第19話 最初に試されるのは、中立だった
試される時というのは、
こちらの準備が整った瞬間ではなく――
相手の都合が重なった時にやって来る。
その日は、朝から嫌な予感がしていた。
「……二方向から、来てます」
見張り役の声に、俺は即座に地図を見る。
街道の南。
王国側。
そして――北。
教会領寄り。
(同時か)
偶然ではない。
こちらの動きを見て、合わせてきた。
最初に到着したのは、王国側だった。
監察官バルドではない。
その護衛の一人だった男が、今度は代表として現れた。
「王国より、正式な要請だ」
ぶっきらぼうな口調。
「この領地を、
王国の補給中継地として指定する」
早速、来たな。
「条件は?」
俺が聞くと、男は即答する。
「税の減免。
兵の駐留。
物資の優先取引」
つまり――
事実上の軍事拠点化。
俺の視界に、警告が走る。
【中立維持困難度:急上昇】
「返答は?」
「検討する」
即答はしない。
男は、不満そうに鼻を鳴らした。
「猶予は、三日だ」
そう言い残し、去っていく。
(……短いな)
だが、予想通りだ。
入れ替わるように、教会側が到着した。
前回の巡察官セリス――
ではない。
今度は、年配の司祭だった。
「祝福あれ」
穏やかな声。
だが、その背後には、
武装した教会騎士が立っている。
(圧が、違う)
「この地が、
重要な位置を占め始めていると聞いた」
司祭は、ゆっくりと言う。
「教会としては、
正式な保護下に置く必要を感じている」
王国より、直接的だ。
「条件は?」
「結界の強化。
医療の常駐。
――教会法の適用」
それはつまり、
教会の裁量が及ぶということ。
拒めば、異端扱いすらあり得る。
「返答は?」
司祭が、穏やかに問う。
その背後で、騎士たちの視線が動く。
俺は、深く息を吸った。
(来たな)
中立を掲げた以上、
必ずこの瞬間は来る。
その日の夕方、俺は関係者を集めた。
自警団。
領民代表。
商人トルバ。
「選択を迫られている」
隠さず、そう告げる。
「王国につけば、
軍事的には安定する」
「教会につけば、
魔物被害は、ほぼ消える」
どちらも、魅力的だ。
だが――
「どちらかにつけば、
もう一方は敵になる」
沈黙。
誰も、それを否定できない。
「……選ばない、という選択は?」
ミレイアが、恐る恐る言った。
俺は、頷く。
「それが、俺の考えだ」
空気が、凍る。
「だが、それは――」
ドランが、低く言う。
「一番、危険だ」
「分かっている」
中立は、
誰の庇護も受けないという意味だ。
同時に、
誰にも借りを作らないという意味でもある。
「俺たちは、
どこかの“駒”になるために、
ここまで来たわけじゃない」
その言葉に、視線が集まる。
「ここは、
王国のための拠点でも、
教会のための聖地でもない」
俺は、はっきり言った。
「ここは、通過点だ」
皆が、息を呑む。
「人が通り、
物が通り、
情報が通る」
「だが、
支配は、通さない」
結論は、明快だった。
王国へは、こう返す。
「補給は認める。
だが、常駐は不可」
教会へは、こう返す。
「祝福は歓迎する。
だが、教会法の適用は不可」
どちらにも、半分だけ与える。
――そして、
決定的なものは与えない。
三日後。
王国側は、不満を隠さなかった。
「……虫がいい話だ」
「承知している」
俺は、頭を下げない。
教会側も、笑みを消した。
「……危うい道を選びましたね」
「慣れています」
それが、俺の答えだった。
その夜。
領地は、静まり返っていた。
「……本当に、大丈夫なんでしょうか」
ミレイアの声は、震えている。
「分からない」
俺は、正直に答えた。
「だが――」
焚き火を見る。
「ここでどちらかに付けば、
この領地は“消費”される」
中立は、
消費されないための選択だ。
その代わり、
常に試され続ける。
俺は、夜空を見上げる。
星は、どこにも属さない。
だが――
道を示す。
(この領地も、そうなる)
王国でもない。
教会でもない。
だが、
どちらにも必要とされる場所。
中立は、逃げではない。
最も重い覚悟だ。
そして――
その覚悟を、
世界は必ず試してくる。
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