第22話 中立地帯の宣言
その宣言は、
誰かに許可を取って行われたものではなかった。
だが――
誰にも、無視できるものでもなかった。
昼。
広場には、再び人が集められた。
領民、自警団、商人。
そして、王国と教会の使者。
空気は、昨日とは違う。
怒りでも、緊張でもない。
警戒だ。
皆が理解している。
今日、ここで何かが決まる。
俺は、壇の前に立った。
大げさな演出は、しない。
声を張り上げることも、ない。
「この地について、
一つ、はっきりさせる」
それだけで、
全員の視線が集まった。
「この領地は、
王国の軍事拠点ではない」
王国側の使者が、僅かに動く。
「同時に、
教会の聖域でもない」
教会側の司祭が、目を細めた。
どちらにも、
平等に線を引く。
「だが――」
俺は、続ける。
「誰の土地でもない、
という意味ではない」
間を置く。
「ここは、中立地帯だ」
その言葉が、
静かに、だが確実に広がった。
「中立とは、
誰の味方でもないということではない」
誤解を、先に潰す。
「誰かの争いを、
ここに持ち込ませないということだ」
戦場でも、
交渉の道具でもない。
「この地では、
三つの規約を定める」
俺は、指を立てた。
一つ。
「武装の制限」
「正規兵、騎士団、傭兵。
所属を問わず、
大規模武装での立ち入りは禁止する」
ざわめき。
「護身用は認める。
だが――
戦う準備をして来る者は、
入れない」
明確だ。
二つ。
「通行と滞在の規約」
「通過は自由だ。
交易も認める」
商人たちが、息を呑む。
「だが、
滞在するなら、
この地の規則に従ってもらう」
特権は、ない。
三つ。
「裁定権は、この地にある」
ここで、空気が変わった。
「王国法も、教会法も、尊重する」
一拍、置く。
「だが――
この地で起きた問題は、
この地で裁く」
逃げ道は、与えない。
「違反した場合」
俺は、はっきり言った。
「所属、身分、役職を問わず、
排除する」
それは、
処罰でも、復讐でもない。
運用の宣言だ。
沈黙。
最初に口を開いたのは、商人だった。
「……安全は、保証されるのか?」
「保証する」
即答した。
「だから、ここを作っている」
安全でなければ、
中立など成立しない。
王国側の使者が、低く言う。
「……それは、
事実上の独立宣言ではないのか」
俺は、首を振った。
「国を名乗らない」
「旗も掲げない」
だから――
「これは、
支配を拒否する宣言だ」
征服も、統治も、望まない。
ただ、
踏み荒らされることを拒む。
教会側の司祭が、ゆっくりと言った。
「……祝福は?」
「拒まない」
即答する。
「だが、
信仰の強制はしない」
ここは、
祈る場所ではなく、
生きる場所だ。
再び、沈黙。
だが、今回は違った。
誰も、反論しない。
反論できない。
なぜなら――
すでに機能しているからだ。
守れている。
回っている。
人が集まっている。
机上の理想ではない。
会合が終わり、
人々が散り始めた後。
ミレイアが、小さく言った。
「……言い切りましたね」
「ああ」
俺は、頷く。
「中途半端が、一番危険だ」
ドランが、腕を組む。
「もう、
引き返せねぇな」
「最初から、
戻る気はない」
俺は、静かに答えた。
夕方。
商人トルバが、近づいてきた。
「……正直に言う」
「?」
「王国でも、教会でもない場所は、
面倒だ」
「承知している」
俺は、笑う。
「だが――
必要だろう?」
トルバは、苦笑した。
「……ああ」
それが、答えだ。
夜。
領地に、静かな灯りがともる。
剣は抜かれない。
祈りも、強制されない。
だが――
秩序は、確かにある。
(これでいい)
中立は、逃げではない。
選び続ける覚悟だ。
この地は、
どこにも属さない。
だが、
誰にも踏みにじらせない。
それだけは、
はっきりと示した。
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