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第九話

午前一時三十二分。

湊は無意識に時計を見る。

電話は鳴らない。

鳴らないことに、以前ほどの不安はない。

ただ、空白がある。

その夜、外来予約のない時間帯に、結衣がふらりと現れた。

「今日は飲んでません」

第一声がそれだった。

「報告?」

「うん。電話もしてません」

少し誇らしげだ。

「理由は」

「八十までいったけど、五十で止まりました」

「どうやって」

「この前みたいに、声に出しました」

診察室の椅子に座り、結衣は視線を落とす。

「“消えたくなりました”って、自分で言ったら、ちょっと笑えて」

「どうして」

「大げさだなって思えて」

完全ではない。

ゼロでもない。

だが、薬は窓の外に投げられず、

シートも開かれなかった。

「参加してる感じは」

「六十点くらい」

湊は小さく頷く。

電話が鳴らなかった夜は、

失敗ではなく、成長かもしれない。

「次は四十で止められるといい」

「うん。先生は、何だかお疲れみたい」

湊は結衣の言葉にドキッとするが、誤魔化す。

「寝不足だ」

「そっか、お疲れ様。私、帰るね」

結衣は自分の足で帰る。

夜は、静かに過ぎる。

それなのに。

湊の胸の奥のざわつきは消えない。

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