第21話 流血の責任は、誰のものか
夜明けの空は、妙に静かだった。
昨夜、確かに血は流れた。
だが、死者はいない。
それが――
この事態を、より厄介にしている。
広場には、人が集まっていた。
自警団、領民、商人。
そして、外から来た“使者”たち。
王国側と、教会側。
どちらも、
「自分たちは関係ない」という顔をしている。
(予想通りだ)
誰も、責任を取りたがらない。
だが――
誰かが、火をつけた。
「昨夜の件について、説明を求めたい」
王国側の使者が、硬い声で言った。
「我々の兵が関与した事実はない。
むしろ、教会側の過激派ではないのか?」
即座に、教会側が反発する。
「心外ですな。
我々は、武装した巡察など送っていない」
静かながら、鋭い。
「王国の傭兵が勝手に動いたのでは?」
空気が、ぴんと張り詰める。
互いに、目を逸らさない。
だが――
どちらも、決定打は出さない。
(ここまでは、茶番だ)
俺は、一歩前に出た。
「犯人探しは、しない」
その一言で、場が静まる。
王国の使者が、眉をひそめた。
「……何を言っている?」
「言葉通りだ」
俺は、淡々と続ける。
「どの勢力が関与したか。
誰の命令だったか」
肩をすくめる。
「それを追えば、
この場は“責任の押し付け合い”で終わる」
そして、何も解決しない。
「重要なのは、そこじゃない」
俺は、全員を見渡した。
「ここで、
武力が使われたという事実だ」
ざわめきが起きる。
「所属がどこであれ、
この地で血を流せば、
それは“この地の問題”になる」
王国でもない。
教会でもない。
「――この領地の問題だ」
「待て」
教会側の司祭が、低く言う。
「それは、
教会法を無視するという宣言か?」
「違う」
俺は、即答した。
「教会法も、王国法も、否定しない」
一拍、置く。
「だが――
この地では、この地の基準で裁く」
空気が、凍る。
それは、
誰にも属さないという宣言であり、
同時に、
誰の庇護も受けないという宣言だった。
「……傲慢だな」
王国の使者が、吐き捨てる。
「承知している」
俺は、目を逸らさない。
「だが、
誰かの顔色を窺って裁くなら、
最初から中立など掲げない」
言い切った。
「では、どう裁くつもりだ?」
問いが飛ぶ。
俺は、答えを用意していた。
「行為で裁く」
所属ではない。
肩書でもない。
「武装して侵入した。
威圧した。
攻撃した」
「それらは、
この領地では禁止行為だ」
たとえ王国の兵であろうと。
たとえ教会の騎士であろうと。
「今回の件は、
防衛として処理する」
俺は、続ける。
「捕縛者は、解放する。
だが――」
視線を、使者たちに向ける。
「次はない」
その言葉に、
はっきりと重みを乗せる。
「次に同様の行為があれば、
所属を問わず、排除する」
それは、脅しではない。
規則の提示だ。
沈黙。
王国側は、明らかに苛立っている。
教会側は、慎重に表情を隠している。
(……どちらも、引いたな)
完全な勝利ではない。
だが――
“自由に動ける場所”ではなくなった。
それで十分だ。
会合が終わった後。
ミレイアが、小さく息を吐いた。
「……怒らせましたよね」
「当然だ」
俺は、苦笑する。
「でも――
“怒っていい相手”として見られた」
それは、立場が変わった証拠だ。
ドランが、腕を組んで言う。
「もう、
若い管理者扱いはされねぇな」
「ああ」
俺は、頷いた。
「これからは、
厄介な存在だ」
それでいい。
夜。
焚き火の前で、俺は一人考える。
責任を追及しなかった。
犯人も、名指ししなかった。
だが――
基準は示した。
この地では、
誰であっても例外はない。
それは、
最も嫌われる裁き方であり、
同時に、
最も信用される裁き方でもある。
(……もう戻れないな)
だが、後悔はない。
ここは、
誰かの庇護の下で生きる場所じゃない。
自分たちで、
立つ場所だ。
流血の責任は、
王国でも、教会でもない。
――ここで行動した者自身のもの。
それだけは、
はっきりさせた。
そして、世界はきっと理解する。
この領地は、
もう“好きに使える辺境”ではない。
――法を持つ場所だ。
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