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追放された雑用科の俺が、辺境で領地経営を始めたら王国も教会も手出しできなくなった  作者: 空城ライド


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第25話 追放者の領地

 朝の市場は、静かに賑わっていた。


 怒号はない。

 剣の音も、祈りの唱和もない。


 代わりにあるのは、

 値段を交渉する声と、

 焼き立てのパンの匂い。


 それが、

 この領地の今の姿だった。


「……本当に、普通ですね」


 ミレイアが、籠を抱えながら呟く。


「普通であることが、

 一番難しい」


 俺は、そう答えた。


 ここに来た当初、

 この土地は“生き残るだけ”で精一杯だった。


 今は違う。


 暮らしている。


 市場の端では、

 王国の商人と、

 教会領から来た行商人が、

 同じ卓を囲んでいた。


 互いに、身分も立場も違う。


 だが、

 この地では関係ない。


 規則は、一つ。


 ここでは、全員が利用者だ。


 自警団が、巡回している。


 だが、

 威圧する様子はない。


 声を荒げることも、

 武器を誇示することもない。


 それでも――

 誰も、規則を破ろうとはしなかった。


 理由は単純だ。


 ここは、守られる場所ではなく、

 守ってきた場所だから。


「レインさん!」


 声をかけられ、振り返る。


 元は難民同然だった男が、

 今は店を構えている。


「今月も、

 通行税の帳簿、問題ありません!」


「ありがとう」


 それだけで、十分だ。


 命令も、威圧も、必要ない。


 昼前。


 小さな広場で、

 子どもたちが走り回っている。


 剣の稽古ではない。

 魔法の訓練でもない。


 ただの、遊びだ。


 それを見て、

 俺は無意識に息を吐いていた。


(……ここまで来たか)


 ドランが、隣に立つ。


「王国から、

 また“様子見”の使者が来てる」


「追い返したか?」


「いや。

 普通に通した」


 それでいい。


 隠す必要も、

 誇る必要もない。


「なぁ」


 ドランが、低く言う。


「あんた、

 結局、何者になったんだ?」


 唐突な問いだった。


 だが、

 答えは、前から決まっていた。


「……何者でもない」


 俺は、そう答えた。


「王ではない。

 貴族でもない。

 聖人でもない」


 肩をすくめる。


「ただの、

 追放者だ」


 ドランは、目を細めた。


「それで、

 ここまで作ったのか」


「ああ」


「変な奴だな」


「よく言われる」


 午後。


 商人トルバが、

 次の交易計画を持ってきた。


「王国を迂回するルート、

 完全に定着した」


「問題は?」


「ない。

 ……だからこそ、

 王国が苛立ってる」


「放っておけ」


 それが、最も効く。


 夕方。


 丘の上から、

 領地全体を見渡す。


 柵はあるが、

 城壁ではない。


 旗も、紋章もない。


 だが――

 人は、確かに集まっている。


 ミレイアが、隣に来る。


「……学園にいた頃、

 こんな未来、想像できました?」


「無理だな」


 即答した。


「そもそも、

 “未来”を考える余裕がなかった」


 生き延びるだけで、精一杯だった。


「でも」


 ミレイアは、微笑む。


「今は、

 みんな“明日”の話をしてます」


 それが、答えだった。


 統治の成果は、

 数字や軍事力じゃない。


 人が、明日を語れるかどうかだ。


 夜。


 焚き火の前で、

 俺は一人、考える。


 王国は、まだある。

 教会も、健在だ。


 この領地が、

 世界を変えたわけじゃない。


 だが――

 選択肢を一つ、増やした。


 それでいい。


 追放された雑用科の俺は、

 王にも、英雄にもならなかった。


 だが、

 誰にも奪われない場所を作った。


 剣で征服せず、

 祈りで縛らず、

 ただ――

 仕組みで守った。


 ここは、

 王国の外側。


 だが、

 世界の外側ではない。


 誰もが通り、

 誰もが利用し、

 誰もが支配できない場所。


 追放者の領地だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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