第24話 教会は、名を残すことを選ぶ
その日、教会の一行は、武装していなかった。
白と金の法衣。
掲げられたのは、剣ではなく聖印。
見張りの報告を聞いた瞬間、
俺は、ある程度の予想を立てていた。
(……来るなら、今だ)
広場に集まったのは、
領民、自警団、商人。
そして、教会側の代表として現れたのは――
前に来た巡察官セリスではなく、
さらに位の高い、老司祭だった。
その立ち居振る舞いだけで、分かる。
これは、交渉ではない。総括だ。
「祝福あれ」
老司祭は、穏やかに頭を下げた。
「この地が、
秩序を保っていると聞いた」
「ありがたい評価です」
俺は、過不足なく返す。
「教会として、
いくつか確認したい」
「どうぞ」
拒む理由はない。
「この地は、
教会の保護を拒んだ」
「はい」
「だが、
信仰そのものは、拒んでいない」
「ええ」
老司祭は、ゆっくりと頷いた。
「つまり――
信仰を“道具”にはしていない」
その言葉に、
周囲の神官たちが、僅かに息を呑む。
教会にとって、
それは最大級の評価だった。
「教会は、
争いの場に祝福を置くことを嫌う」
老司祭は、続ける。
「だが、
秩序があり、
人が生き延びている場所を
無視することもできない」
つまり――
完全な敵対も、
完全な支配も、
選ばないということ。
「結論を、述べる」
老司祭は、静かに言った。
「この地を、
聖教会公式記録に記載する」
ざわめきが起こる。
「名称は?」
誰かが、思わず聞いた。
老司祭は、俺を見てから答えた。
「“中立地帯・レイン管理区”」
俺は、何も言わなかった。
それでいい。
「祝福は、
この地の秩序そのものに与える」
それは、
土地でも、
権力者でもない。
仕組みへの祝福だった。
「ただし」
老司祭は、条件を付けた。
「教会は、
この地に常駐しない」
完全な撤退。
だが――
敵対もしない。
「記録に残すことで、
我々は責任を果たす」
それが、教会の選択だった。
会合が終わり、
人々が散り始める。
セリスが、最後に近づいてきた。
「……お見事です」
「敗北ではない」
俺は、静かに答える。
「お互い、
欲しいものを得ただけです」
彼女は、苦笑した。
「教会は、
“名”を得ました」
「ええ」
「あなたは?」
「……時間です」
それが、最も価値のある資源だった。
夜。
焚き火の前で、
ミレイアが呟く。
「教会が、
引いたんですね」
「引いたわけじゃない」
俺は、首を振る。
「記録したんだ」
それは、
消せないという意味でもある。
ドランが、腕を組む。
「これで、
王国も教会も、
正面からは来ねぇな」
「ああ」
「じゃあ、
この先は?」
俺は、しばらく考え――答えた。
「……日常だ」
戦争も、
陰謀もない。
だが――
それこそが、勝ちだ。
この地は、
奪われなかった。
支配もされなかった。
だが、
歴史には、刻まれた。
教会は、
それを選んだ。
名を残すことで、
争いを終わらせる。
そして――
この中立地帯は、
世界の“前例”になった。
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