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第七話

診察室に静寂が落ちる。

湊は椅子に深く腰をかける。

参加してる感じ。

その言葉が、胸の奥に引っかかる。

ふいに、光景が重なる。

白い天井。

救急外来の強い照明。

ストレッチャーの軋む音。

——十五年前。

妹の手首。

包帯の下に滲む赤。

「消えたかっただけ」

あのときも、同じ言葉だった。

自分はただの高校生で

何もできなかった。

兄として何を言えばいいのか分からなかった。

“死なないで”としか言えなかった。

結果、妹は生きている。

だが今も、完全に回復したわけではない。

胸が、急に狭くなる。

呼吸が浅い。

診察室の空気が、少し足りない。

湊はネクタイを緩める。

さきほどの四十六歳男性の顔が重なる。

妹の顔が重なる。

結衣の顔が重なる。

救えた。

救えなかった。

まだ途中。

境界が曖昧になる。

——もしあのとき、別の言葉を知っていたら。

鼓動が速い。

ナースステーションの笑い声が、遠くに聞こえる。

昼は、普通に進んでいく。

湊は両手で顔を覆い、数秒間じっとする。

医師である前に、兄だった。

兄である前に、ただの人間だった。

やがて、深く息を吸う。

吐く。

もう一度。

動悸はゆっくり収まっていく。

ポケットの携帯が震える。

一瞬、心臓が跳ねる。

画面を見る。

院内PHS。業務連絡。

電話ではない。

それでも、ほんのわずかに安堵する自分がいる。

湊は立ち上がる。

夜はまた来る。

約束が守られる夜も、

破られる夜も。

それでも。

ここにいる。

それしか、できない。

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