第23話 王国は、潰せないと悟る
王都の会議室は、静まり返っていた。
円卓を囲むのは、
宰相、軍務卿、財務卿、教会連絡官。
そして――第二王子の席は、空いている。
「……例の辺境領地の件だ」
宰相が、低く切り出した。
「“中立地帯”を名乗り、
王国の補給要請を拒否した」
軍務卿が、不快そうに鼻を鳴らす。
「拒否?
ただの管理者風情がか」
「問題は、そこではない」
財務卿が、帳簿を閉じながら言った。
「すでに商人が、
あの地を経由する前提で
取引計画を組んでいる」
空気が、僅かに重くなる。
「軍を出せばいい」
軍務卿が、短く言った。
「小規模で十分だ。
見せしめになれば――」
「ならない」
宰相が、即座に遮った。
「なぜだ?」
「理由は三つある」
宰相は、指を立てる。
「一つ」
「教会が、正面から反対する」
教会連絡官が、頷いた。
「中立地帯での軍事行動は、
教会の立場上、支持できません」
それは、事実上の拒否だ。
「二つ」
宰相は、続ける。
「商人が動く」
財務卿が、補足する。
「街道が止まれば、
税収に即影響が出る」
今や、あの領地は
“迂回できない場所”になりつつある。
「三つ」
宰相は、言葉を選んだ。
「……民意だ」
軍務卿が、眉をひそめる。
「辺境の話だろう」
「違う」
宰相は、首を振った。
「“王国でも教会でもないが、
安全な場所がある”という噂は、
すでに王都にも届いている」
それは、
秩序の正当性を揺るがしかねない。
「つまり」
財務卿が、結論を出す。
「潰すと、
失うものの方が大きい」
沈黙。
軍務卿は、舌打ちした。
「……厄介な場所だ」
「その通りだ」
宰相は、淡々と言う。
「だが――
厄介であることと、
危険であることは違う」
今のところ、
反王国を掲げてはいない。
「では、どうする?」
誰かが、問う。
宰相は、答えた。
「監視だ」
「介入は?」
「最小限に」
手を出せば、
火種になる。
「利用できるなら、利用する」
それが、王国の判断だった。
その時、扉が開いた。
第二王子が、ゆっくりと入ってくる。
「結論は出たようだね」
誰も、咎めない。
彼は、空席に腰を下ろした。
「潰せない、だろう?」
宰相が、静かに頷く。
「はい」
「当然だ」
第二王子は、笑った。
「彼は、
“敵になる準備”を一切していない」
軍務卿が、怪訝な顔をする。
「それが、何だ?」
「だからこそ、
こちらから敵にする理由がない」
そして、続ける。
「むしろ――
敵に回す理由を、
彼は一つも与えていない」
それが、最も厄介だった。
「放置するのか?」
「いいや」
第二王子は、首を振る。
「理解する」
そして、静かに言った。
「彼は、
王国の外側に“答え”を作っている」
誰も、すぐには理解できなかった。
一方、その頃。
辺境の領地では、
いつも通りの朝が始まっていた。
市場が開き、
人が行き交う。
剣は抜かれず、
怒号もない。
だが――
秩序は、確かにある。
ミレイアが、帳簿を持ってくる。
「……商人の通行量、
また増えてます」
「当然だ」
俺は、頷く。
「安全は、
一度証明されると、
人を呼ぶ」
ドランが、低く笑った。
「王国、
動けねぇだろうな」
「ああ」
俺は、空を見上げる。
「動いた瞬間、
“間違い”になる」
それでいい。
この領地は、
勝ったわけじゃない。
征服したわけでもない。
ただ――
潰せない存在になった。
それだけで、
十分だった。
遠く離れた王都で、
王国は悟った。
あの辺境は、
もはや“管理対象”ではない。
――扱いを誤れば、
国の方が傷つく場所だ。
それが、
この物語の、
一つの到達点だった。
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