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第45話 仲直り

翌朝の俺は誰よりも早く学校に来ていた。と思っていたのだが、どうやら俺だけじゃないらしい。そこには、凜と背筋を伸ばして自分の席に座る桜の姿があった。


(まぁ、少し予感はあったんだけどね)


なんて、教室の外から中を覗き込む。緊張しているのだろうか、目を瞑りながら、右手で作った拳をそっと左手で包んでいた。俺は扉をスライドさせて教室に入る。その音にぴくっと肩を震わせて反応した桜と目が合った。


どこか、安心したように肩の力を抜く彼女に、ふっと笑みが零れつつ、


「おはよう、桜」


と声を掛ける。


「連、おはよう」


そう明るい声で挨拶を返してくれるだけなのに、心が温かくなる。


「いつもこんなに朝早く来ているの?」

「そんなことないけど、後から入ってきたらその空気間に耐えられないと思って」

「確かに。皆の視線がある中だと気まずいよな」

「うん」


最初の態度がきつかったせいか、しおらしい態度に可愛いと感じてしまう。軟化した今の彼女ならきっとクラスメイトに受け入れられるだろうな。でも、男子がちょっかいを掛けてまた悪化するのも嫌だし、そこは千夏たちと相談だな。


なんて考えていると、


「桜!!」


そういってクラスに勢いよく入ってくる千夏の姿が確認される。噂をすればなんとやらだな。


「やけに早いな」

「それは連もでしょ」

「確かに、そうだな」


思わず苦笑してしまうのはきっと彼女も俺と同じようなことを考えているからだと思った。二人は見つめあって何を話せばいいのかと緊張しているようだった。でも、先に口を開いたのは桜だった。


「あのね、千夏」

「うん」


その先の言葉を待っている。桜の顔を見つめて、固唾をのむ。


「ごめん、無視をして。沢山好意を伝えてくれたのに。ごめん」


深く深く頭を下げて謝罪をする。90度に曲がった背中が若干震えているような気がした。でも、何を言われても受け止めるという意思を感じる。


「ほんとだよ。私はもう親友くらいの感覚でいたのにとてもショックだったし、そんなにすぐ捨てられる関係だったのかと傷ついた」


その声は真剣そのもので、俺は口をはさむことも出来ない。何度も声を掛けて、断られて、自分を責めて落ち込んだ姿をみているからこそ、俺はどっちの味方もできずにいる。


「でもね、今はそれよりも嬉しいって気持ちの方が強いんだよ」


優しい声で、ふわりとした笑顔でそう言う。桜も顔を上げる。


「ずっと話したいと思っていて、また話せたんだもん」


そう言って千夏は桜に抱き着いた。二人は互いの体温を感じるように抱き合って。


「私もずっと話したいと思っていた。でも、迷惑かけちゃうかなって、思って」


目に涙を浮かべながら桜がそう言う。その思いが俺にも伝わってきて、つられて込み上げてくるものがある。それは千夏だってそうで。


「迷惑じゃないよぜんぜん」


そう言って涙を流しながら抱き合っていた。しばらくの間、二人は互いを支えあうようにして、互いの顔を見て笑い出す。


「にしても悔しいな私」

「なにが?」


桜がそう言うと、頬をぷくっと膨らましながら俺の方を見てくる。


「連がきっかけで桜と仲良くできることが」

「でも、千夏がいなかったらきっと勝負に踏み出すことができなかった。頼りになる二人がいたから俺は一歩踏み出せたんだよ」

「まぁ、役に立ったならいいけど」


そう頬を膨らませつつも千夏はどこか満足そうに笑みを浮かべる。そんな彼女に真っ直ぐな感情を桜は伝える。


「私は千夏と雫がいたからクラスに関わるきっかけをくれたと思っている」

「……それならいいかな」


そう言って千夏は桜の頭をなでる。こうしてみると姉妹のように見えるななんて思いながら見つめていると教室のドアが開く。皆の視線の先には雫がいた。驚いたようにこちらを見つめる彼女は、こちらをジッと見つめる。力が抜けたのか、カバンは肩からズレ落ちた。俺達の様子を伺いながら、こちらに近づいてくると、一言。


「ズルい」


桜と千夏と顔を見合わせるが、何がだろうかと思っていると。


「どうして先に、仲直りしているんですか」


俺達をジッと見つめるその表情に無言の圧力を感じる。やっぱり事前に伝えておくべきだっただろうか……そんな後悔をする。


「えっと、示し合わせたりとかはなくて、何となく桜が早く来るかなと思って」


俺がそういうとジッと見つめる。


「連君は確信をしていたんですよね、いつも一番遅く来るのに……」

「まぁ、そうだな。でも、こういうのって事前に伝えるのもアレだし」


完全に自分でもいい訳だと思っているが、何とかならないだろうか……そう見つめるがダメそうだった。


「千夏は知っていたんですか?」

「私は知らなかったよ。でも、何となく桜なら早く来る気がしたから」


本当だと察したのか、次の視線は桜へと向かう。


「桜も桜です。言葉を重要視するのは分かります。でも、先に電話でもメッセージでも伝えてほしかった」

「ごめんなさい、雫。どうしても直接伝えたかったの」

「それで、他にいうことは」

「仲良くしてくれたのに無視してごめん、私の為に作ってくれたのに、その好意を踏みにじってごめん」

「うん。許します」


そういって、桜の頭をなでる。


「私もごめんなさい。球技祭の時に、力になれなくて」

「そんなことないよ……それに、教室では私の味方になってくれた」

「なら、お相子です」


そういって手を差し出す。にっこりとした笑顔で。差し出された手を桜も握る。見つめあう視線の先でどこか通じ合っているような気がする。


「それじゃあ、みんな仲直りできたようで何よりだな」

「私はまだ連のことを許してないです」

「……ははは」


雫の言葉に乾いた笑みしか浮かんでこなかった。普段おとなしい子が起こるとこんなにも怖いんだと理解させられる。千夏は俺が悪いからしかたないという視線で見つめている。逆に桜は自分が悪いと思っているんだろう。どうしようとあたふたしている様子がかわいかった。


「今、別のこと考えてますよね」

「ごめんなさい」


鋭い視線に俺は頭を下げることしかできない。


「バツとして、3日間連君とは口をききません」

「どうにか、口をきいてくれないでしょうか。この通り」


そういって俺は深く頭を下げる。数秒間何の反応がないから顔を上げたくなるが、我慢をする。


「なら、また私達にデザートをおごってください。こんどは三人で」


俺は顔を上げて雫の顔を確認する。その表情をみて察する。そこに怒りの気持ちはなく、単純に温かく、満足そうな表情があって、単純にまた話し合える場が欲しいんだろうということに。


「もちろんだよ」

「じゃな、今度はもっと高い所にしよう」

「流石に遠慮なさすぎでしょ」

「いいですね」

「雫まで……」


彼女達のノリに合わせていると、桜が心配するように口を開く。


「連だって反省しているようだし、流石におごってもらうのは……むしろ私が……」

「落ち込んでいるのは冗談みたいなもんだから、気にしないで大丈夫だよ。それに資金には余裕があるから」

「でも、流石に悪いよ」


そう落ち込む彼女を見ているとこちらまで、悪い気がしてくる。だから……


「千夏と雫には色々手伝ってもらったお礼をしたいし、一人だけおごらないのも悪い気がする。それに、奢る方も気分がいいんだよ」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫」


桜は本当だろうか?と俺の目を見つめてくる。その真意が伝わったのだろうか、彼女は視線を外して、顔を背ける。


「にしても、たった一日でこんなに雰囲気が変わるなんて二人の間で何があったんでしょうね」

「何もないよ……ね。桜」

「……う、うん。なにも……ないよ」

『あやしい』


流石に家にまで上がってもらった何て言えるわけもなかった。千夏と雫が俺達を見つめているとタイミングがいいのか、それとも問題を先延ばしにしただけなのかは分からないけれど・・・。そんなことを考えていると、生徒の話し声が聞こえてくる。


「他の生徒も来たし、雫は鞄を回収しないと」

「……そうでした」


桜の方はどこか緊張していて、少し身体が震える。その様子に俺も、ごくりと唾を飲み込んでみんなが来るのを待つのだった。

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