれない、もちろんそれを防ぐ能力を持っている可能性も有るだろうが、今は間違いなく隙が有った、クァルゴにしてみればわざと攻撃をしなかったという所か。

 今の良かったですねェというのは、攻撃を仕掛けられなくて良かったという意味なのか、それとも生きていて今度はティンクの番が周ってきて良かったという意味で言ったのか分からない。

 

 「あれ? 生きてたの?」

 「凄いね」

 「じゃあ、今度はティンクの番かァ」

 「うん」

 「それで駄目なら二人でやろうよ」

 「そうしようか」

 「ガイツさんに怒られちゃうよ、あんまり時間をかけると」

 「そうだね」


 「じゃあ、おじさん、今度はボクがやるよォ」

 まるで、遊びの番が代わったように、気軽な口調である。

 一瞬、これが命のやり取りをしているのかどうか分からなくなる、子供とただ遊んでいるだけのような奇妙な錯覚をしてしまいそうだった。

 だが、さっきから全ての攻撃は、それが常人ならば、1つの師団程度を壊滅に追いやるほどの威力を持った攻撃である事は間違い無い。

 それでも、クァルゴは相手の全ての攻撃を受けてやるつもりでいた。

 勝つだけなら、殺すだけなら出来る、クァルゴの幻闘獣の能力はそういう物なのだ。

 だが、それをするとかなり陰惨な結果になる、別に人の命を奪うのに躊躇いは無いし、相手が子供だろうとあまり関係が無い、しかし、これほどの能力を持っている相手と戦える機会は少ない、相手の技により自分の能力を高める為には、こういう闘いが必要なのだと思う。

 普段はやる気がまるで無いように見える癖に、こういう場面ではやはり師であるダルマの教育の成果が出ているといえるのか、どうにも血が騒ぐようであった。


 クァルゴが二人に視線を送ると、そこには二人だけではなかった。

 もう一人の人影が追加されていた。

 小柄な二人の倍の身長は有りそうな、無表情でいて超然とした顔立ちをしているモノ。

 人ではない。

 それは人形のように見えた。 

 また召喚魔法により何かを呼んだのだろう、クァルゴはもう驚かない、相手はそういう事が出来るレベルの敵なのだと既に認識済みだ。

 それにしても、どこかの神殿に飾られているような女性の人形である。

 神殿に祭られている女神像――、そういう印象を受ける。 

 (泥遊びの次は、人形遊びという訳ですかねェ)

 クァルゴは、その人形を見てそういう感想を持った。


 「よーし、行けー!」 


 『傀儡女神人形マリオネット・アルテミス

 

 その声と同時に、その人形が弾丸のような速度でクァルゴに向かって飛んで来た。

 地面を走ってではない、文字通り頭から飛び掛ってきたのだ。

 そしてクァルゴの前まで来ると、人間ならば体のどこかの筋か、関節を痛めるような無理な姿勢から、クァルゴに向けて蹴りを放っていた。

 「くっ!」

 クァルゴはその蹴りを左手で受けた。

 重い蹴りだった。

 クァルゴにとっては体を持っていかれるほどではないが、常人ならば防御ごと吹っ飛ばされてもおかしくない威力が込められている。

 人形は、次に左の拳を放ちながら、ほぼ同時に右拳の裏拳をクァルゴに向けて放っていた。

 ありえない動きである、人体の構造上、普通ならば肩をおかしくする攻撃だった、しかもその威力は子供も倒せない物だろう、だが人形の攻撃は鋭かった。

 変則的過ぎる攻撃だった。

 人の攻撃は、変則的だとその分威力が減る、それでも相手に通用するのは相手がその攻撃に意表を突かれるからだ、意表を突けば普通の半分程度の威力でも充分に相手にダメージを与えられるのだ。

 だが、この人形は違う、変則的なのが当たり前のように攻撃を仕掛けてくる。

 左足で蹴りを放ちながら、両拳が飛んでくるのだ、安定感バランスを崩す心配はまるで無いようだ。

 そして関節などは無いようだ。

 しかも、人形自体が思考しているようには見えない、時折見えない糸に強引に引っ張られるような、物理の法則に反するような動きをする時が有る、やはりティンクという子供が操作しているのだろう。

  

 攻撃は早く、重く、変則的で、そして人形なので疲れも痛みも無い。

 だが、クァルゴにとっては、その動きは充分に見切れる物であった。

 人形が左の前蹴りをクァルゴの腹に目掛け放った瞬間、決着は付いていた。


 ガシィ!


 という音と共に、人形の足がそこで固定されていた、人形は必死にその足を引き抜こうとするのだが、クァルゴは一切手を触れていないのに、人形の左足はクァルゴの腹に突き刺さったまま動かない。

 普通ならばそこで終わる。

 だが、人形は今度は動かないその足を軸にして、体を浮かせ右足でクァルゴの頭部を蹴っていた。

 また、先ほどと同様のガツッという音と共に、今度は人形の右足がクァルゴの左側頭部に止められていた。


 それは奇怪な光景であった。

 人形の右足を捉えたのは口である。

 クァルゴの右の目尻辺りから、首筋辺りまでにナイフで裂いたように口が出現し、人形の右足をそこで銜えているのだ。

 腹は服で隠れて見えないが、そこにも口が出来ていて、人形の左足を足首から銜えているのだろう。

 人によっては吐き気を催すような光景である。


 「遊びはお終いにしましょうかねェ」

 クァルゴが普通の位置についている口でそう言うと同時に、腹とそして左頬の辺りから激しい音がした、銜えている人形の一部を噛み砕く音だった。

 人形は、両足を砕かれた状態で、一気に引っ張られるように二人の元に戻った、元々地面を駆けていないので、足は必要ないようだ。

 

 「凄いなァ」

 「凄いなァ」

 子供ならばその異様なクァルゴの姿に、心神喪失状態に陥ってもおかしくない、だがこの二人にはそういう神経が無いのか、壊れてしまっているのか、まだ余裕のような物が伺える。

 「じゃあ、次は二人同時に行こうか」

 「そうしようか」

 相変わらず緊張感の無い声を発していた、またクァルゴはその隙を突いて一気に二人を攻撃できるように思えるのだが、相変わらずそれをせずに相手の攻撃を待っているようにすら見える。

 

 キャオが大金槌を地面に叩きつけると、強烈な光と共に地面から土が盛り上がり、足の壊れた人形に絡み付くようにそれは全身を包み込んだ。

 そして、その土がボロボロと崩れ落ちると、そこにはさっきまでの女神像を思わせる人形はいなかった。

 左右対称に三本の腕を持ち、三面の人形がそこにいた。

 合計六本の腕にはそれぞれに武器を持っていた。


 『武装傀儡阿修羅マリオネット・アスラ


 二人はこの人形をこう呼んだ。



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